樹里ちゃん、自伝の完成稿を受け取る
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
先日、樹里と瑠里ともう一人は、樹里の親友である船越なぎさとその恋人の片平栄一郎のために一緒になぎさの叔母である大村美紗の家に行きました。
「おい!」
もう一人が地の文に突っ込みました。時間差の攻撃に地の文はもう一人の腕を認めました。
「名前を言え!」
新しいボケ方を考え出した地の文に切れる左京です。
「離婚の事を言わなくなったと思ったら、次から次へと!」
結構根に持つタイプの左京です。
「当たり前だ!」
更に切れる左京です。でも、今日はこれで出番は終了です。
「何ーっ!?」
仰天する左京ですが、追加出演の予定は一切ない事を確認済みの地の文です。
「俺が何したって言うんだよ!?」
強引に台詞を放り込む左京ですが、地の文は無視しました。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
樹里と瑠里はそれでも笑顔全開です。そして、左京は退場しました。
「樹里様と瑠里様にはご機嫌麗しく」
そこへ入れ替わるように登場した昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。
「おはようございます」
「おはよ、たいちょ」
二人に挨拶され、眼鏡男は陶然としました。意味がわからないので辞書で調べる地の文です。
「左京さん、行って参ります」
「いってくるね、パパ」
樹里と瑠里に言われ、項垂れたままで手を振る左京です。
そして、全くいつも通りに何事もなく五反田邸に着いた樹里と瑠里です。
「ではまたお帰りの時に」
眼鏡男達は全くいつも通りに去りました。ワンパターンな奴らだと思う地の文です。
「ううう……」
背中で泣いている眼鏡男達です。
ところが、いつものようにエロメイドが現れません。
「おはようございます。樹里さん。弥生さんはさっき連絡があって、病院に行ったそうですよ」
そこへやって来たのは、現在地の文の中でナンバーワンの存在の黒川真理沙医師です。
その美しさと気品は本編では樹里に継ぐと思っている地の文です。
「樹里さんは大丈夫なんですか?」
真理沙は地の文の渾身の褒め言葉を完全無視です。お遍路の予約をしたくなった地の文です。
「大丈夫ですよ。まだ当分産まれそうにありません」
樹里は笑顔全開で応じました。
「るりもわかるよ。まだあかちゃんはでてこないよ」
瑠里も笑顔全開で言いました。真理沙は苦笑いして、
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で返しました。そしてハッと我に返り、
「そうそう。出版社の方がいらしてますよ」
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
本家の口癖のダブル攻撃にまた苦笑いする真理沙です。
樹里がメイド服に着替え、瑠里と一緒に応接間に行くと、熟年カップルがソファに仲良く並んで座っていました。
「熟年カップルじゃありません!」
全力全開で否定する鵜曽月出版の麻生津玖代です。
その隣で少しだけ悲しそうにしているルポライターの唐潮悦三です。
付き合っちゃえばいいのにと思う地の文です。
「あり得ません!」
もう一度これでもかというくらい力任せに否定をする津玖代です。
唐潮は既に泣きそうです。
「樹里さん、自伝が完成しました。ご主人のものも一緒にお持ちしましたよ」
津玖代は営業スマイル全開でバッグから綺麗な色に装丁されたハードカバーの樹里の自伝と、ペラッペラの薄い装丁で、一番安い紙で単色刷りで作られた左京の自伝を取り出しました。
出版社のやり方に悪意を感じる地の文です。熱血弁護士に訴えてもらいましょうか?
「そんな事はありません!」
白々しい事を言う津玖代です。さすが、嘘つき出版です。
「う・そ・づ・き、です!」
津玖代はもう誰もやらない某クリステルの真似で言いました。
それを白い目でみる唐潮です。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
樹里は自分の自伝を、瑠里は左京の自伝を受け取りました。
「樹里さんの自伝はすでに全国の書店から注文が殺到しておりまして、増版が決定しました。ですが、ご主人の自伝はまだ一冊も注文されていません」
津玖代が悲しそうな演技で言いました。
「演技じゃありません!」
真相を即座にお伝えしてしまう地の文に即座に切れる津玖代です。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
それでも樹里と瑠里は笑顔全開です。それを見て揃って顔を引きつらせる津玖代と唐潮です。
やっぱり付き合えばいいのにと思う地の文です。
「付き合いません!」
もう一度容赦なく完全否定の津玖代です。すると、
「僕は付き合いたいです!」
唐潮が顔を真っ赤にして捨て身の自爆告白です。
「まだ自爆してねえよ!」
先読みをして告げた地の文にイチャモンをつける渦潮です。
「誰が鳴門海峡だ!」
唐潮は一世一代の突っ込みをしました。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
樹里と瑠里はそれにも関わらず、笑顔全開です。
「え?」
津玖代はビクッとして唐潮を見ました。
「麻生さん、今すぐでなくてもいいです。お返事お待ちし……」
「お断わりします」
唐潮がまだ言い終わらないうちに断わる血も涙もない津玖代です。
「では樹里さん、確かにお渡ししました。では」
そして、サッサと部屋を出て行ってしまいました。
「……」
唐潮はそのまま真っ白に燃え尽きてしまいました。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
樹里と瑠里はそれでも容赦なく笑顔全開です。
めでたし、めでたし。