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樹里ちゃん、自伝のために取材を受ける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は、次第に目立つようになって来たお腹で、元気に出勤です。


 不甲斐ない夫の杉下左京が熱血弁護士と不倫旅行に出かけたので、愛娘の瑠里は母親の由里に預けてあります。


「不倫旅行になんか出かけてねえよ!」


 今回は出番がない左京がどこかで切れました。


「事件の調査で忙しいんだよ!」


 更に声だけで切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 昭和眼鏡男と愉快な仲間達が敬礼をして挨拶しました。


「本日から、自伝の執筆に取りかかられるとか。ご無理なさいませんよう」


 眼鏡男が言いました。すると樹里は、


「私は執筆しませんから、大丈夫ですよ」


 笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 樹里の口癖で応じてしまう眼鏡男です。


 


 そして、いつものように何事もなく、樹里は五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時、また」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「樹理さーん!」


 元泥棒のキャビーがやって来て挨拶しました。


「何で今、その名前を出すのよ!」


 エロメイドの目黒弥生が過去の事を穿ほじくり返す地の文に切れました。


「畳みかけるように悪口を放り込むな!」


 華麗なフットワークでボケをかます地の文にまた切れる弥生です。


 胎教に悪いので、落ち着いた方がいいと思う地の文です。


「あんたがそうさせてるんでしょ!」


 更に切れる弥生です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。弥生は顔を引きつらせながら、


鵜曽月うそづき出版の方がお見えですよ」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 樹里は着替えをすませ、応接間に行きました。


 ソファには、詐欺女と泥棒髭の男が座っていました。


「だから詐欺なんかしていません!」


 地の文の軽いジョークに全力で切れる麻生あそう津玖代つくよです。


「誰が泥棒髭だ!」


 出所間もない男は自分の素性をばらされて切れました。


「違う!」


 更に興奮する男です。すると津玖代が、


「この人は、ルポライターの唐潮からしお悦三えつぞうです」


 泥棒髭を紹介しました。


「くどい!」


 何度も同じボケをかます地の文に切れる唐潮です。


「はなしをねつぞうさんですか?」


 樹里が笑顔全開で危険球を投げました。


「唐潮悦三です!」


 涙目で訂正する話を捏造さんです。


「やめろー!」


 絶妙なタイミングでボケを放った地の文に絶叫して切れる唐潮です。


(噂に聞いていたけど、このお邸、何かいるみたいね?)


 津玖代は天井を見渡しました。


 


 樹里が淹れた紅茶を飲んでから、早速取材が始まりました。


 唐潮が樹里に質問して、樹里が答え、それを文章にしていく方式です。


「では樹里さん、扉を飾る写真が欲しいので、一枚撮らせてください」


 津玖代がカメラを取り出して言いました。


「そうなんですか? でも、今日は水着は持って来ていませんよ」


 樹里のちょっとした危険球にドキッとする唐潮です。いけない妄想をしたのでしょうか?


「してねえよ!」


 唐潮は顔を真っ赤にして切れました。どうやら図星のようです。


「いやいや、水着はいいですよ。メイド服姿の樹里さんを撮影させてください」


 津玖代は苦笑いして言いました。


(でも、自伝の表紙が水着写真というのもいいかも知れない)


 社に帰ったら、編集長に進言してみようと思う津玖代です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そこに微笑んで立っていてください。何枚か角度を変えて撮らせてもらいます」


 津玖代は笑顔全開の樹里を正面、横、後ろ、上から、そして下から撮影しました。


「それから、お庭を掃除しているところも撮らせてください」


 津玖代が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 庭に出て、竹ぼうきで枯れ葉を掃く樹里を撮影する津玖代ですが、


「ええと、警備員さん、そこに立たないでください」


 樹里の後ろで如何にも仕事をしているフリをして写ろうとする警備員さんに注意しました。


「申し訳ありません」


 すると次は、一緒に竹ぼうきで掃除を始めた弥生に、


「邪魔なので別の場所の掃除をしてください」


 弥生は苦笑いして去りました。




 そして、再び応接間に戻って、いよいよ取材です。


「御徒町樹里さん。お名前は間違いないですね?」


 唐潮が手帳を見ながら言いました。


「いえ、杉下樹里です」


 樹里は笑顔全開で訂正しました。左京が聞いたら、血の涙を流して喜びそうです。


「いえ、一応テレビや映画には、御徒町樹里さんで出演されているので、こちらでいいと思うのですが」


 唐潮は焦って言いました。隣で苦笑いしている津玖代です。


「そうなんですか」


 あっさり応じてしまう樹里です。左京が知ったら、悲しみのあまり号泣しそうです。


「樹里さんは、平成二年十一月二十七日のお生まれですね?」


 唐潮は質問を続けました。


「多分そうです」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ええと、多分とはどういう事ですか?」


 唐潮が首を傾げて尋ねました。


「私は自分が生まれた時の記憶がないので、多分としか言えません」


 笑顔全開で強烈なボケをかます樹里です。


「そうなんですか」


 唐潮と津玖代は見事なハモりで樹里の口癖を言いました。


「そして、お母様のお名前は由里さん。お父様のお名前は私達にはわかりませんでしたので、お教え願えますか?」


 唐潮が言いました。


義父ちちの名前は西村夏彦です」


 樹里は今のお義父とうさんの名前を答えました。


「それも間違いではないのですが、できれば樹里さんの実のお父様のお名前を教えてください」


 唐潮は食い下がりました。遂に樹里の父親の名前が明かされる瞬間が来たと思う地の文です。


「父の名前は、赤川康夫です」


 期待した割には普通の名前なので、拍子抜けな感じがする地の文です。


(普通だ……)


 唐潮も津玖代も地の文と同じ感想でした。


 こうして、家族構成を確認するだけで、唐潮は精魂尽き果ててしまい、取材は終了しました。


「またお邪魔しますね」


 来た時より白髪が増えた状態で帰って行く唐潮です。


「お疲れ様でした」


 樹里は笑顔全開で見送りました。


 


 めでたし、めでたし。

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