表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/839

樹里ちゃん、スカウトされる?

 御徒町おかちまち樹里じゅりはメイドです。


 現在は、世田谷の大富豪である五反田六郎氏の屋敷で働いています。


 五反田氏は、樹里のおかげで幽霊騒動が収まり、家族が戻ってくれたので、ご褒美として彼女に有給休暇を一週間取らせました。


「ゆっくり休みなさい」


「ありがとうございます、旦那様」


 樹里は五反田氏に礼を言い、屋敷を出ました。


 彼女は母親の由里がいる新宿の実家に向かうため、小田急線に乗りました。


「やあ、君、可愛いね。モデルさん?」


 いきなり怪しい中年男性が話しかけて来ました。


「違います」


 樹里は笑顔で応じます。男性はニヤリとして、


「そうなの、それは驚いた。こんな可愛い人が、モデルさんじゃないのか」


「はい」


 樹里は全く警戒する事なく、応対します。


 この男性、どうやら怪しい仕事をしている人のようです。


(こいつは上玉じょうだまだ。その上、全く俺を疑ってない)


 男は、樹里を騙して一儲けしようと企んでいます。


「それじゃあ、私の事務所に遊びに来ない? お茶とケーキくらいなら出せるけど?」


「ありがとうございます。でも私、母のところに行く途中ですので」


 樹里はニコニコしながら断りました。


「ああ、そうなんだ。お母さんはどこにいるの?」


「新宿です」


 男はニヤッとしてから、


「なら大丈夫だよ。私の事務所も新宿だから。すぐにお母さんのところに行けるよ」


「そうなんですか」


 樹里は少し遅くなると由里に連絡し、その男について行く事にしました。




 男の事務所は、ビルの三階にあり、きれいなフロアです。


 但し、従業員は一人もいない、ガランとしたところでした。


「さ、かけて」


 男は樹里にソファを勧め、奥へ行きました。


「ムフフ、こいつはいい」


 男は冷蔵庫からケーキを取り出し、紅茶を入れます。


「ヒヒヒ」


 彼は狡猾な笑みを浮かべ、睡眠薬を紅茶に落としました。


「これで明日までおねんねで、明後日あさってには東南アジアか香港さ」


 男は人身売買のブローカーでした。


「お待たせ」


 男はニッコリして、樹里に紅茶とケーキを出しました。


「さ、食べて食べて」


「いただきます」


 樹里はケーキをパクッと一口で食べ、紅茶もググッと一息で飲みました。


「……」


 その豪快さに、男は唖然としましたが、


「お、早いねえ。もう一杯飲む?」


「いえ、これでおいとまします」


 樹里は笑顔全開で答えました。男はニヤリとして、


「でも、眠くないかい?」


「いえ、全然。ご馳走様でした」


 樹里はお辞儀をして、ソファから立ち上がりました。


「あ、ああ」


 男は状況が把握できないのか、呆然として樹里が帰るのを見ていました。


「どうして眠らないんだよ! くそ!」


 男はようやく我に返り、樹里を追いかけました。


「あんな上玉、逃がしてたまるか!」


 男が樹里に追いついたのは、ビルの前の歩道でした。


「待って、お嬢さん」


 彼は樹里に呼びかけました。


「誰だ、お前?」


 樹里の向こうに、どこかで見た事がある男が立っていました。


「げ、杉下……」


 そう、樹里のそばにいたのは、敏腕警部の杉下左京でした。


 男は、以前左京に逮捕された事があり、顔を覚えていたのです。


「ハハハ、何でもありません」


 彼は一目散にビルに逃げ込みました。


「誰だ、あいつ?」


 左京は人の顔を忘れる名人です。逃げなくても大丈夫でした。


「私にケーキと紅茶をご馳走して下さった方です」


「ほお。そうか。礼を言えば良かったかな?」


 左京は男が走り去った方を見て呟きました。


「とにかく、乗れ。由里さんのところまで乗せてくよ」


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔で応じました。左京も運転席に戻ると、助手席に相方の神戸蘭の髪の毛が落ちていないか確かめて、樹里を乗せました。


「どう行くんだっけ?」


「そこを右です」


「あ、そうだったな」


 左京はアクセルをゆっくり踏み込み、車をスタートさせました。


「次はどっちだっけ?」


 尋ねても樹里の返答がありません。


「え?」


 左京は肩に何かが寄りかかるのを感じて左を見ました。


「は……」


 樹里が居眠りをして、彼の方に倒れて来たのでした。


「こういうの、いいなあ……」


 左京の鼻の下が伸びたのは言うまでもありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ