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樹里ちゃん、なぎさの新作推理小説をもらう

　御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。

　今日も、樹里は笑顔全開で出勤です。

「樹里様にはご機嫌麗しく」

　いつもより早めに現れる昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。

「樹里様、瑠里様、狙撃犯はまだ見つかっておりません。我らが命に代えてもお守り致します」

　敬礼して告げる眼鏡男です。

「そうなんですか」

「しょーなんですか」

　樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。

　狙撃犯は亡き夫の杉下左京の仇ですが、それにもめげずに笑顔を絶やさない樹里の健気さにウルッと来てしまう地の文です。

「死んでねえぞ！」

　どこかで浮気性が直らない左京が切れました。

「シリーズを間違えるな！」

　源氏物語と混同している地の文に突っ込む左京です。

　どうでもいいので無視する地の文です。

「無視するなー！」

　更に切れる左京です。いつもより台詞が多いので、大満足です。

「そうなんですか」

「しょーなんですか」

　それでも樹里と瑠里は笑顔全開です。

「おはようございます」

　前回は、女性職員の皆さんの策略で登場できなかった保育所の男性職員の皆さんが、いつもより随分早めに滑り込んで来ました。

「おはようございます」

　樹里は男性職員の皆さんに瑠里を託し、ＪＲ水道橋駅に向かいました。

　一言しか台詞がなくても、全力投球の男性職員の皆さんの好感度がアップしたと思う地の文です。

「ううう……」

　出演回数が遥かに多いにも関わらず、好感度が低い眼鏡男達は項垂れました。

　そして、樹里は何事もなく、五反田邸に到着しました。

「では、お帰りの時にまた」

　眼鏡男達は敬礼して去りました。

　背中で泣いているような気がする地の文です。

「おはようございます、樹里さん」

　目黒弥生が重そうなお腹を支えながら現れました。

　もうそろそろ産休を取って休めばいいのにと思う地の文です。

「何でよ！？」

　冷たい仕打ちをする地の文に弥生は涙目で抗議しました。

　結婚して、子供までできた女性には全く興味がない地の文です。

「あっそ」

　半目で言う弥生です。その目がいいと思い、悶えてしまう地の文です。

「変態かよ」

　呆れ顔で言う弥生です。そして、樹里に向き直り、

「船越なぎさ様がお見えです」

　ちょっと引きつりながら言いました。

「そうなんですか」

　樹里は笑顔全開で応じました。

　樹里が着替えをすませて応接間に行くと、ソファに座っていたなぎさが立ち上がりました。

「やっほー、樹里！　新作の推理小説ができたから、持って来たよ」

　脇に置いていたショルダーバッグの中から、ハードカバーの単行本を取り出しました。

（おお、遂にできたのか、私達をモデルにした小説が！）

　ドアを少しだけ開き、聞き耳を立てる弥生と黒川真理沙と有栖川倫子です。

　倫子はソワソワしています。内容次第では、ここを引き払わなければならないからです。

　皆さん、お忘れかも知れませんが、倫子は怪盗ドロントで、真理沙はその部下のヌート、弥生も部下のキャビーです。

「首領、船越さんは私達の正体を知ってはいませんから」

　真理沙が宥めましたが、倫子は、

「わからないわよ。あの子、時々鋭いから」

　苦笑いしている弥生です。

「『アサシンズコンサート』ですか」

　樹里は渡された小説のタイトルを読み上げました。

　どこかで聞いた事があるようなないようなタイトルだと思う地の文です。

「え？」

　顔を観合わせる倫子と真理沙です。弥生もキョトンとしています。

「そうだよ。世界中から殺し屋が日本に集まって戦うアクション推理だよ」

　なぎさの説明にポカンとしてしまう倫子と真理沙です。弥生も唖然としてしまいました。

「主役は五反田駅前にある水無月探偵事務所の三人の美人だよ」

　なぎさが説明を続けます。さらに口あんぐりの倫子と真理沙と弥生です。

「その話、訊かれてないし、話してないよね」

　倫子が真理沙に言いました。真理沙は苦笑いして、

「水無月探偵事務所の人達は、私達とは別の人の設定ですから、そんな話はしていません」

「それなのにどうしてあの子はそれを知っているの？」

　倫子が項垂れたままで尋ねました。

「わかりません……」

　真理沙はドアの向こうのなぎさを見て言いました。

「私達、このままここにいて大丈夫なの？」

　倫子がそう言った時、

「ああ、ここにいらっしゃいましたよ、なぎささん」

　また不意に樹里がドアを開いて言いました。またしても小さく悲鳴を上げてしまうドロント一味です。

「あ、ちょうどよかった」

　なぎさがきまり悪そうな顔で近づいて来ました。

　何だろうと焦るドロント一味です。

「ごめんなさい。企画の途中で話が変わってしまって、皆さんに訊いた事が無駄になってしまったんです」

　なぎさが頭を下げたので、意味がわからないドロント一味です。

「家庭教師とお医者様とメイドの三人が泥棒の話、ボツになりました」

　テヘッと笑うなぎさです。真っ白に燃え尽きそうになるドロント一味です。

「代わりに、五反田駅前に事務所を構える三人の美人探偵とその向かいに事務所を構える間抜けな男の探偵とのドタバタ推理コメディになりました」

　なぎさが言いました。

（杉下左京さんが一番可哀想なのね）

　心の中で左京を哀れむドロント一味です。

「そうなんですか」

　それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。

　めでたし、めでたし。