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樹里ちゃん、罠にはまる?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、映画とテレビで活躍する女優でもあります。


 今日は、早くも第三作という乱作ぶりを見せつけている「メイド探偵は見た 史上最強の執事」の撮影日です。


 樹里はいつも通り、笑顔全開で愛娘の瑠里をベビーカーに乗せて出かけます。


 不甲斐ない夫の杉下左京は、未だに家に帰って来ません。


 もう失踪宣告を受けた方がいいと思う地の文です。


「俺は行方不明じゃねえよ!」


 またどこからか、左京の叫び声が聞こえました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で出かけました。


「樹里様、おはようございます」


 前回、樹里の手作りチョコをもらったのでまだテンションが高いままの昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


 樹里にもらったチョコを食べるのがもったいなくて、真空パックで保存しているのは内緒です。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 今日の撮影はスタジオです。樹里はJRではなく、都営三田線の水道橋駅に向かいました。


 そこから次の駅の神保町で都営新宿線の乗り換え、九段下駅で下車です。


「今日は外で撮影ですか。日傘をどうぞ」


 眼鏡男がサッと白い傘を差し出しました。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で受け取り、撮影場所である日本武道舘へと向かいました。


「では樹里様、また後ほど」


 眼鏡男達は敬礼して言いました。場所が場所だけに神聖な感じがする地の文です。


 


 樹里が武道館の前に行くと、親友の船越なぎさがすでに来ていました。


「やっほう、樹里!」


 元気に手を振るなぎさです。


「おはようございます、なぎささん」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「おはよ、なぎさお姉たん」


 瑠里も笑顔全開で言いました。


「おはよ、瑠里ちゃん! 大きくなったね!」


 そう言って瑠里に手を振るなぎさですが、昨日も会っているのは秘密です。


「おはよう、樹里さん、瑠里ちゃん!」


 五反田氏の愛娘で、主演の麻耶がニコニコしながら近づいて来ました。


 その後ろから、今作のダークヒーロー役の加古井かこいおさむがやって来ました。


 原作の大村美紗が加古井に会いたくて小説を書いたのは絶対に言ってはいけない秘密です。


「誰か私の秘密を喋っているような気がするわ、もみじ」


 美紗は娘のもみじと来ていました。相変わらずなぎさには目を向けていません。


「誰も何も言っていないわよ」


 もみじは呆れ顔です。


(今日こそ神経内科に連れて行かないと)


 決意を新にするもみじです。


 樹里は瑠里を係員さんに預け、撮影に臨みます。


 今日は、執事役の加古井が樹里となぎさに追いつめられて、本性を現すシーンの撮影です。


「本番です」


 助監督が出演者に呼びかけました。現場に緊張感が漂います。


「監督、おしっこ」


 なぎさが全てを台無しにする発言です。


「休憩入りまーす」


 項垂れながら告げる助監督です。


 その時、加古井が樹里に近づきました。


「樹里さん、僕の車で休みませんか?」


 加古井は下心を押し隠して爽やかな笑顔で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 普通なら、何かあると思うのですが、人を疑わない選手権優勝候補の樹里は、そんな事はピコレベルにも思いません。


「さあ、どうぞ」


 加古井の車はキャンピングカーで、中にソファがありました。しかもベッドにもなるいけないソファです。


(俺を落とした貴女を今日こそ頂くよ、樹里)


 すでに加古井はやる気満々です。展開的にギリギリだと思う地の文です。


「どうぞ」


 加古井は睡眠薬入りのコーヒーが入ったカップを樹里に渡します。


「ありがとうございます」


 樹里は全く警戒する事なくそれを飲み干してしまいました。


(数秒後には俺の腕の中で眠っている)


 加古井はニヤリとして樹里の服を脱がせる妄想をします。


(もういいだろう)


 加古井は眠りに落ちた樹里に襲いかかろうとして彼女を見ました。


「ご馳走さまでした、加古井さん」


 樹里は笑顔全開で加古井にお礼を言いました。


「え?」


 加古井はどうして樹里が起きているのか理解できず、呆気に取られてしまいました。


「では、失礼致します」


 樹里はそのまま車を降り、撮影に戻ってしまいました。


「そんなバカな!」


 加古井はやっと我に返り、樹里が飲み干したカップを確かめます。


「確かに飲んでいる。どうしてなんだ?」


 疑問に思っているうちに、樹里が口をつけた箇所が気になり始めます。


「ここから飲んだのか」


 ニヘラッとして間接キスを堪能するちょっと変態になった加古井です。


「くう」


 その途端、僅かに残っていた睡眠薬が効き、ソファに倒れ込む加古井です。


 


「加古井君はどうしたんだ?」


 監督がイライラして言いました。


「監督を待たせるなんて、仕方がないわね、加古井君も」


 なぎさが肩を竦めて言うのを聞き、苦笑いする麻耶と助監督です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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