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樹里ちゃん、左京と再会する

 俺は杉下左京。


 G県M署の副署長だ。


 先日起こった殺人事件の犯人を確保する時に重傷を負い、入院した。


 あの御徒町(おかちまち)樹里(じゅり)が人質に取られたため、俺は焦っていたのかも知れない。


 自分の命に代えても守りたい女が現れるとは、正直思わなかった。


 警視庁時代に好き合ったあの神戸蘭ですら、そこまでは感じなかった。


 俺は只、彼女の身体に惚れていたのかも知れない。


 今更ながら、若かったとしか思えない愚かさだし、蘭に対しても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 樹里は違う。


 確かに彼女は可愛いし、若いし、素敵な女性だ。


 しかし、俺は樹里の外見に惚れたのではない。


 こんなにも惹かれるのは、彼女のその信じられないくらいの純粋さなのだ。


 あの純粋さの前では、俺の男としての野生はなりを潜めてしまう。


 それくらい樹里は透き通った女性だ。


 その樹里が毎日俺の世話をするために病院に来てくれた。


 恥ずかしい事に俺は身体を動かす事ができなかったので、樹里が下の世話までしてくれた。


 彼女は看護師の資格を持っていて、介護士の資格も持っていて、調理師の資格も持っているのだそうだ。


「こんな事までしてもらって、悪いな」


 俺は顔を真っ赤にして礼を言った。


 樹里は尿瓶を片づけながら、


「大丈夫ですよ、杉下さん。私は慣れてますから」


「そ、そうなのか」


 看護師としても働いていた事があるらしいから、別に何とも思っていないのかも知れない。


 多分、ナメコか何かと思っているのだろう。


 そんな評価は嫌だが。


「早く退院できるといいですね」


「ああ」


 樹里は俺の顔を見て、


「この度は助けて頂いてありがとうございました」


と急に(かしこ)まってお辞儀をした。


「どうしたんだ、急に?」


 俺は嫌な感覚に襲われた。


「杉下さんにこれ以上ご迷惑をかけては申し訳ないので、私は東京に戻る事にしました」


「えっ?」


 樹里はニッコリした。


「世田谷に住み込みのお仕事を見つけたんです。そこに行く事にしました」


「そうなのか……」


 俺はガッカリした。


「今日でお別れです。お元気で」


「……」


 樹里はあっさりとそう言うと、病室を出て行ってしまった。


「樹里……」


 俺は知らないうちに泣いていた。


 


 俺はそれからリハビリに全力で取り組んだ。


 一刻も早く復帰する。そして、桜田門(けいしちょう)に帰るんだ。




 そして一ヶ月後。


 俺はもう一度神戸蘭に連絡を取り、警視庁特捜班に復帰した。


 あの亀島馨がいるのは気になったが。


 それから俺はあるところに向かった。


「行ってらっしゃいませ、旦那様」


 世田谷の豪邸に住む五反田六郎。


 かつてそこは、世間を震撼させた殺人事件が起こった。


 その事件は女子大生探偵(なかつのりこ)の活躍で解決したと聞いている。


 更にその後「幽霊屋敷」としても噂になったが、あるメイドがその幽霊を祓ったという話も聞いた。


 それがどうやら樹里らしい。あいつらしいな。


 きっと幽霊達も、彼女の純粋さによって天国に行けたのだろう。


「久しぶりだな」


 俺は五反田氏を送り出した樹里に声をかけた。


「杉下さん」


 樹里は嬉しそうに微笑み、俺を見た。

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