樹里ちゃん、赤城はるなの婚約を祝福する
御徒町樹里は世界に躍進する企業グループの創業者である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
そして、劇場版第三弾も大ヒット御礼中の女優でもあります。
今日は、不甲斐ない夫の杉下左京は勿論の事、昭和眼鏡男と愉快な仲間達も保育所の職員さん達も登場をカットされました。
それもこれも、夜更かしメイドの赤城はるなのせいなのは内緒です。
「そんな事言ったら、内緒じゃないでしょ!」
ご本人登場にニンマリする地の文です。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
「おはようございます、樹里さん」
妙にニヤついていて気持ち悪いはるなです。陽気のせいでおかしくなったのでしょうか?
「違います!」
はるなはもう一度地の文に切れました。
「ほら、またあの子、誰もいない方に向かって怒鳴ってる。病院を紹介した方がいいわ、ヌート」
玄関の車寄せの柱の陰からはるな達を見ていた有栖川倫子ことドロントが黒川真理沙ことヌートに言いました。
「私もそう思ってキャビーに言ったのですが、拒絶されました」
ヌートは困り顔で応じました。ドロントは腕組みして、
「それなら、私が力ずくで連れて行くわ」
指をボキボキ鳴らしました。血の雨が降ると思う地の文です。
いつもと違ってウキウキしているはるなの様子に気づいた警備員さん達が尋ねようとしましたが、
「では、仕事に取りかかりましょう」
全く気づいていない樹里がはるなを連れて行ってしまいました。
はるなのパンチラが見られなかった時と同じくらい落ち込む警備員さん達です。
「そんな事はありません!」
地の文の勝手な憶測に全力で抗議する警備員さん達です。
(やっぱり樹里さんは訊いてくれないんだ……)
話したくて仕方がないはるなは、樹里の鈍感さに落ち込みました。
それからしばらく仕事を続けたはるなは、どうしても樹里に話したくて仕方がなくなり、
「樹里さん、ちょっといいですか?」
すると樹里は笑顔全開で、
「私は仏教徒ですよ」
以前、ドロントにかました宗教ボケを放ちました。項垂れるはるなです。
「いえ、そうではなくて、ちょっとお話があるんです」
はるなは何とか立ち直って告げました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「ええとですね……」
もじもじしてなかなか言わないはるなです。おしっこを我慢しているのでしょうか?
「セクハラ反対!」
はるなは微妙にエッチな地の文の発言に切れました。
「婚約したのですね?」
いきなり樹里が言ったので、仰天して本当にチビりかけたはるなです。
「ど、どうしてそれを?」
はるなは某漫画の登場人物が言ってしまう台詞を口にしました。
「はるなさんが、左手の薬指に指輪をはめているからですよ」
樹里は笑顔全開で名推理を展開しました。
「そうなんですか」
理由がわかって、思わず樹里の口癖を言ってしまうはるなです。
樹里とはるなは休憩にして、キッチンでお茶を飲みました。
「祐樹が、昨日の夜、ホテルのレストランでプロポーズしてくれたんです。君とこれからの人生を共に過ごしたいって……」
そう言って、キャッと照れるはるなに嫉妬してしまう地の文です。
「おめでとうございます、はるなさん。良かったですね」
樹里は笑顔全開で祝福しました。
「ありがとうございます、樹里さん」
はるなは涙ぐんで言いました。幸せいっぱいの彼女に地の文も心からお祝いを言いたいと思います。
「式はどうするのですか?」
樹里がお茶を淹れながら尋ねました。はるなは顔を紅潮させて、
「取り敢えず、入籍をすませて、その後で祐樹の親族の方にご挨拶をして、祐樹がグループの社員になってからです。だから、まだ当分先ですね」
一刻も早くはるなのウェディングドレス姿が見たい地の文です。
「樹里さんと左京さんに婚姻届の証人になって欲しいのですけど、いいですか?」
火照る顔を手で扇ぎながら、はるなが言いました。
「いいですよ。左京さんはしばらく戻らないですけど」
そんな事を笑顔全開で言う樹里に顔を引きつらせたはるなが、
「今すぐという訳ではないので、大丈夫ですよ」
苦笑いをして言いました。
「そうなんですか」
樹里はそれでもなお笑顔全開で応じました。
それをドアの向こうで立ち聞きしていた倫子と真理紗です。
「良かったですね、首領。キャビーもこれで普通の女性として生きていけますね」
真理紗が涙ぐんで言うと、
「そんな簡単にはいかないわよ」
倫子はそう言って、廊下を歩いていきます。
「そんな、首領、意地の悪い事をおっしゃらないでくださいよ」
真理紗が慌てて倫子を追いかけます。
「意地悪で言ってるんじゃないわ」
倫子はチラッと振り返って言いました。キョトンとする真理紗です。
はるなは樹里夫妻が証人になってくれるのを喜んでいましたが、
「そう言えば、はるなさんは本当のお名前は何というのですか?」
樹里のその一言で、はるなは幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされました。
嫌な汗がこれでもかと出て来るはるなです。
(わ、私、赤城はるなは偽名だっていう事をすっかり忘れてた!)
血の気が引き、気絶しそうになるはるなです。何を今更と思う地の文です。
「私の本当の名前は、卯月弥生です」
項垂れて答えるはるなに樹里は首を傾げました。
「そうなんですか?」
今まで偽名で付き合っていた事を祐樹に何と説明したらいいのかわからず、パニックになりそうなはるなです。
「どうしたんですか、はるなさん?」
樹里がはるなの顔を覗き込むと、はるなは目を開いたままで気を失っていました。
はてさて、どうなる事やら。




