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樹里ちゃん、芸能事務所にゆく

 御徒町樹里は日本だけではなく世界にその勢いを伸ばしている五反田グループのトップの五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 そして同時に日本有数のママ女優でもあります。


 ある事件を切っ掛けにして、樹里とその親友の船越なぎさの身を案じた五反田氏の計らいで、二人は芸能事務所に所属する事になりました。


 樹里はなぎさと共にその事務所に挨拶に行きました。


 愛娘の瑠里も一緒です。


 事務所があるビルまで行く間、あまりにも似ている樹里母子を見て、通行人達が目を見開きました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。そして、ベビーカーの瑠里も笑顔全開です。


「いいなあ、樹里は瑠里ちゃんがいて。私も早く赤ちゃんが欲しいよ、栄一郎」


 なぎさが大声で言いました。恋人の片平栄一郎はもうすぐ十七歳ですが、なぎさの大胆発言に顔が真っ赤です。


「な、なぎささん、そういう事はあまり大声で言わないでください」


 栄一郎は汗を拭いながら言いました。


「私も赤ちゃんが早く欲しいよ、栄一郎」


 なぎさは小さな声で栄一郎に言いました。


「な、なぎささん、吐息がかかってくすぐったいです」


 栄一郎はますます顔を赤らめて言いました。


「ぼ、僕は来年十八歳になりますから、そうしたらなぎささんと結婚できますよ」


 栄一郎は火照った顔を扇いで言います。するとなぎさは口を尖らせて、


「ええ? そんなに待つの? 別にいいじゃん、今すぐでも。早く欲しいよ、赤ちゃん」


 暴走が止まりません。栄一郎は爆発しそうなくらい顔が赤くなりました。


「な、なぎささん、そのお話はまた改めてしましょう」


「そうなの?」


 なぎさは栄一郎が具合が悪そうなので心配になりました。


「大丈夫、栄一郎? 具合でも悪いの? そこで休んで行く?」


 なぎさが指差したのは、偶然にもある特定のホテルでした。


「あはは、何言ってるんですか、なぎささん。急ぎましょう」


 栄一郎は自我が崩壊しそうになるのを押し止め、なぎさの手を取ると大股で歩きました。


「ああん、どうしたの、栄一郎? 元気になったの?」


 また意味深な言葉を繰り出すなぎさです。


「そうなんですか」


 樹里の相槌も意味深です。栄一郎は倒れそうになりました。


(僕も男なんですから、その無意識の誘惑はやめてください、なぎささん)


 垂れそうになる鼻血を堪え切るところが不甲斐ない夫の杉下左京と違うと思う地の文です。


「そんなところで引き合いに出すな!」


 どこにいるのかわからない左京が切れました。きっと熱血弁護士と同じ夢でも見ているのでしょう。


「誤解を招くような事を言うな!」


 更にヒートアップする左京です。しかし、地の文はそれを無視しました。


 


 しばらくして、樹里達は芸能事務所があるビルに着きました。


「このビルの二十階にある『オッカー』というプロダクションですね」


 栄一郎がビルに掲示されている看板を見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ええ? 二十階? そんなに階段昇れないよ。行くのやめようよ」


 なぎさがトンデモ発言です。栄一郎は項垂れそうになりながら、


「エレベーターがあるから大丈夫ですよ、なぎささん」


「そうなんだ。良かった。ね、樹里?」


 なぎさは何故か樹里に同意を求めました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


「確か、ママタレの方が多いと聞きました」


 栄一郎がエントランスに通じるドアを押し開いて言いました。


 なぎさと樹里が先に入ります。


「ママタレ? 樹里と一緒だね」


 なぎさは樹里と瑠里を見ながら言います。


「お待ちしておりました。御徒町樹里さんと船越なぎささんですね?」


 エントランスの奥から姿を見せた口髭を生やした紳士的な男性が声をかけてきました。


「私、オッカーの代表取締役の山村やまむらごうです」


 そう言って名刺を取り出します。


「豪ちゃん?」


 なぎさがいきなりタメ口態勢です。栄一郎がギクッとしますが、山村社長は五反田氏から樹里となぎさの「特性」を聞いていたので驚きません。


「はい、豪です。よろしくお願いします」


 山村社長は微笑んで応じました。


「よろしくお願い致します」


 いつものメイド癖が出て、深々とお辞儀をする樹里です。


「おえがいします」


 瑠里もママの仕草を見て真似をしました。


「おお! 素晴らしい! 貴女のお子さんですか、御徒町さん?」


 山村社長が尋ねました。


「はい。瑠里と言います」


 樹里は笑顔全開で答えました。


「いやあ、将来有望ですね。では、どうぞこちらへ」


 山村社長は瑠里を褒めちぎりながら、事務所への専用エレベーターへと案内しました。


 瑠里に目をつけるとは、恐るべきロリコンだと思う地の文です。


「断じて違いますから!」


 山村社長は、憶測で話を進めようとする地の文に猛然と抗議しました。


「ウチの事務所はママさんが多いので、子役部門もあるのですよ」


 自分の趣味で会社を経営している人は怖いと思う地の文です。


「ロリコンから離れろ!」


 しつこい地の文に山村社長はまた切れました。


 


 そして、樹里達はオッカーのフロアに到着しました。


「皆さん、今日からここに所属する事になった御徒町樹里さんと船越なぎささんだ。よろしく頼むよ」


 山村社長がフロアの中にいた所属タレント達に言いました。


(うわ、凄い嫉妬の渦が見えるようだ)


 栄一郎はなぎさと樹里を見るタレント達の視線の鋭さに息を呑みました。


「よろしくね!」


 そんな事をミドリムシほども感じないなぎさはいつものように陽気に挨拶しました。


「よろしくお願い致します」


 樹里はメイド癖の続きで深々とお辞儀をしました。もちろん、樹里も羨望の眼差しで見られている事に気づいていません。


(お二人が心配だな)


 嫌な汗を一人で掻いている栄一郎です。

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