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樹里ちゃん、ドロントとの対決のシーンを撮影する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、七百八の資格を持つママ女優でもあります。


 今日は樹里の自伝の映画の撮影のため、朝早くから五反田邸に来ている樹里です。


 夜明け前からの撮影のため、不甲斐ない夫の杉下左京は寝坊して来られませんでした。


「来てるよ! 樹里を送って来たんだよ!」


 あまりにも現実と違う事を言う地の文に切れる左京です。


 この変則的な動きのため、さすがの昭和眼鏡男と愉快な仲間達も読み切れず、今頃誰もいない樹里のアパートに向かっていると思うと、笑いが止まらない地の文です。


「じゃあ、樹里、頑張ってくれ」


 ずっとそばにいたかった左京ですが、長女の瑠里を保育所に送らなければならないので、帰宅します。


「はい、左京さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。左京を止める気はさらさらないようです。


 左京は顔で泣いて心で笑っています。


「それじゃあ、只のバカだろう!」


 地の文の感情表現のシュールさについていけない左京は切れました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


「ママ、ばんがってね」


 まだ間下こ○みちゃんと同じ事を言う瑠里です。


「ありがとう、瑠里」


 瑠里の言葉には涙ぐむ樹里です。やっぱり左京はその程度の存在でした。


「ううう……」


 相変わらず容赦のない地の文の意地悪に項垂れた左京は、瑠里に手を引かれて帰って行きました。


「樹里さん、本番です」


 助監督が樹里を呼びに来ました。


「そうなんですか」


 樹里は次女の冴里さりに授乳中でした。


「うお!」


 樹里のマシュマロをちょっとだけ見てしまった助監督は鼻血を必死になって止めました。


(樹里ちゃん、相変わらずおっぱいがでかい)


 泥棒の役をしている泥棒のキャビーはしばらくぶりに見た樹里の巨乳に目を見開きました。


「泥棒の役をしているメイドの目黒弥生です!」


 地の文の間違いを事細かに指摘する小姑体質の弥生です。


「三人共、本当にその服装、似合っていますよ」


 指紋がない人協会の会長でもあるプロデューサーがニコニコして言いました。


「そんな会長してねえよ!」


 地の文の気の利いたジョークに本気で切れる子供っぽいプロデューサーです。


「そうなんですか」


 ドロント役のドロントと、ヌート役の黒川真理沙と弥生が揃って樹里の口癖で応じました。


「私はドロント役の有栖川倫子です! それと、どうして真理沙だけまともに言うのよ!」


 倫子は真理沙に気がある地の文に嫉妬して切れました。


「嫉妬なんかしてないわよ!」


 更に切れる倫子です。モテる地の文はつらいと思う地の文です。


「お断わりします」


 またしても何も言わないうちに真理沙に拒絶されてしまった地の文です。


 しばらく、修行の旅に出ようと思う地の文です。


「それでは、まず最初にドロントの登場シーンから撮影します。有栖川さん、よろしくお願いします」


 監督が言いました。


「はい」


 何故か顔を赤らめて応じる倫子です。


(遂に銀幕デビューよ。これで田舎の両親に楽をさせる事ができるわ)


 昭和のくさいドラマのようなモノローグを勝手に入れてみた地の文です。


「迷惑よ!」


 倫子は余計な事しかしない地の文に切れました。


(ああ、私も遂に映画に出られるのね。護も観てくれるかしら?)


 結局似たような事を妄想する倫子です。さすが昭和生まれです。


「うるさいわね!」


 的確な指摘をしたはずの地の文に理不尽に切れる倫子です。


 元彼の名前は「護」のようです。


「元彼じゃありません!」


 顔を真っ赤にして地の文に抗議する倫子です。


(首領、やっぱり護さんと付き合っているんだ)


 半目で倫子を見ている真理沙と弥生です。


「そうなんですか」


 そこへ冴里を寝かしつけた樹里が現れました。


「ひい!」


 いきなり背後を取られた倫子は飛び上がって驚きました。


 驚き方まで昭和です。


「うるさいわね!」


 年齢に敏感な倫子は、そこばかり突いて来る地の文に切れました。


「有栖川さん、早く外の足場から天窓に昇ってください」


 助監督が促しました。倫子は苦笑いして、


「申し訳ありません」


 そう言うと、つい昔取った笹塚でバッとジャンプし、そのまま天窓まで上がってしまいました。


「それを言うなら、昔取った杵柄きねづかでしょ!」


 地の文に突っ込む倫子ですが、周りの空気がおかしいのに気づきました。


「あ!」


 そして、自分の失態に気づきました。下を見ると、項垂れている真理沙と弥生が見えました。


(まずい、まずい、まずい!)


 頭が一気にパニックになる倫子です。


(ドロントだってばれちゃったの?)


 嫌な汗をどっさりと掻く倫子です。


「お見事です、有栖川さん! そこまで役作りして来るなんて、びっくりしました!」


 監督が拍手をしてくれました。


「え?」


 キョトンとする倫子です。真理沙と弥生は顔を見合わせて苦笑いしています。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「あ、アハハ、そうなんです。ジムに通って身体を鍛えたんですよ」


 倫子は顔を引きつらせて笑い、右腕の力こぶを見せました。


「おお!」


 スタッフも共演者達も歓声を上げ、拍手してくれました。


「ありがとうございます!」


 それに手を振って応える倫子です。


「さすが、ドロントさんですね」


 樹里が小声で真理沙と弥生に言いました。二人は顔を引きつらせました。


(やっぱり、私達の正体、わかっているんでしょ!?)


 真理沙と弥生は泣きそうな顔で樹里を見ました。


 


 めでたし、めでたし。

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