表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
313/839

樹里ちゃん、自伝映画の第一部の宣伝にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今や世界に名だたる女優でもあります。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 いつもより早めに挨拶で割り込んで来た昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「おはようございます、樹里さん、瑠里ちゃん」


 何故か、保育所の男性職員の皆さんも、いつになく早めの登場です。


 そのせいで、不甲斐ない夫の杉下左京のシーンはあえなくカットされました。


「何でだよ!」


 無理矢理食い込んで来る左京です。必死過ぎて見苦しいと思う地の文です。


 ここで、お葉書の紹介です。(そんなものは来ていません  作者)


 北海道にお住まいのリッキー・テックスさん(六十歳)からの質問です。


 《地の文は、本当は作者ですよね? それ以外考えられません。》


 大変申し訳ありませんが、その質問にはお答えする事ができません。


 地の文がこの仕事を引き受ける時に作者と交わした二千ページにも及ぶ契約書の中で、秘密事項にされているのです。(そんな事実はありません  作者)


「意味のわからない事をするな!」


 暴走を続けるブレーキの壊れたダンプカーのような地の文に切れる左京です。


「今日は、映画の宣伝でテレビ局に行くので、車が迎えに来てくれます」


 樹里のその言葉に石化する眼鏡男達です。


(予想の遥か彼方をゆく樹里様のご発言。もはや神の領域だ)


 石となりながらも、感動の涙を流す眼鏡男です。


(ざまあ見ろ)


 眼鏡男達を鼻で笑っていた男性職員の皆さんですが、


「瑠里も一緒にテレビ局に行くので、今日は保育所はお休みさせてくださいと昨日連絡しました」


 樹里が笑顔全開で死刑宣告にも近い事を言ったので、凍りついてしまいました。


 またしても、保育所の女性職員の皆さんの策謀によって、無駄な労力を使ってしまった男性職員の皆さんです。


(男女雇用機会均等法は何のためにあるのだ?)


 奇妙な疑問を抱きながら、むせび泣く男性職員の皆さんです。


「では、行って来ますね、左京さん」


「いってくるね、パパ」


 樹里は長女の瑠里と手を繋ぎ、次女の冴里さりをベビースリングで抱いて、項垂れている左京に言いました。


「行ってらっしゃい」


 左京は更に深く項垂れて言いました。


 左京と眼鏡男達と男性職員の皆さんの作り出す魔のトライアングルから、新しい世紀末覇王が生まれそうだと思う地の文です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。冴里も笑顔全開です。


 そして、樹里達はテレビ局の車に乗り、出かけました。


 


 樹里達は何事もなく、いつものようにテレビ夕焼に到着しました。


「お待ちしておりました、樹里さん」


 指紋のないプロデューサーが高速揉み手を繰り出して出迎えました。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。冴里はすでに眠っています。


 樹里は控え室で冴里に授乳をすませて、瑠里と共にスタジオに入りました。


「今日はよろしくお願いします」


 女性アナウンサーの松尾彩が挨拶しました。


「よろしくお願いします」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「よろしくね」


 瑠里も深々とお辞儀をして、コロンと前転してしまいました。


「おお!」


 瑠里はスカートを履いていたので、イチゴのおパンツが見えてしまいました。


 危ない世界の男達が色めき立ったのは言うまでもありません。


「瑠里ちゃん、大丈夫?」


 松尾アナがびっくりして尋ねました。瑠里は笑顔全開で、


「だいじょぶだよ、おばちゃん」


 思った事を正直に告げました。松尾アナは様々な回路がショートして、再起不能になりました。


「おい、別のアナウンサーを呼んで来い!」


 担架で運び出される松尾アナを見ながら、高速揉み手のプロデューサーが言いました。


「はい!」


 慌てて走り出すADです。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開です。しかも、冴里が目を覚ましたので、樹里は授乳も全開です。


「うおお!」


 それを目の当たりにした男達が雄叫びを上げました。


 するとそこへ水を差すように女性が駆けて来ました。


 樹里の授乳タイムは終了しました。


 チッと舌打ちする男性スタッフです。


「申し訳ありません、私しか手が空いていないもので」


 やって来たのは、ベテランアナウンサーの中下陽子です。


「君なら安心だよ、中下君。取り敢えず、台本に目を通してくれ」


 プロデューサーはホッとして言いました。


「わかりました」


 中下アナは台本を読み始めました。


「では、樹里さん達はこちらに来てください」


 ディレクターが樹里達を誘導し、スタジオのセットへ向かいました。


「樹里さん、松尾が申し訳ありません、代役を務める中下陽子です」


 中下アナが樹里に挨拶しました。


「よろしくお願いします」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


 危ない世界の住人達は、また瑠里が前転をするのではないかと期待しました。


「本番五秒前です!」


 ADが告げました。


「よろしくね、瑠里ちゃん」


 中下アナは瑠里に笑顔で挨拶しました。瑠里も笑顔全開で、


「うん、おばあちゃん」


 その途端、中下アナが機能停止してしまいました。


 瑠里の「おばあちゃん」の由里と同世代の中下アナです。


 そして、凍りついたように動かない中下アナの引きつった笑顔で番組が始まりました。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ