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樹里ちゃん、ありさの出産も祝う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田浪々師の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は愛娘の瑠里を連れて、保育所に向かいます。


 離婚が成立した直後に逮捕された元夫の杉下左京は今は東京拘置所です。


「捏造も大概にしろ!」


 どこかにいる左京が、手の込んだ小芝居をする地の文に力任せに切れました。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 それでも樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。


 父親がいなくても何も心配ないと思う地の文です。


「やめてくれー!」


 洒落にならない未来予想図を展開する地の文にブレーキランプで切れる左京です。


 でも、声の出演もここまでの左京です。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 そこへいつも通りに登場する実際には全く無用な存在の昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「ううう……」


 図星を突かれ、再起不能になりそうな眼鏡男達です。


 するとその時、樹里の携帯が鳴りました。


「はい」


 樹里が出ると、相手は脱獄囚の加藤真澄警部でした。


「せめて脱獄囚顔で止めてくれ!」


 加藤警部は間を省略した地の文に切れました。


「ありさの陣痛が始まって、病院に行ったそうです。申し訳ないのですが、自分の代わりに行っていただけませんか?」


 加藤警部が言いました。


 元夫の左京が生前世話になった加藤警部の頼みですから、聞かない訳にはいかない樹里です。


「死んでねえし、加藤になんか世話になってねえよ!」


 出演が終わったはずなのに強引に割り込んで切れる左京です。


「俺も世話なんかしてねえよ!」


 加藤警部も負けずに切れました。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。


 こうして、哀れな保育所の男性職員の皆さんの出演が全面カットになりました。


 声の出演すらできない男性職員の皆さんです。


「いいですよ、加藤さん」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ありがとうございます、樹里さん。このご恩は一生忘れません」


 加藤警部はどうやら泣いているようです。


「その代わり、私の時は、加藤さんが助けてくださいね」


 樹里が言うと、加藤警部はまたいけない妄想を始めてしまいました。


「は、はい……」


 どうやら鼻血が止まらなくなったようです。ありさに言いつけましょう。


「やめてくれー!」


 鼻ティッシュで懇願する加藤警部です。


 こうして樹里はありさが入院している病院に行きました。


 エロメイドと愉快な警備員さん達の登場も全面カットです。


「そのうち私も出産よ!」


 目黒弥生がやけっぱちの捨て台詞を吐きました。


 でも、黒川真理沙の方がいいと思う地の文です。


「今はそれは関係ないでしょ!」


 五反田邸の庭で一人で切れる哀れな弥生です。


 


 そして、無事に病院に着いた樹里親子です。


「では、お帰りの時、また」


 いつものように敬礼をして立ち去ろうとした眼鏡男達ですが、


「今日は帰れないかも知れないので、瑠里を母の所に連れて行ってくださいませんか」


 樹里のイレギュラーな申し出に驚愕する眼鏡男達です。


「了解しました。命に代えても瑠里様をご母堂の元にお送り致します」


 再度敬礼をする眼鏡男達です。


「よろしくお願い致します」


 樹里は深々とお辞儀をし、


「瑠里、皆さんに迷惑をかけないようにね」


「あい、ママ」


 健気に応じる瑠里を見て、涙ぐむ眼鏡男達です。


 樹里は瑠里を眼鏡男達に託すと、受付でありさが病室にいるのを確認し、そこへ向かいました。




「樹里ちゃん、来てくれて嬉しい!」


 ベッドの上にいるありさは涙ぐんで樹里を見ました。


「今は落ち着いたんだけど、またあの痛みが襲って来ると思うと、気が気じゃないわ……」


 ありさはいつもの元気は質にでも入れたのか、げっそりやつれています。


「質になんか入れてないわよ!」


 細かい事をボケる地の文にキチンと切れるありさです。


「ありさ、大丈夫?」


 そこへ平井蘭が夫の平井拓司警部補と共にやって来ました。


 蘭は超高齢出産なのでまだ入院中です。


「うるさい!」


 気にしている事を指摘した地の文に切れる蘭です。すっかり元気のようです。


「何とかね」


 ありさは力なく微笑みました。蘭はありさに近づいて、


「私にも乗り切れたんだから、あんたも大丈夫よ。気をしっかり持って、ありさ」


 手を握りました。


「うん。ありがとう、蘭」


 上辺だけの友情に目頭が熱くなる地の文です。


「違うわよ!」


 蘭とありさが見事にハモって切れました。その時です。


「ううう……」


 大声を出したのが悪かったのか、ありさが苦しみ始めました。


 樹里がナースコールボタンを押すと、すぐに看護師さん達が駆けつけ、ありさを分娩室に運ぶ準備を始めます。


「あわわ……」


 平井警部補はオロオロしています。


「加藤君は来られないの?」


 蘭が平井警部補を落ち着かせながら尋ねました。警部補はハッとして、


「はい。立て籠り犯を包囲している最中なので、抜けられないそうです」


「さっさと片付けて来なさいよね、全く!」


 蘭はイライラしていました。母乳の出が悪いようです。


「うるさい!」


 ずばりと指摘した地の文に切れる蘭です。どうやら当たりだったようです。


「ありささん、気をしっかり持ってくださいね」


 樹里はありさを励ましながら、分娩室について行きました。


「あああ……」


 平井警部補はそれを見ていて倒れてしまいました。


「ちょっと、どうしたのよ?」


 蘭はびっくりして平井警部補を揺り動かしました。


 極度の緊張から気絶してしまったようです。


「全く、だらしがないんだから、たっくんは」


 そう言いながらも嬉しそうに警部補の顔を撫でるエロ蘭です。


「誰がエロだ!」


 蘭は理不尽な地の文に切れました。


 


 ありさは分娩室に入りました。


 樹里は廊下のソファに座り、出産が終わるのを待つ事にしました。


 しばらくして、あんな事やそんな事をした蘭と平井警部補がやって来ました。


「してないわよ!」


 事実をねじ曲げるのが大好きな地の文に蘭が切れました。


 平井警部補が赤くなっているのが何よりの証拠だと思う地の文です。


「どう?」


 蘭が分娩室の扉を見て樹里に尋ねました。


「まだ何も……」


 樹里は笑顔を封印して応じました。樹里の真顔を久しぶりに見た蘭はドキドキしています。


 平井警部補は今度は眩暈で倒れそうです。


 しかし、それから四時間経っても、動きがありませんでした。


「ありさ……」


 心配そうに呟く蘭です。平井警部補がそんな蘭の肩を優しく抱きしめます。


「たっくん……」


 蘭はウルウルした目で平井警部補を見上げました。気持ち悪くなる地の文です。


「何だと!?」


 蘭が素早く切れました。そして、愛娘のつかさの授乳の時間になったので、蘭と平井警部補は病室に戻って行きました。


 


 それから更に四時間が経過しましたが、何も進展はありませんでした。


 蘭と平井警部補が戻って来ました。


「まだなの?」


 蘭が泣きそうな顔で樹里に尋ねました。その時です。


 分娩室の中が慌ただしくなりました。


「加藤さん! 加藤さん! 聞こえますか?」


 看護師さんがありさを呼ぶ声がしました。


「瞳孔反応がありません。脈拍も停止しています!」


 その声に蘭は仰天しました。


「ありさ、死んじゃうの?」


 平井警部補がまた倒れそうです。


「そうなんですか?」


 樹里は笑顔全開で応じました。蘭はその反応に目を見開きましたが、


「ありささん、逃げてはダメですよ。立ち向かってください」


 樹里が廊下の端にいるありさの霊に近づいて言いました。


 それを見て固まる蘭と平井警部補です。


『てへ! あまりの痛さに幽体離脱して来ちゃった。わかった、戻るね』


 ありさの霊はスウッと分娩室に戻って行きました。


「加藤さん、加藤さん!」


 看護師さんが呼びかけると、


「只今戻りました!」


 ありさの惚けた声が聞こえました。蘭はちょっと泣いてしまいました。


 それからまもなく、ありさは女の子を出産しました。


 名前は加純かすみです。


「おめでとうございます、ありささん」


 樹里は言いました。


「おめでとう、ありさ」


 蘭も言いました。


 


 めでたし、めでたし。

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