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樹里ちゃん、新たな映画出演を依頼される

 御徒町樹里は世界的な大企業になった五反田グループの創業者である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 そしてまた、ハリウッド進出ももう少しというママ女優でもあります。


 いつものように愛娘の瑠里をベビーカーに乗せて出かけます。


「樹里様、おはようございます」


 そして、これもまたいつものように昭和眼鏡男と愉快な仲間達が敬礼して待っています。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「おはよ、たいちょ」


 瑠里も笑顔全開で応じました。


「おお!」


 眼鏡男達は、瑠里が「たいちょ」と言った事に感動し、打ち震えました。


(雨の日も風の日も雪の日も樹里様と瑠里様をお守りし続けて来た甲斐があった)


 感無量の眼鏡男ですが、樹里と瑠里はもう保育所に向かってしまい、愉快な仲間達ですら、彼を置いてきぼりにしていました。


 血の涙が出そうになる眼鏡男です。


 


 樹里は瑠里を保育所に預け、JR水道橋駅に向かいました。


 全面カットされた保育所の男性職員の皆さんを哀れむ余裕を見せる眼鏡男達です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 そして、これもまたいつもどおり、何事もなく樹里は五反田邸に到着しました。


「では樹里様、またお帰りの際に」


 プライベートが謎に包まれている眼鏡男達が敬礼して去りました。


「おはようございます、樹里さん」


 婚約者の目黒祐樹との結婚式の日取りも決まり、後は玉の輿に乗るだけだと嫌らしい事を計算している赤城はるな改め卯月うづき弥生やよいが挨拶しました。


「違います!」


 弥生は、根も葉も茎もない地の文の妄想に切れました。でも顔がニヤけているのは紛れもない事実です。


「幸せそうですね、キャビーさん」


 樹里が昔の名前で呼んだので、盛大に転ぶ弥生です。


「樹里さん、私は卯月弥生です。せめて、赤城はるなで止めておいてくれませんか?」


 昔懐かしい三段逆スライド方式でボケた樹里に、弥生は苦笑いして言いました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。弥生は嫌な汗をハンカチで拭いながら、


「お友達の船越なぎさ様がお見えですよ」


 今日は朝から疲れると思う弥生です。樹里のボケだけならまだしも、メガトン級の不思議ちゃんであるなぎさが来ているからです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 樹里が応接間に行くと、ソファにはなぎさの他に恋人の片平栄一郎がいました。


「やっほー、樹里。元気だった?」


 なぎさはピョンとソファから立ち上がって言いました。


「お久しぶりです、樹里さん」


 栄一郎は汗をハンカチで拭いながら立ち上がり、挨拶しました。


「おはようございます、なぎささん、栄一郎さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「今日はさ、樹里にお願いがあって来たの」


 なぎさは樹里に手を引いてソファに戻ります。樹里は向かいのソファに腰を下ろしました。


「そうなんですか」


 すると栄一郎が、


「先日、大村の叔母様の賞をなぎささんがいただいたのはご存知ですよね?」


「はい。式にも呼ばれました」


 樹里は微笑んで応じます。なぎさは身を乗り出して、


「叔母様のお陰でさ、私の小説、もう百万部突破なんだって。そしたらさ、あのメイド探偵のプロフェッサーが映画にしないかって言って来たの」


 樹里はキョトンとしました。


「あーいやいや、プロフェッサーではなくて、プロデューサーですよ、なぎささん」


 栄一郎が訂正しました。


「あれ、そうだっけ? まあいいや」


 なぎさはテヘッと舌を出してから、


「そしたらさ、主演の看護師役を樹里に依頼して欲しいって、言われたの。でも、樹里はメイドだからダメですよって言ったの」


 映画の役だから別に大丈夫だと思う地の文です。


「あーいやいや、樹里さんなら看護師の資格もお持ちですから大丈夫ですよと言い添えました」


 慌てて栄一郎が話を修正しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そんな事だから、どう、樹里? 出てくれる?」


 なぎさは何故か目をウルウルさせて樹里の手を握りました。百合の世界が始まりそうな予感がする地の文です。


「いいですよ。私がメイド探偵の映画に出られたのは、なぎささんのお陰ですから」


 樹里はなぎさの手を握り返して応じました。いよいよ始まる百合の世界でしょうか?


「ありがとう、樹里! 大好き!」


 なぎさは樹里に抱きつきました。


「ありがとうございます、なぎささん」


 樹里もなぎさを抱きしめました。


 


 その頃、なぎさが樹里のところに行ったとは知らない上から目線推理作家の大村美紗は、メイド探偵の第四弾の製作の打ち合わせをするためにテレビ局に来ていました。


「第四弾は、先生のご意向通り、船越なぎささんを降板させる事にしました」


 揉み手の有段者のプロデューサーが高速揉み手を繰り出して言いました。


「あらそう。そこまでしなくても良かったのにね」


 口ではなぎさの降板を哀れんでみせる美紗です。どこまでも腹黒いオバさんです。


(また悪口が聞こえるけど、きっと誰にも聞こえていないのよね)


 騒ぎ立てると自分が病気扱いされるのを悟った美紗は何も言いません。少しは学習したようです。


「なぎささんは、先日刊行された『黒い救急車』の映画製作でお忙しいので、こちらには出られないのですよ。ちょうど良かったですね、先生」


 プロデューサーは、美紗の我が儘を聞き入れ、その上なぎさのミリオンセラーの小説の映画化もできて、成城に豪邸が建てられると妄想しています。


「ひいい!」


 美紗はなぎさの「大村美沙賞受賞」を思い出し、顔を引きつらせました。


「御徒町さんもそちらに主演なので、メイド探偵役はオーディションで選考する事になりました」


 プロデューサーはメイド探偵を見限ったようです。どこまでも金に汚いおっさんです。


「何だと!?」


 プロデューサーはありのままの事実を述べただけの地の文に切れました。


「どうなさいましたの?」


 美紗が不思議そうな顔で見ているので、プロデューサーは嫌な汗を拭いながら、


「いえ、何でもありません」


 そう言って誤摩化しました。


「さすが大村先生ですね。なぎささんの小説がヒットすると見越しての降板要請だったのですね?」


 プロデューサーはどこまでも太鼓持ち体質です。


「おほほ、そ、そうですわ。あの子も私に似て、文才があるんですのよ」


 意識が飛びそうになるのを堪え、心にもない事を言って乾いた笑いをする美紗でした。


 


 めでたし、めでたし。

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