樹里ちゃん、目黒弥生に病欠される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今や知らない人は知らない程の大女優です。
今日も樹里は愛娘の瑠里を連れて、不甲斐ない夫の杉下左京のアパートを出ます。
「行ってらっしゃい」
左京は項垂れたままで言いました。
「行って参ります」
「行って来るね」
樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。
九月十一日で二歳になった瑠里は、すっかり女の子らしい髪の長さになり、おさげにしています。
左京は瑠里の誕生日を忘れていて、瑠里に「メッ」とされ、ここ二週間程落ち込んでいます。
地の文も忘れていたのは内緒です。
「そうなんですか」
「そうなんですか」
樹里と瑠里は笑顔全開で地の文を許してくれました。
嬉し涙がちょちょぎれる地の文です。
「ううう……」
許してもらえなかった左京は、項垂れたまま部屋に戻りました。
「樹里様と瑠里様にはご機嫌麗しく」
昭和眼鏡男と愉快な仲間達が挨拶しました。
「おはようございます」
「おはよ」
樹里と瑠里に笑顔全開で挨拶を返され、涙ぐむ眼鏡男達です。
彼等は瑠里の誕生日を覚えており、きちんとプレゼントをしました。
但し、プレゼントの中身が都電のプラモデルだったので瑠里が投げ捨ててしまったのは内緒です。
左京が罰としてそれを完成させる事になったのはもっと内緒です。
そして、いつものように保育所に向かいます。
「おはようございます」
どこかバツが悪そうな保育所の男性職員の皆さんです。
彼等も瑠里の誕生日を忘れていて、何もプレゼントをしませんでした。
どうやら、女性職員の皆さんが意地悪で教えなかったようです。
ギスギスした嫌な職場だと思う地の文です。
「うるさい!」
隠しておきたい事を何でも白日の下に曝してしまう正義感の強い地の文に男性職員さんと女性職員さんが揃って切れました。
樹里は瑠里を預けると、JR水道橋駅に向かいました。その時、樹里の携帯が鳴りました。
相手はエロメイドです。
「違うよ!」
電話越しに切れる目黒弥生です。
「おはようございます、キャビーさん」
いきなり懐かしいボケをかます樹里に電話の向こうで壮絶な転け方をし、警備員さん達にしっかりパンツを見られた弥生です。
「おはようございます、樹里さん、私はめ・ぐ・ろ・や・よ・いです」
弥生は名前を強調して言いました。某クリステルネタが被り過ぎだと思う地の文です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「ちょっと気分が優れないので、今日は休ませてください。でも、お邸にはいますので、何かあったら呼んでください」
前の夜、夫の祐樹とあんな事やそんな事をしたせいで疲れてしまったようです。
「違うわよ!」
顔が見えないのでわかりませんが、きっと茹蛸のように赤くなっていると思う地の文です。
「誰のせいよ!」
弥生の切れ祭です。
「無理しないで休んでくださいね」
樹里はそう言って携帯を切りました。
「樹里様、いざという時は我が隊にもメイドの精鋭がおりますので、お声がけください」
眼鏡男が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。確か、親衛隊の構成員は全員男だったと思う地の文です。
そして、例によって、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。
「では、樹里様」
眼鏡男は樹里に緊急連絡先の書かれたカードを渡して立ち去りました。
「ありがとうございました」
樹里は深々とお辞儀をして眼鏡男達を見送りました。
「おはようございます」
朝からいいものを拝ませてもらって、顔色がいい警備員さん達が挨拶しました。
「な、何も見ていません!」
狼狽えぶりから間違いないと思う地の文です。
「おはようございます。弥生さんはどんな具合でしたか?」
樹里が真顔で尋ねたので、警備員さん達はドキッとしてしまいました。
「いつもの元気がありませんでしたね。心配です」
パンチラしてくれないと仕事に潤いがないという事のようです。
「断じて違います!」
警備員さん達は妄想を倍返しで膨らませる地の文に切れました。
「そうなんですか」
樹里も笑顔全開の倍返しです。
すぐに流行語を節操なく使う作者だと思う地の文です。(余計なお世話です 作者)
そして、着替えをすませると、弥生が休んでいるメイドの休憩室に行きました。
「樹里さん、申し訳ありません」
弥生はベッドに入り、如何にも重病そうな顔で詫びました。
「ホントに辛いのよ!」
元気に地の文に切れる弥生です。すると樹里は微笑んで、
「弥生さん、おめでとうございます」
いきなりそう言われ、ポカンとしてしまう弥生です。
「え? どういう事ですか?」
弥生は首を傾げて樹里に尋ねました。すると樹里は、
「妊娠したのですよね?」
そう言われ、弥生はハッとしました。
「そうか……。私、体調が悪くて遅れているんだと思ってました……」
途端に涙ぐむ弥生です。樹里は弥生の頬を撫でて、
「病院で確認できたら、早く祐樹様に教えてあげてくださいね。男の人は鈍感ですから、言わないとわかりませんよ」
「はい、樹里さん」
弥生はワッと泣き出してしまいました。
(しばらくお邸のお仕事が忙しくなりますね)
樹里は思いました。そんな樹里の考えを見抜いたのか、
「樹里さん、大丈夫です。私も樹里さんのように出産の直前まで頑張りますから」
弥生が言いました。
「無理しなくていいのよ。人それぞれ妊娠期間中の体調は違うのだから。貴女は悪阻が重そうな気がするわ」
そこへ住み込み医師の黒川真理沙が入って来ました。その後ろから麻耶の家庭教師の有栖川倫子も入って来ました。
「それに樹里さんのサポートは私達がするから」
倫子が言うと、不安そうな顔で真理沙と弥生が彼女を見ました。
「な、何よ、その目は!」
ムッとする倫子ですが、
「首領って、家事全般苦手でしたよね?」
真理沙にはっきり指摘され、ぐうの音も出ない倫子です。
「大丈夫ですよ、弥生さん。前は私一人でこなしていたのですから」
樹里も当てにしていない事を知り、更にダメージを受ける倫子です。
「ありがとうございます、皆さん」
弥生は涙を流して言いました。
めでたし、めでたし。