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樹里ちゃん、ありさを見舞う

 御徒町樹里は世界に躍進する五反田グループの創業者である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、世界に羽ばたこうとしている女優でもあります。


 今日は樹里はお休みです。そして、毎日がお休みの不甲斐ない夫の杉下左京です。


「うるせえ!」


 左京はあまりにも図星を突かれたので、涙目で地の文に切れました。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 それでも樹里と愛娘の瑠里は笑顔全開です。


「今日は久しぶりに休みが一致したから、三人で出かけようか」


 左京は財布の中身を確認しながら言いました。


「そんな事まで言うな!」


 経済状態が不安な家族の中に土足で踏み込んだ地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。


 そして、手近なところですませようと考えた左京は、歩いて五分で着ける東京フレンドランドにいく事に決めました。


「それも余計な事だ!」


 更に切れる左京です。怒りっぽ過ぎると思う地の文です。


「じゃあ、出かけようか」


 瑠里を抱っこして左京が言った時でした。左京の携帯が鳴りました。


「何だよ、こんなタイミングで……」


 左京は瑠里を降ろして通話を開始しました。相手は樹里の姉の璃里です。


 ちょっと嬉しい左京です。


「そんな事は断じてない!」


 目を見開いて怒りを表現する左京です。嘘なのがバレバレだと思う地の文です。


「勘弁してくれ……」


 どこまでも意地悪な地の文に項垂れてしまう左京です。もうこの辺で許してあげましょう。


「おはようございます、お義姉ねえさん。どうしましたか?」


 左京は樹里に目配せして尋ねました。すると璃里が、


「今、病院の外からなんですけど、ありささんが救急車で運ばれて来たのを見かけました。ちょっと心配だったので、左京さんにお知らせした方がいいと思って」


「そうなんですか」


 左京は思わず樹里の口癖で応じてしまいました。


(璃里さん、できればその情報、知りたくなかったです)


 左京は心の中で泣きました。


「左京さん、ありささんのお見舞いに行きましょう」


 樹里が言いました。ギョッとする左京です。


「え? どうしてだ?」


 左京はトボケようとしました。すると樹里は、


「加藤さんからメールが来たんです。ありささんが原因不明の嘔吐で入院したそうです」


 唖然とする左京です。そして、


「どうして加藤が樹里のメルアドを知っているんだ?」


 樹里は笑顔全開で、


「私が教えたからです」


「そうだよな……」


 また項垂れる左京です。こうして、左京はありさのお見舞いに行く事になりました。


 


 途中でお見舞いの花を買い、病院に行きました。


 璃里はロビーで待っていました。また嬉しい左京です。


「だからそれはやめてくれ!」


 しつこい地の文に泣いて懇願する左京です。


「お姉さん、ありささんの病室は?」


 樹里が尋ねました。何故か璃里はニコニコして、


「こっちよ。でも、良かったわ、病気ではなくて」


「は?」


 左京はキョトンとして樹里を見ましたが、樹里はすでに璃里とロビーを歩いていました。


 もう一度項垂れる左京です。


 


「ごっめーん、大袈裟に騒いじゃって。マスミンたら、ホント、心配性なんだからあ」


 ベッドに半身を起こして照れ臭そうにしているありさが言いました。


 ありさは妊娠していたのです。


「すみません、樹里さん、璃里さん」


 脱獄囚顔の加藤警部が頭を下げて言いました。


「でも良かったです。おめでとうございます」


 璃里は加藤警部の顔を怖がらずに言いました。


「ありがとうございます。ちょっと失礼しますね」


 加藤警部は左京の襟首を掴み、病室を出ました。


「何だよ、いてえな!」


 左京が手を振り払うと、


「杉下、まさかお前の種じゃないだろうな」


 加藤警部が只でさえ怖い顔をもっと怖くして左京に詰め寄りました。


「はあ? 何言っているんだよ?」


 加藤警部は、ある事件の調査でしばらくありさと行動を共にしていた左京を疑っていました。


「逆算すると、ちょうどその頃なんだよ!」


 加藤警部は鼻息を荒くして左京の襟首をねじ上げます。


「バカ言うな! 俺はありさとは何でもねえよ。お前、嫉妬し過ぎだぞ、加藤。ありさが嫌がっていたぞ」


 左京は加藤警部の手を引き剥がして言い返しました。


 でも本当はキスをしたのは内緒です。


「やめろ!」


 お話を超えてネタばらしをする地の文にこっそり切れる左京です。


「そ、そうか。すまなかった」


 そう言うと、加藤警部は肩を落として病室に戻りました。


「何なんだ、全く」


 左京は襟を直して病室に戻りました。


「二人で何こそこそしてたのよ。まさか、どっちが父親かで揉めてたとか?」


 洒落にならない事をありさが言ったので、璃里が仰天して左京を見ました。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里はそれでも笑顔全開です。


「ば、バカな事言うなよ、ありさ。父親は加藤に決まっているだろ?」


 嫌な汗を掻きながら、璃里の冷たい視線に堪える左京です。


(何でこんな目に遭うんだよ……)


 この場から逃げ出したい左京ですが、逃げたら「有罪」にされそうなので逃げられません。


「ああ、冗談ですよ、璃里さん。左京とはそんな事してませんから」


 ありさは璃里が本気で左京を疑っているのに気づき、慌てて言い添えました。


「そうなんですか」


 璃里はありさの言葉に思わず樹里の口癖で応じました。


「マスミンはどっちがいい?」


 ありさがお腹をさすりながら加藤警部に尋ねました。加藤警部は顔を赤くして、


「元気ならば、男でも女でもいいよ」


「そう」


 嬉しそうに微笑むありさを見て、左京はちょっと驚いています。


「蘭が知ったら、地団駄踏んで悔しがるな」


 左京がニヤリとして言うと、


「蘭さんなら、さっき検診が終わって帰りましたよ。ありささんより四週早い妊娠らしいです」


 璃里が教えてくれました。


「ええええ!?」


 左京とありさと加藤警部は見事なハモりで驚きました。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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