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樹里ちゃん、映画の撮影にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、遂に復帰したママ女優でもあります。


 樹里の女優復帰を聞き、色めき立った人達がいました。


「何という事なの!? あの女、往年のアイドルでもないのに、あっさり芸能界に戻って来たりして!」


 それはもしかして、伊藤○さんの事でしょうかと尋ねたくなる地の文です。


「うるさいわね、○貞!」


 その人は絶対に口にしてはいけない事を地の文に対して言いました。


 立ち直れなくなりそうな地の文です。


「御徒町樹里、私達の王子様にこれ以上接触する事は許さないわよ!」


 ボロボロになるくらい歯軋りをして呟いたのは、以前、樹里を暗殺しようとして失敗した大野真千代とその一党でした。(樹里ちゃん、とある親衛隊に狙われる(前後編)参照)


 もう出所したのでしょうか?


「服役してないわよ!」


 地の文のボケに律儀に突っ込む三十九歳の真千代です。


「ばらすな!」


 実年齢を公表され、地の文に切れる真千代です。樹里の不甲斐ない夫の杉下左京と同い年とは驚きです。


「そこまで言うな!」


 年が一緒にしても、左京を比較対象にした事に憤りを感じているらしい真千代です。


「どうせ出すなら、せめて米○涼子にしてよね!」


 真千代は全然可愛らしさの欠片もないほっぺたを膨らませてねてみせるという仕草をしました。


 米○さんが嫌がると思ったので、伏せ字にした地の文です。


「とにかく、御徒町樹里と加古井王子との接触を阻止するわよ!」


 真千代はその他の党員とエイエイオーと今時流行らない掛け声を発しました。


 さすがもうすぐ四十代だと思う地の文です。


 


 その頃、樹里はいつものように次女の冴里さりをベビースリングで抱き、長女の瑠里と手を繋いで出勤です。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫の二乗の左京は、項垂れたままで言いました。


 樹里の自伝を原作にした映画に自分の役で出られない情けなさから、自棄やけ酒が過ぎ、樹里にお説教をされてしまったのです。


「左京さん、お酒はもうダメですよ」


 樹里は笑顔全開で告げましたが、左京はビクッとしました。


(樹里は実は怒ると怖いんだよな……)


 昨夜の事を思い出し、涙ぐむ左京です。


「パパ、いってきます」


 瑠里も笑顔全開です。


「行ってらっしゃい、瑠里、冴里」


 左京は悲しそうな顔で言いました。離婚した方がいいと思う地の文です。


「……」


 そんな地の文のボケにも突っ込まず、無言でアパートの部屋に戻る左京です。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 昭和眼鏡男と愉快な仲間達が、左京が退場したのを確認して登場しました。


「そんなつもりはありません!」


 口では否定する眼鏡男達ですが、目が泳いでいます。


「おはようございます」


「おはよう、たいちょう」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。冴里も笑顔全開です。


「樹里様、またいつぞやの妙な女達が樹里様のお命を狙っているとの情報を得ました。お気をつけください」


 眼鏡男は樹里に最接近して言いました。


「そうなんですか」


 樹里の吐息が顔にかかり、恍惚としてしまう眼鏡男です。


「は、いかんいかん!」


 我に返って、更に報告をしようとすると、樹里達はすでに歩き去っていました。


(吐息の後の放置プレー……。格別だな)


 眼鏡男はフッと笑いました。すでに変態の極致だと思う地の文です。


 


 そして、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


 今日は五反田邸での撮影があるのです。


「それでは、またお帰りの時に」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「樹里さーん!」


 そこへいつものようにいつものメイドがやって来ました。


「何よ、その紹介は!」


 地の文の投げやりな言い回しに抗議する目黒の秋刀魚さんまです。


「弥生よ!」


 思わぬ方向からのボケに見事に切り返す元泥棒です。


「それはやめてー!」


 弥生は涙ぐんで言いました。何故なら、今日は夫である目黒祐樹も来ているからです。


 懲役だけならまだしも、離婚されて子供とも会えなくなるのはえられないと思う弥生ですので、ばらそうかと思っている地の文です。


「鬼ー!」


 情け容赦のない地の文の企みに泣きながら叫ぶ弥生です。


「おはよう、樹里さん。今日は楽しみね」


 そこへ何故か上から目線作家の大村美紗が現れました。


 徘徊しているのでしょうか?


(今のは幻聴よ! 反応してしまうと病気の思う壷なのよ!)


 新しいお医者様の教えを忠実に守る美紗です。でも無駄だと思う地の文です。


(今のも幻聴なのよー!)


 更に堪える美紗です。


「私も私の役で出て欲しいとプロデューサーに懇願されたのよ。忙しいけど、仕方なく承知したのよ」


 美紗はこれでもかというくらいの上から目線で言いました。


 本当は美紗がプロデューサーを脅かして出番を作らせたのは内緒です。


「どうしてそういう事を喋ってしまうのよ!」


 美紗は近くにいた指紋のないプロデューサーの襟首をねじ上げました。


「ひいい!」


 何が何だかわからないプロデューサーは殺されると思いました。


「私達、こんな役で出てしまって大丈夫なんでしょうか?」


 黒尽くめの衣装を身に着けて、黒川真理沙ことヌートが、同じ衣装を身に着けている有栖川倫子ことドロントに小声で言いました。


「大丈夫なんじゃない? まさか、本物が出ているとは誰も思わないでしょ?」


 ドロントが肩を竦めて言うと、


「そうなんですか」


 いきなり背後に樹里が現れました。


「ひいい!」


 ドロントとヌートは今年一番の悲鳴を上げて飛び上がりました。


「樹里さん、早く結婚する頃の撮影がしたいですね」


 左京役の加古井かこいおさむが囁きました。


「そうなんですか」


 樹里も囁き返したので、加古井は鼻血を垂らしてしまいました。


 


 めでたし、めでたし。

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