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樹里ちゃん、除夜の鐘を突きにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は大晦日です。樹里はまた行方不明になった不甲斐ない夫の代名詞である杉下左京の捜索願を出してから、五反田邸に行きます。


「捏造はよせ!」


 運転席で危険な切れ方をする左京です。


 今日は相変わらず仕事がない左京の車で五反田邸に向かっているのです。


「うるせえ!」


 事実をありのままに述べた地の文にまたしても切れる左京です。


 熱血女性弁護士としばらく会っていないので、イライラしているのでしょうか?


「違う!」


 更に切れる左京です。年末なので出血大サービスのようです。


 とうとう力尽きたのか、地の文に切れない左京です。


「そうなんですか」


「しょうなんですか」


 それでも笑顔全開の樹里と愛娘の瑠里です。


 


 五反田邸に到着すると、何故か昭和眼鏡男と愉快な仲間達がいました。


「樹里様、私達のような者をお招きくださり、恐悦至極です」


 眼鏡男達は敬礼して言いました。


「いつもお世話になっているからですよ」


 樹里が笑顔全開で言ったので、眼鏡男達は感極まって泣いてしまいました。


「樹里さーん!」


 そこへ目黒弥生が大きなお腹を抱えながら現れました。


 十日くらい出ていないのでしょうか?


「便秘ネタはやめて! 私はそういうキャラじゃないのよ!」


 涙ぐんで地の文に抗議する弥生です。可愛いのですが、所詮人妻なので、もうどうでもいい地の文です。


「何だよ、それは!?」


 捨てられたと思った弥生が切れました。


「思ってねえよ!」


 更に切れる弥生です。年末なので切れ納めのようです。


「違うわよ!」


 左京と違ってまだ若いので、更に切れ続けます。さすが、ロリコンキャラです。


「それも違います!」


 肩で息をして抗議する弥生です。飽きたのでこの辺にする地の文です。




 邸の中にある大広間では、ニューイヤーパーティの用意が進められています。


「樹里さん、瑠里ちゃん!」


 五反田氏の愛娘の麻耶がドレスアップして現れました。相変わらず忘れられている左京です。


(仕方がない。俺は印象が薄いんだろう……)


 涙を堪えて我慢する左京です。


「樹里さん、大丈夫? 予定日はいつなの?」


 五反田夫人の澄子が樹里を気遣います。


「五月ですから大丈夫です」


 樹里が笑顔全開で応じると、


「それにしては大きいね。双子かも知れないね」


 澄子の後ろから五反田氏が来て言いました。その言葉にビクッとする左京です。


(双子は困る……)


 嫌な汗が出て来る左京です。いよいよ離婚でしょうか?


「しねえよ!」


 樹里の財産に目が眩んでいるので、離婚には断じて応じるつもりはない左京です。


「断じて違う!」


 左京は図星を突かれて慌てふためきました。


「やめろー!」


 段々、芸風が某芸人に似てきている左京です。


「やっほー、六ちゃん、澄子さん、麻耶ちゃん、樹里、瑠里ちゃん……」


 船越なぎさが恋人の片平栄一郎と現れ、そこまで言って左京を見ましたが、


「誰だっけ?」


 テヘッと笑って言うなぎさです。左京は顔を引きつらせて、


「杉下左京です」


「ああ、そうそう、松下さんだよね。電気屋さんと同じって覚えればいいんだ」


 それでも間違えるなぎさに苦笑いする左京です。


 この分でいくと、次は「パナソニックさん」と言いそうです。


「なぎさちゃんも、来年はいよいよ結婚だね」


 五反田氏が言いました。すると栄一郎は顔を真っ赤にしました。


「うん、そうだよ、六ちゃん。これでやっと私も子供が産めるよ」


 アッケランカンとした顔で言うなぎさです。五反田氏と澄子も顔を見合わせてしまいました。


「私はいつでもオッケーだからね、栄一郎」


 なぎさの発言に栄一郎はショック死しそうです。


「いいなあ、なぎさお姉ちゃん。私も早く子供が欲しいよ、お母さん」


 麻耶がそんな事を言い出したので、五反田氏は卒倒しそうになりながらも、


「ま、麻耶は あと十年は待たないとね」


「ええ? 女の子は十六歳で結婚できるんだよ、お父さん。あともう少しだよ」


 麻耶の無意識の追い討ちに目眩がしてしまう五反田氏です。


「そういう事じゃないのよ、麻耶」


 見かねた澄子が麻耶をたしなめました。


「そうなんですか」


「しょうなんですか」


 樹里と瑠里はそれでも笑顔全開です。


 


 やがて、いよいよ時間も押し詰まり、新年まであとわずかになりました。


 庭の奥に建てられたお寺にある鐘を邸で働く人達が突く事になっています。


「最初は麻耶だよ」


 五反田氏はまだ眩暈をしながら言いました。あれからいろいろあったようです。


「わーい。はじめ君、一緒に突こう」


 麻耶はボーイフレンドの市川はじめと一緒に鐘突き堂の石段を昇ります。


 しっかり手を握り合う麻耶とはじめを見て、ヤキモキする五反田氏とそれを宥める澄子です。


 二人は息を合わせて鐘を突きました。その音は世田谷中に響き渡りました。


 そして、次は警備員さん達です。特に面白い事はなかったので、割愛する地の文です。


「酷いです!」


 警備員さん達が抗議しましたが、地の文は借用書を見せて反論しました。


 そして、その次は眼鏡男達です。そんな役割が回って来るとは思わなかった眼鏡男達は緊張しながらも鐘を突きました。


「我らのような者にまでお気遣いくださる事に感謝致します」


 眼鏡男は敬礼して言いました。すると五反田氏は、


「貴方達は見返りも求めずに樹里さんを護衛し、その上、この邸の危機も救ってくれました。こちらこそ、いくら感謝しても、仕切れない程ですよ」


 その言葉にまた泣き出す眼鏡男達です。


 そして、続いては、麻耶の家庭教師の有栖川倫子です。本当は怪盗ドロントなのは内緒です。


「だから、内緒にしてよ!」


 倫子は口が無重力のような地の文に切れました。


 そして、その次は住み込み医師の黒川真理沙です。彼女はドロントの部下のヌートなのは内緒です。


「それも内緒にしてくださいね」


 優しい真理沙はそっと地の文に言いました。弥生をやめて、真理沙に乗り換えようと思う地の文です。


「お断わりします」


 瞬時に拒否する真理沙です。地の文は軽くショックを受けました。


「ざまあみろ」


 項垂れる地の文を尻目に鐘を突く弥生です。


 そして、次々に関係者が鐘を突き、遂になぎさと栄一郎の番になりました。


 すでに百突いているので、あと八つです。


「よおし、気合い入れて突くよ、栄一郎」


 なぎさの言葉に嫌な予感がした栄一郎ですが、時既に遅し、でした。


「やああ!」


 なぎさは続けざまに六回鐘を突いてしまいました。


「六ちゃんの六にちなんで、六回突いたよ!」


 笑顔で言うなぎさに唖然とする五反田氏と澄子です。


 残っているのは樹里一家と五反田夫妻ですが、実はまだ上から目線作家の大村美紗が来ていないのです。


「なぎさちゃん、突き過ぎだよ。まだ大村さんが突いていないんだよ」


 五反田氏が言うと、なぎさは、


「大丈夫。叔母さまの分も私が突くから。だって、全部で七百八突くんでしょ?」


 まだ経絡秘孔と混同しているなぎさです。


「違いますよ、なぎささん。百八つです」


 項垂れながら、栄一郎が言いました。なぎさはほっぺを膨らませて、


「早く言ってよ、栄一郎ったら。じゃあ、あと二回しかないよ」


 結局栄一郎が悪い事にされ、なぎさは鐘突き堂から降りました。


「大村さんの分はとっておいた方がいいでしょうから、私達は辞退しますよ」


 左京が進言しましたが、


「ゴーン!」


 樹里と瑠里が突いてしまいました。石化しかける左京です。


「大村様は目眩がして倒れたそうなので、今日はいらっしゃらないそうです」


 弥生が来て言いました。


 美紗はすぐそばまで来ていたのですが、なぎさに気づいて発作を起こしたのは内緒です。


「そうなんですか」


 樹里と左京と五反田氏と澄子と麻耶が揃って言いました。


「しょうなんですか」


 瑠里が続けて言いました。


 そして、最後の一回を五反田夫妻が突き、除夜の鐘は終了しました。


 


 めでたし、めでたし。

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