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樹里ちゃん、とある親衛隊に左京を狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、日本屈指のママ女優でもあります。


 今日も樹里は次女の冴里さりをベビースリングで抱いて、出勤します。


「いってらしゃい、ママ」


 長女の瑠里が笑顔全開で言いました。すでに地の文には樹里と瑠里の見分けがつきません。


「行って来ますね、左京さん、瑠里」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「行ってらっしゃい」


 今日は何故か笑顔で応じる不甲斐なかった夫の杉下左京です。


「今日はまともな紹介だな。不甲斐ないをやめたのか」


 嬉しそうに呟く元夫の左京です。


「そういう意味で過去形か! 今現在もこれからもずっと夫だよ!」


 地の文のわかりにくいボケにも素早く反応して切れる左京です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。冴里も笑顔全開です。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 いつの間にか背後まで来て、スルッと入り込んだ昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


 二週続けてのカットが影響し、元々低い好感度が更に下がった眼鏡男達です。


「好感度など気にしていたら、樹里様達の護衛は務められません!」


 眼鏡男は胸を張って言い切りました。ハッと気づくと、樹里達に置いて行かれていました。


(ああ、久しぶりの樹里様の放置プレー。五臓六腑に染み渡る)


 変態道を極めたと思う地の文です。




(遂に突き止めたわ、御徒町樹里。貴女の住所を)


 電柱の陰からサングラスにマスクというあからさまに怪しい扮装で見ているもうすぐ四十歳の大野真千代です。


「年齢に触れるな!」


 地の文の紹介がお気に召さない真千代です。


 まだ日中は暑い日があるのに黒革のロングコートを着て、真っ赤な毛糸の帽子をかぶっています。


 その真千代の背後には、まさに背後霊のように同じ扮装の五人の女性がいました。


 彼女達は左京役の俳優の加古井かこいおさむの自称親衛隊員なのです。


(御徒町樹里には私達と同じ目に遭ってもらうわ。最愛の人を奪われる地獄)


 ニヤリとしましたが、マスクで表情がわからない間抜けな真千代です。


「うるさいわね、○貞!」


 また禁句を吐く真千代です。地の文はノックアウト寸前になりました。


 真千代は再起不能になりそうな地の文を放置し、樹里達が眼鏡男達と共にJR水道橋駅に向かうのを見届けると、瑠里と保育所に向かう左京に近づきました。


 左京はバカなので気づきませんが、瑠里は真千代達の怪しい雰囲気に気づき、振り向きました。


 途端に地面を這いずり始める真千代達です。


「コンタクトを落としたみたいなの。一緒に探して」


 すぐに嘘とわかる事を言って、その場をしのごうとする真千代とアラフォー親衛隊です。


「アラフォー言うな!」


 真千代が代表してもう復活した地の文に切れました。


「パパ、へんなひとがいるよ」


 瑠里が指を差して告げましたが、


「見ちゃダメだよ、瑠里」


 ステゴサウルス並みに鈍感な左京は言いました。


 一度中生代に戻って暮らした方がいいと思う地の文です。


「うるせえ!」


 地の文の悪口だけには敏感に反応する左京です。


「さ、急ごう、瑠里」


 左京は真千代達が気になる瑠里を引っ張るようにして保育所に向かいました。


 そして、何事もなく、左京は瑠里を保育所に預け、アパートへと戻ります。


 真千代達は左京が通り過ぎるまで、またコンタクトを探すコントを演じていました。


「コントじゃねえよ!」


 地の文の適当な情景描写に切れる真千代達です。


(まだ若そうなのに気の毒だな)


 左京は可哀想な人を見る目で真千代達を見てから、また歩き出しました。


(杉下左京が一人になったわ! チャンスよ!)


 真千代達は一斉にコートと帽子を脱ぎ捨て、バブル時代もびっくりなミニスカボディコンになりました。


 意味のない扇子も持っています。もちろん、髪型はワンレンです。


 道ゆく人がギョッとして真千代達を見ます。


 そして危険人物と判断したのか、猛烈な速さでその場から逃げて行きました。


(男はエロい格好をした女性に弱いのよ! 杉下左京は私達の虜よ!)


 妄想を膨らませて、真千代達は左京の前に立ち塞がりました。


「え?」


 突然現れた五人の時代遅れの女にキョトンとする左京です。


(ありさの悪戯いたずらか?)


 こんな時でも、バカな事をする女として思い出されてしまう一児の母の加藤ありさです。


「さあ、杉下左京、貴方はもう私達の虜になるのよ!」


 真千代が叫び、けたたましく笑いました。


「ありさじゃないな」


 聞き覚えのない声に眉をひそめる左京です。


 元犯罪者の勘が働きます。


「元警察官だよ!」


 地の文のちょっとしたミスに烈火の如く怒る左京です。


「どこがちょっとしたミスだ!」

 

 左京は順当に地の文の間違いを指摘しました。そして、


「お前ら、一体何者だ? いつの時代のファッションだよ?」


 真千代達を見渡して尋ねました。


(何だと? 私達の色気が通じないとは、こいつ、もしかして本当は男が好きなのか?)


 途方もない勘違いをする真千代です。


「撤収!」


 逃げる事風の如しの真千代達です。


「何なんだ、あいつら?」


 首を傾げて真千代達を見送る左京です。


「もしかして、どっきりか?」


 そして、カメラを探す間抜けです。


 


 その頃、樹里は無事に五反田邸に到着していました。


「では樹里様、お帰りの時、また」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は冴里を抱いたまま、深々とお辞儀をしました。


 その時、携帯が鳴りました。樹里は嬉しそうに通話を開始しました。


「左京さん、どうしましたか?」


 笑顔全開で尋ねる樹里です。


「樹里、帰りに気をつけろ。変な女の集団が現れたぞ」


 左京が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。冴里も笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。


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