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樹里ちゃん、完成試写会に出席する

 御徒町樹里は世界に躍進する大企業である五反田グループの創業者の五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今や一流芸能人の仲間入りを果たしたママ女優でもあります。


 樹里と親友の船越なぎさ、そして五反田氏の愛娘である麻耶が出演した「劇場版 メイド探偵は見た ザ・ムービー 史上最強の執事」の完成試写会が銀座に新たにできた五反田グループの複合型ショッピングモールの一角にある映画館で開催されました。


 主演である麻耶、そして樹里、実は前作で死亡しているはずなのにそれを無視してまた登場している設定のなぎさも来るという事で、館内はまさに鮨詰め状態です。


 世の中、たで食う虫も好き好きの人が多いと思う地の文です。


「私はトロが好きだよ」


 突然妙な事を言い出すなぎさにスタッフと麻耶は顔を引きつらせますが、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。今日は、先日の子守りのお返しとして、娘の瑠里は樹里の母親の由里が預かっています。


「まーやちゃーん」


 五反田クループの精鋭達が結成した麻耶の応援団がバリトンボイスで声援を送りますが、当の麻耶は苦笑いです。


 一歩間違えると危ない集団にも見えます。


(お父さんに言って、解散してもらおうかな)


 恥ずかしくて仕方がない麻耶ですが、お父さんがそんな事をしたら、社員達にとってどれほど恐ろしい状態なのか知らないもうすぐ六年生です。


 応援団の皆さんを一家離散に追い込まないで欲しいと願う地の文です。


(次回作には絶対になぎさは登場させないわ)


 原作者の大村美紗は魔女のような顔でほくそ笑んでいます。そして、相変わらずなぎさを視界に入れていません。


(次回作にも出演していただくわ)


 美紗は、隣に立っているイケメン俳優の加古井かこいおさむに熱い視線を向けて思いました。


 でも、今作で加古井の演じる執事は最後に崖から飛び降りて死んでしまうのを忘れている美紗です。


 なぎさも死んだはずなのに出ているのですから、もう何でもありなのだろうと推測する地の文です。


「それでは、主演の五反田麻耶さんに映画の見どころをお話していただきましょう」


 司会の女性が微笑んで言いました。


 麻耶は緊張でカチコチになりました。


「頑張れ、まーやちゃーん」


 応援団の皆さんがここぞとばかりにバリトンボイスで叫びました。


(あ、緊張が解けた)


 応援団のバリトンボイスが功を奏したのか、麻耶はリラックスできました。


「今回のお話は、加古井理さんを執事役でお迎えして、なぎささんと樹里さんのメイドさんとの対決が一番の注目点です。緊迫した三人のやり取りを見逃さないでください」


 麻耶は監督に指示された通りに言えて、ホッとしました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「私はNGシーンが一番面白いと思うよ」


 なぎさが言いました。会場が爆笑の渦に包まれます。


(いやいや、NGシーンなんてないし……)


 微笑んだままでなぎさのトンデモ発言に心の中で突っ込む加古井です。


「一番NG出したのは、加古井さんだよね?」


 なぎさは更に暴走し、言ってはいけない事を喋ってしまいました。凍りつくスタッフです。


 加古井も観客の目があるので無理して微笑んでいますが、


(このボケ女、あとでぶっ飛ばしてやりたい)


 怒りの炎をメラメラと燃やしていました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


(なぎさ、もっと失言しなさい。そうすれば次回作は降板間違いなしよ!)


 また悪い魔女のような顔でニヤつく美紗です。


(どうして笑っているのよ、お母様?)


 壇上の隅で見ている娘のもみじは心配そうです。


(神経内科で処方してもらった薬が弱いのかしら?)


 もう一度母親を病院に連れていこうと決意するもみじです。


「では、加古井さん、何か一言お願いします」


 司会の女性が加古井に振りました。加古井はフッと笑い、会場の女性客の悲鳴と隣の美紗の卒倒を呼びました。


 もみじが慌てて登壇し、美紗は退場となりました。


「このシリーズは三作目となりましたが、一番面白いできだと思っています。これから二時間、じっくりご堪能ください。決して飽きさせません」


 加古井がそう言うと、拍手が巻き起こり、黄色い声援があちこちから聞こえました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


「ありがとうございました。では、本編をお楽しみください」


 司会の女性が締めの言葉を言うと、


「あれ、私達は観られないの?」


 なぎさが言いました。


「これからテレビ局で映画の宣伝ですよ」


 スタッフが告げました。するとなぎさは口を尖らせて、


「ええ? 私も観たいよお。残っていいでしょ? ちゃんとお金払うから」


 会場がどよめき始めたので、恋人の片平栄一郎も手伝って、なぎさは強制退去となりました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


「樹里さん、次回作でまた会いたいですね」


 加古井が樹里の耳元で言いました。


「そうなんですか」


 樹里の薄いリアクションに心が折れそうになった加古井ですが、


(これが彼女の魅力だ。いつか俺のものにしてやるさ)


 魔王のような笑みを口元に浮かべ、立ち去りました。


「加古井さんて、樹里さんの事が好きなのかな?」


 麻耶がつまらなそうに呟いたのを聞き、ボーイフレンドの市川はじめはギクッとしました。


「違いますよ」


 樹里が言いました。麻耶は、


「え? どうして?」


 首を傾げて尋ねました。それを見てドキドキしてしまうはじめです。


(麻耶ちゃん、可愛過ぎる……)


 涙まで流しています。


「私には夫がいますから」


 樹里は笑顔全開で言いました。


(樹里さん、この際それはあまり関係ないと思う)


 顔を引きつらせる麻耶です。


 


 めでたし、めでたし。

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