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樹里ちゃん、メイドに専念する

 御徒町樹里は日本で指折りの大企業の創業者である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は、先日一大決心をし、女優を辞めました。


 その衝撃は株価にまで影響し、某首相が思い留まるように電話をくれたそうです(嘘です)。


 でも、新しい命を授かった樹里の決意は岩のようで、揺らぐ事はありませんでした。


 後は不甲斐ない夫の杉下左京と名実共に離婚をして、ずっと好きだった人と結ばれるだけです。


「やめろー!」


 左京は地の文が前回から引っ張っている「ずっと好きだった人」ネタに怯えています。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


「行って参ります」


 樹里はJR水道橋駅へと直接向かいます。


 愛娘の瑠里は、左京が保育所に連れて行くのです。


 それを知ったら、保育所の男性職員の皆さんは血の涙を流し、左京を怨むでしょう。


「いってらったい、ママ」


 左京に抱かれた瑠里が笑顔全開で言いました。


「行って来ますね、瑠里」


 樹里は笑顔全開で応じ、歩き出しました。


「行ってらっしゃい」


 左京は悲しそうな顔で樹里を見送りました。離婚が決まったからでしょう。


「違う!」


 左京は事細かにボケる地の文に切れました。


「パパ、げんきだちて」


 瑠里が左京の頬にキスをしました。


「おお!」


 元気百倍の左京です。


「樹里様にはご機嫌……」

 何故か一歩遅かった昭和眼鏡男と愉快な仲間達は、瑠里が左京にキスするのを見てしまいました。


(樹里様にご挨拶できず、あまつさえ瑠里様のキスを目の当たりにするとは……)


 眼鏡男達は意味不明な事を思って泣きました。


 そして、いつものように瑠里に一人の隊員が付き、眼鏡男達は樹里を追いかけました。


「いつもありがとう」


 左京は瑠里にキスされたので誰にでも優しくできる人格になっていました。


「いえ、これは親衛隊の義務ですから」


 隊員は左京に敬礼して応じました。


(俺はここまで樹里や瑠里の事を思って行動しているだろうか?)


 今までは鬱陶しかった眼鏡男達の行動が純粋なのを感じ、左京は反省しました。


(もっと二人の事に思いを致しながら日々を生きよう)


 左京は決心しましたが、今日はもう出番は終わりです。


「何ー!?」


 仰天する左京です。


 


 そして、いつものように樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時に」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「樹里さーん」


 そこへエロメイドが走って来ました。


「エロメイドじゃありません!」


 妊娠しているのに危ない行動を慎まない目黒弥生が切れました。


「あ」


 地の文に指摘され、蒼ざめる弥生です。


「おはようございます、弥生さん」


 今日もボケない樹里に露骨に不満そうな顔をする弥生です。


「してないわよ!」


 弥生は適当な発言をする地の文に切れました。


「大村様がお見えです」


 露骨に嫌な顔をして告げる弥生です。


「……」


 真実を語った地の文にぐうの音も出ない弥生です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 樹里が応接間に行くと、上から目線全開の美紗がハッとして姿勢を正しました。


 天変地異の前触れでしょうか?


「樹里さん……」


 美紗は涙ぐんでいます。


「何故あの時、教えてくれなかったの? まさか、女優を辞めるだなんて……」


 美紗は暴言の限りを吐いて、邸を後にした事を悔いているようです。


 この傲慢の塊のようなおばさんも少しは学習したようです。


「ねえ、今、私の悪口を誰かが確実に言ったわよね?」


 美紗は小声で樹里に尋ねましたが、


「いえ、どなたもおっしゃっていませんよ」


 笑顔全開で完全否定しました。意識が飛びそうになった美紗ですが、何とかこらえました。


「それより、どうして女優を辞めてしまうの、樹里さん? 貴女は才能があるわ。もっと私の作品に出て欲しいと思っているのよ」


 美紗は鬼の目にも涙で、樹里に言いました。


(また悪口が聞こえた気がするけど、今は我慢するわ)


 美紗は地の文の挑発を乗り越えました。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「でも、新しい命を授かったので、メイドに専念しようと思います」


 樹里の言葉に美紗はハッとしました。


「そう。そういう事なのね。そうね。女優より、そちらの方が遥かに大事よね」


 美紗は涙を流して言い、樹里を抱きしめました。


「大村様」


 樹里も美紗の行動に感激したのか、目を潤ませました。


「樹里さん!」


 扉の向こうで盗み聞きしていた弥生も顔をクチャクチャにして飛び込んで来ました。


「この子は、弥生さんの赤ちゃんと同級生になるのですね」


 樹里は笑顔全開でお腹をさすりました。


「はい」


 弥生も自分のお腹を擦りました。


「元気な赤ちゃんを産んでね、愛さん」


 最後に来て名前を間違えられ、興醒めする弥生です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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