表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/839

樹里ちゃん、プレゼントをする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は大きくなって来たお腹をマタニティドレスで覆い、元気に出勤です。


 不甲斐ない夫だった杉下左京は大人の事情で登場できなくなりました。


「そんな事情ねえよ!」


 せめて声だけでも出演しようとする目立ちたがりです。


「うるせえ!」


 正確に状況を説明したはずの地の文をおとしめようとする左京です。


 愛娘の瑠里は、保育所界隈に怪人物が出没するので、行くのを見合わせています。


 久しぶりに瑠里と出勤する樹里です。


「そうなんですか」


「しょうなんですか」


 そっくりな笑顔全開です。


「樹里様と瑠里様にはご機嫌麗しく」


 そこへいつも通り、昭和眼鏡男と愉快な仲間達が来ました。


「おはようございます」


「おはよ、たいちょ」


 笑顔全開で挨拶する樹里と瑠里に感極まる眼鏡男達です。


(樹里様のご主人には申し訳ないが、しばらくこの幸せを毎日満喫したい)


 眼鏡男達はよこしまな妄想の中にいました。


「違います!」


 地の文の的を射た的確な表現にイチャモンをつける眼鏡男達です。


「そうなんですか」


「しょうなんですか」


 それでも樹里と瑠里は笑顔全開です。


「いつもお世話になっていますから、これを差し上げます」


 樹里が眼鏡男に綺麗にラッピングされたハート型の箱を渡しました。


「おお!」


 眼鏡男達はまだバレンタインデーまで間があるので、今日来るとは思っていなかったため、仰天しました。


「大人の事情で今日になりました」


 樹里が言いました。ちょっと意味がわからない眼鏡男達です。


 次回だと例の日を過ぎてしまうからだと推察する地の文です。


 保育所の男性職員さん達には今年は渡されないと思う地の文です。


「何故だー!?」


 どこかで職員さん達が雄叫びを上げています。


「ありがとうございます。今まで以上に樹里様と瑠里様の護衛に精進致す所存です」


 眼鏡男は難しい言葉を無理して使ったので、何度も舌を噛みかけましたが、それは樹里には内緒です。


「そうなんですか」


「しょうなんですか」


 でも、地の文が喋ってしまったので、樹里には聞こえてしまいました。


「ううう……」


 全てを水の泡にしてしまう血も涙もない地の文の行いに項垂れる眼鏡男です。


 ハッと気づくと、樹里と瑠里は隊員達と共にJR水道橋駅へと向かっていました。


(これが樹里様の奥義、放置プレーか。確かに癖になりそうだ)


 涙ぐみながらも嬉しい眼鏡男です。


 


 そして、樹里と瑠里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「それでは樹里様、瑠里様、またお帰りの時に」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「樹里さーん」


 そこへいつものようにいつものエロメイドが現れました。


「エロメイドじゃないわよ!」


 マタニティ仕様のエプロンドレスを着た目黒弥生は地の文のモーニングジョークに過剰な反応をして切れました。


「過剰じゃないわよ!」


 更に切れる弥生です。胎教に悪いと思う地の文です。


「誰のせいよ!」


 それでも切れる弥生です。立派なひな壇芸人になれると思う地の文です。


「……」


 力尽きたのか、反応しない弥生です。それどころか、樹里と瑠里を先導してサッサと玄関に行ってしまいました。


 住み込み医師の黒河真理沙に乗り換えた地の文は平気です。でも、涙で前が見えないのは内緒です。


 すると樹里だけ戻って来ました。


「いつもお世話になっていますから、差し上げます」


 樹里は警備員さん達にハート型の箱を渡しました。


「おお!」


 警備員さん達は年が年なので、皆号泣しました。


「そこまで年ではありません!」


 地の文の年齢詐称に抗議する警備員さん達です。


「ありがとうございます」


 警備員さん達も敬礼しました。二番煎じだと思う地の文です。


「そんなつもりはありません!」


 警備員さん達は細かい事に気がつく嫌な性格の地の文に抗議しました。


 


 樹里はエプロンドレスに着替えて仕事を開始します。


 瑠里はトテトテと歩けるので、樹里と弥生について回りました。


「弥生さんにも差し上げますね。お世話になっていますから」


 樹里がハート型の箱を弥生に渡しました。


「ええっと、樹里さん、これはお世話になっている人にあげるのではなくて、好きな人にあげるものですよ」


 弥生は複雑な思いで言いました。


(樹里ちゃんとなら、百合の世界もいいかもって思った事もあったけど、お互い夫がいる身だし)


 妙な妄想をしているエロメイドです。


「うるさいわよ!」


 またしても地の文に切れる弥生です。


「そうなんですか。母はお世話になった方にはいつも配っていますよ」


 樹里が不思議そうな顔をして言いました。嫌な予感がした弥生は、


「樹里さん、これ、 開けてもいいですか?」


「いいですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。弥生は嫌な汗を掻きながら、ラッピングを剥ぎました。


 すると、中から出て来たプラスチックの容器には「博多名物」と書かれていました。


(明太子か……)


 苦笑いする弥生ですが、


「お世話になっている方に差し上げるのは変でしょうか、弥生さん?」


 樹里が首を傾げて尋ねました。思わずドキッとしてしまう弥生です。


「変じゃないです。変じゃないですけど……」


 弥生は警備員さん達を哀れみました。そして、地の文は眼鏡男達を哀れみました。


「夫の誕生日プレゼントもこれにしたのですが、おかしいでしょうか?」


 更に追い討ちをかけて来る樹里に、弥生は言葉が思いつきませんでした。


(可哀想な旦那さん……)


 弥生は左京も哀れみました。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ