樹里ちゃん、ハロウィンパーティの準備をする
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
第二子を妊娠している樹里は、いつもと変わらない笑顔で出勤します。
「いってらったい、ママ」
長女の瑠里が笑顔全開で樹里を見送ります。
不甲斐ない夫の杉下左京は、また女性弁護士と浮気中です。
「断じて違うぞ!」
どこのベッドにいるのかわからない左京が切れました。
「捏造はやめろ!」
左京はどうしても離婚させたい地の文に切れました。
「行って来ますね、瑠里」
瑠里は二歳にして一人でお留守番です。
「悪いわね、樹里。今日だけ泊まらせてね」
と思ったら、違いました。
樹里の母親である由里が夫の西村夏彦氏と喧嘩して、家を飛び出して来たのです。
子供達は、同居している長女の璃里に押しつけるという極悪非道ぶりです。
「何か言った?」
鋭い目つきで地の文を脅かす由里です。地の文は辞表を認めようとしました。
「行って参ります」
樹里は笑顔全開で出かけました。
「樹里様にはご機嫌麗しく」
昭和眼鏡男と愉快な仲間達がアパートから数メートル離れたところに現れました。
どうやら身の危険を感じ、アパートに近づかなかったようです。
「おはようございます」
樹里は笑顔全開で応じました。
「今日はハロウィンです。子供達にはお気をつけください、樹里様」
眼鏡男が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。すると、
「トリック&トリート!」
いきなり魔法使いの扮装をした子供達に後ろからピコピコハンマーで殴られる眼鏡男達です。
「いでで!」
子供達は歓声を上げながら逃げて行きました。
「このような事がありますので、ご注意ください」
眼鏡男が言った時、すでに樹里は駅に向かっていました。項垂れる眼鏡男です。
そして、いつものように樹里は何事もなく、五反田邸に到着しました。
それに反して、ボロボロの眼鏡男達です。
「樹里様がご無事で何よりです。ではまた、お帰りの時に」
眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。無事を祈る地の文です。
「樹里さん、おはようございます」
目黒弥生が現れました。いつもと違い、魔女のコスプレをしています。
夫の祐樹と変態プレイをしたのでしょうか?
「バカな事言わないでよ!」
真実に迫った地の文に弥生は切れました。
「今日はお邸でハロウィンパーティを開催するので、樹里さんも瑠里ちゃんやご主人を呼んでください」
弥生が言いました。すると樹里は、
「瑠里は来られますが、左京さんは仕事が忙しいので、来られません」
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じる弥生です。
樹里と弥生は、いつもの掃除や洗濯をこなしながら、飾り付けもしました。
有栖川倫子と黒川真理沙も手伝ってくれました。
「申し訳ありません、ドロントさん、ヌートさん」
樹里がしばらくぶりにボケたので、
「いえ、どう致しまして」
倫子と真理沙は苦笑いして応じました。
「今日はどれくらいお客様がいらっしゃるのでしょうか?」
樹里が弥生に尋ねました。
「三千人くらい来るらしいですよ」
弥生はメモ帳を取り出して答えました。
「食事はグループのレストランからシェフが来るので大丈夫です」
弥生が更にメモを見て言うと、樹里はその場にいませんでした。
(これ、何度もされると快感になって来ちゃう……)
変態道まっしぐらの弥生です。
午後も引き続き樹里達が飾り付けをしていると、五反田氏の愛娘の麻耶が学校から帰って来ました。
ボーイフレンドの市川はじめも一緒です。但し、二宮金次郎の格好はしていません。
「只今」
麻耶ははじめと一緒なので、とても嬉しそうです。
「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませ、はじめ様」
樹里は笑顔全開で挨拶しました。
麻耶ははじめの手を取り、自分の部屋へと走って行きました。
「いいわねえ、清い交際」
感慨深そうに言う倫子です。
「首領は黒い交際しかしてませんからね」
小声で真理沙に言う弥生です。真理沙は苦笑いしています。
「何か言った?」
倫子が鋭い目で弥生を睨みました。
「いえ、何も」
慌てて仕事に戻る弥生です。
やがて、辺りが夕闇に包まれ、かぼちゃのランタンに灯が灯された頃、上から目線のリムジンが車寄せに入って来ました。
言うまでもなく、大村美紗です。今日は娘のもみじも一緒です。
美紗はどうやら悪い魔女のコスプレをしているようです。
違いました。いつもと同じです。元々、悪い魔女でした。
(また悪口が聞こえた気がするけど、誰にも聞こえていないのよね)
美紗は自分を落ち着かせていました。
(今日は薬の効きがいいみたいね)
もみじはホッとしています。
美紗の登場を切っ掛けに、弥生の夫の目黒祐樹、その父親の目黒七郎、経団連会長、日商会頭、東京都知事、内閣総理大臣、各国の駐日大使がぞくぞくとやって来ました。
さすが、五反田氏です。来賓のレベルが段違いです。
それからしばらくして、由里が瑠里を連れて現れ、璃里が妹達を連れて現れました。
西村氏は、由里の前でいきなり土下座をし、駐日大使達に、
「オオ! ドゲザ!」
非常に感動され、写真を撮られました。
「そうなんですか」
「しょうなんでしゅか」
樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。
めでたし、めでたし。