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樹里ちゃん、雪掻きをする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 そして、押しも押されもせぬ映画女優でもあります。


 


 今日は映画の打ち合わせも撮影もありません。樹里はいつものように愛娘の瑠里をベビーカーに乗せて保育所に向かいます。


 不甲斐ない夫の杉下左京は珍しく仕事が入り、帰って来ていません。


 もしかすると若い美人の弁護士と浮気しているかも知れないとさり気なく番外編を宣伝する気が利く地の文です。


 でも、よく考えたら、樹里の方が若くて美人だと思う地の文です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


「樹里様、ご主人が心配ではありませんか?」


 昭和眼鏡男が尋ねました。彼は左京の不貞を疑っています。


「心配ではありませんよ」


 樹里はまたしても笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 眼鏡男と愉快な仲間達は樹里の口癖で応じました。


 そして、いつものように保育所に瑠里を預け、JR水道橋駅へと向かいます。


「樹里様、先日の雪がまだ日陰に残っていますので、お気をつけください」


 樹里を気遣いながら、自分でシルクド○レイユ並みの鮮烈な転び方をする眼鏡男です。


「大丈夫ですか?」


 樹里が眼鏡男に声をかけました。


「大丈夫です」


 眼鏡男は激痛をこらえながら涙目で応じました。でも樹里に声をかけてもらったので、痛みを忘れるほど嬉しいようです。




 樹里は一度も転ぶ事なく五反田邸に着きましたが、眼鏡男達は満身創痍です。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は痛みにえて敬礼しました。でも、某首相は感動してくれません。


「お気をつけて」


 樹里の労いの言葉に元気百倍になる眼鏡男と愉快な仲間達です。


「樹里さん、おはようございます」


 住み込みメイドの赤城はるなが挨拶しました。彼女はすでに邸の雪掻きで汗塗れです。


「おはようございます、キャビーさん」


 完全に油断していたところに突然の攻撃を受け、パンツ丸見えの転び方をするはるなです。


 警備員さん達が色めき立ったのは言うまでもありません。


「私ははるなですよ、樹里さん。忘れた頃に急にその名前で呼ばないでください」


 はるなは苦笑いして起き上がり、服に着いた雪を払い落としました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 


 しばらくして、雪掻き用のフリース上下とダウンジャケットに着替えた樹里とはるなは、広大な庭の雪掻きを始めました。


 警備員さん達は邸の外回りの雪掻きをしています。


「私達も手伝いますね」


 呼んでもいないのに五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師である有栖川ありすがわ倫子りんこと医師の黒川真理沙が出て来ました。


「うるさいわね!」


 適当な登場のさせ方をした地の文にコソッと切れる倫子です。


「ありがとうございます、真理沙さん、ドロントさん」


 苦笑いする真理沙とズッコける倫子ことドロントです。スキーウェアに着替えているので、パンツは見えません。


「私は有栖川倫子です、樹里さん。間違えないでください」


 嫌な汗を垂らして抗議する倫子です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。


 樹里は三人と協力して効率良く雪を掻き、庭のあちこちにある側溝に落とします。側溝には水が流れており、雪をたちまち融かします。


 融けた雪と水は庭の地下深くにある巨大な貯水タンクに蓄えられ、浄化システムを介して、五反田邸の飲料水として再利用されます。


 無駄遣いの塊のように見えて、実はすごくエコな五反田邸です。


 


 やがて、日も高くなった頃、雪掻きが終了しました。


「終わったあ!」


 大きく伸びをして叫ぶはるなです。


「皆さん、お疲れ様です」


 樹里がかき氷を持って来てくれました。互いに顔を見合わせて苦笑いするドロント一味です。


「だから、私達はドロント一味じゃないです!」


 三人は声を揃え地の文に抗議しました。見え透いた事を言う女共だと思う地の文です。


「ああ、でも、身体が火照っているから、美味しい!」


 かき氷を頬張ったはるなが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ホントね」


 倫子と真理沙も微笑み合いながら呟きました。


「こういう穏やかな日ばかり続くといいのにね」


 倫子が言いました。


 その分の皺寄せが全部左京に行っていると思う地の文です。




 めでたし、めでたし。

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