樹里ちゃん、瑠里に嫉妬される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里は遂に第二子を出産し、それを亡き夫である杉下左京の墓前に報告しました。
「死んでねえし!」
地の文のモーニングジョークに大人気なく切れる心の狭い左京です。
「普通切れるよ!」
更に切れる左京です。そのまま本当にあちらに逝ってくれればいいのにと思う地の文です。
「うるせえよ!」
左京は体調がいいのか、続けざまに切れました。
「体調が悪くなるよ!」
新記録に挑戦するつもりなのか、まだ切れる左京です。
「付き合い切れん!」
記録は「5」で終わりのようです。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。
樹里は右手を瑠里と繋ぎ、次女の冴里は瑠里にも使ったベビースリングで抱いています。
「るりもだっこがいいなあ」
瑠里はスリングの中でスヤスヤ眠っている冴里を見上げて呟きました。
「パパが抱っこしてあげるよ」
左京が調子に乗って瑠里に言いました。
「調子になんか乗ってねえよ!」
細かい事にまでいちいち切れる了見の狭い男だと思う地の文です。
「パパはやーよ。ママがいい」
瑠里の素直な一言に項垂れる左京です。さすが全国嫌われ父親王選手権の覇者です。
「そんな選手権ねえよ!」
また切れる左京です。切れ納めでしょうか?
「不吉な事を言うな!」
左京が切れているうちに、樹里は瑠里を連れて保育所に向かっていました。
「樹里ー! 瑠里ー! 冴里ー!」
雄叫びを上げて号泣する左京です。
今回は昭和眼鏡男と愉快な仲間達とのいつものやり取りは省略されました。
樹里と瑠里を囲むように歩く眼鏡男達ですが、端から見ると完全につき纏うストーカーだと思う地の文です。
瑠里は口を尖らせて、樹里を見上げています。
(可愛過ぎます、瑠里様!)
瑠里命の親衛隊員の一人が危険な顔をしています。通報した方がいいと思う地の文です。
「そのようなつもりは些かもありません」
親衛隊員の一人は真顔で反論しました。でも、頬の筋肉がピクピクしているので、嘘が丸わかりです。
でも、決して臨床心理士の資格は持っていない地の文です。
「ママー」
瑠里が樹里の服の裾を掴んで言いました。
「何ですか、瑠里?」
樹里は笑顔全開で瑠里を見ました。
「おお!」
初めて見る右斜め四十五度からの樹里の笑顔に新鮮な驚きを感じる眼鏡男達です。
「るりもだっこちて」
瑠里が上目遣いでおねだりをしました。それを直視した瑠里派の親衛隊員は悶絶死してしまいそうです。
瑠里派ではない親衛隊員達も、その上目遣いに瑠里派になってしまいそうです。
あまりにも危険な兆候だと思う地の文です。
「瑠里はもうお姉ちゃんなのですから、我慢しないとだめですよ」
樹里は笑顔全開で告げました。すると瑠里は、
「おねえちゃんじゃなくていいから、だっこちて!」
更に強烈な上目遣い攻撃を放ったので、遂に瑠里派の隊員が気絶しました。
しかし、隊員の誰も彼を助けようとはしません。
「死して屍拾う者なし」が信条の親衛隊なのです。
「そんな我がままはだめですよ、瑠里」
樹里は笑顔を封印して、真顔になりました。
「おお!」
今度は眼鏡男達は樹里の凛々しい顔にドキッとしてしまい、心拍数が急上昇しました。
「だって、さりはだっこちてるのにるりはだっこちてくれないの、やだ!」
瑠里が更に駄駄をこねました。すると樹里はしゃがんで視線を瑠里に合わせました。
「瑠里。ママは冴里と瑠里をいっぺんには抱けないの。だから、今は我慢してね」
瑠里の頭を撫でながら笑顔全開で諭す樹里です。
「おおお!」
それを見て、更に鼓動が速くなり、緊急入院が必要になりかける眼鏡男達です。
「や! だっこちて!」
瑠里は涙ぐんで駄駄をこね続けます。樹里は溜息を吐き、立ち上がりました。
するとそれを見た眼鏡男が、
「瑠里様、我らが騎馬にお乗りくださいませ」
騎馬戦の要領で型を作りました。すると瑠里はそれを見て、
「いらない」
無情な一言を放ち、眼鏡男達は石化してしまいました。
「おはよう、瑠里ちゃん! 迎えに来たよ!」
するとそこへ、保育所の男性職員の皆さんが現れました。
「や!」
瑠里はそれも拒絶しました。一瞬にして石化してしまった男性職員の皆さんです。
「わがままを言ってはいけません、瑠里」
樹里が真顔で瑠里を見ました。すると瑠里はママが本当に怒っているのに気づいたのか、
「ごめんなたい、ママ」
ペコリと頭を下げました。樹里はまた笑顔全開になり、
「さ、行きましょう、瑠里」
「あい、ママ」
こうして、眼鏡男達と男性職員の皆さんは樹里達に置き去りにされました。
(これ程大規模な樹里様の放置プレー、素晴らしきかな……)
石化からいち早く復活した眼鏡男は癖になりそうなその行為を堪能しました。
「あっちゃん!」
しょんぼりしていた瑠里ですが、保育所に着き、一番仲良しの男の子である淳君に会うと、笑顔全開になりました。
「ママ、さり、バイバイ!」
あっちゃんとしっかり手を繋いで樹里を見送る瑠里です。
「行って来ますね、瑠里」
樹里は笑顔全開で応じました。
めでたし、めでたし。