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樹里ちゃん、劇場版第三弾に出演決定する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ドラマ「メイド探偵は見た」の主演女優です。


 しかも、あの欲と二人連れのプロデューサーが早くも劇場版第三弾製作を発表しました。


 予告通り、主役は五反田氏の愛娘の麻耶です。


 どこまでも媚を売る金の亡者のプロデューサーです。


「うるさい!」


 真実を語ろうとした地の文に切れるプロデューサーです。


 


 今日は映画の打ち合わせがあるので、樹里は愛娘の瑠里を保育所に預けると、テレビ局の車に迎えに来られました。


「樹里様にはご機嫌麗しく……」


 同行しようとしてボディガードに止められてしまった昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


「ヤッホー、樹里!」


 その車には親友の船越なぎさが乗っていました。




 原作者の大村美紗は、なぎさを出さないプランを練ったのですが、麻耶が、


「なぎさお姉ちゃんとまた一緒に出られるなんて嬉しい」


と言ったので、涙を呑んでなぎさの出演を認めました。


(麻耶ちゃんのご機嫌を取らないと)


 プロデューサーに負けないくらい欲と二人連れの美紗です。


「また悪口が聞こえたわ。どういう事?」


 自宅を出ようとしたところで、地の文の声を聞いた美紗が狼狽えました。


「お母様、そんな事ないわよ」


 娘のもみじが呆れてたしなめました。


「やっぱり今日は行かないわ。きっとなぎさが来ているでしょうから」


 美紗は自分の小説が原作の映画の打ち合わせに行かないようです。


 どこまでも我が儘なバアさんです。


「ほら、また聞こえたわ。もみじ、どうして貴女には聞こえないのよ!」


 美紗は苛ついて叫びました。呆れるしかないもみじです。


(今度病院で精密検査を受けさせよう)


 本気でそう思いました。


 


 樹里となぎさを乗せた車がテレビ局に到着しました。


「樹里さん、なぎさお姉ちゃん!」


 麻耶が嬉しそうに手を振って出迎えてくれました。そんな麻耶を微笑んで見守る五反田氏です。


「お待ちしておりました」


 プロデューサーが指紋がなくなるくらいの高速揉み手で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「どうぞ、こちらです」


 局の廊下をしばらく歩き、会議室の前に着きました。


 中に入ると、いつもの配役である詰橋つめはしいさお高瀬たかせ莉維乃りいのがいました。


「今回大きな役割を果たす執事役でご出演の加古井かこいおさむさんです」


 プロデューサーの紹介でお辞儀をしたイケメン俳優に麻耶が目を見開きました。


「かっこいい!」


 洒落のような事を言ってしまう麻耶です。


「初めまして、加古井理です。皆さんのチームワークを乱さないように頑張りますので、よろしくお願いします」


 切れ長の目と高い鼻。麻耶はまだ小学五年生なのにすっかり加古井の虜です。


 ボーイフレンドの市川はじめが知ったら、血の涙を流すでしょう。


「今回は、御徒町樹里さんと恋仲になる設定ですので、今からドキドキしています」


 加古井は多くの女優を落としてきた流し目で樹里を見ました。


「そうなんですか」


 でも、樹里はいつも通りのリアクションです。


(何だと? この僕の流し目に落ちないのか?)


 加古井は一瞬ですが樹里を睨みました。


「ああん、かっこいい!」


 すでに熱狂的な加古井ファンになってしまった麻耶を心配そうに見つめる五反田氏です。


(撮影が終わるまでには、僕なしでは生きられないくらいにしてやるよ、樹里さん)


 加古井はフッと笑いました。


「加古井君、今日飲みに行かない?」


 莉維乃まで落ちてしまったようで、早速誘って来ました。


「はい、喜んで」


 加古井は爽やかな笑顔で応じました。


「では、打ち合わせを始めさせていただきます」


 プロデューサーが言いました。


 


 その頃、不甲斐ない夫である杉下左京は、自分を狙っている京亜久きょうあく半蔵はんぞうを警戒しながら、探偵事務所に行きました。


(今度の映画には、悪い噂が絶えない加古井理が出ると聞いた。心配だ。樹里は純粋だから、すぐに騙されてしまいそうだし)


 左京は自分の命より樹里の心配をしていました。


「左京さん、どうしたんですか?」


 樹里の姉の璃里が左京の顔を見て尋ねました。記憶力がのみよりない病気なのがわかったのでしょうか?


「そんな事あるか!」


 左京は的確な表現をした地の文に切れました。


「映画の共演者に女癖の悪い俳優がいるんです。樹里が心配で」


 左京が言うと、璃里は微笑んで、


「大丈夫ですよ、左京さん。樹里が好きなのは貴方だけですから」


「え?」


 そんな事を言われると妙に照れ臭い左京です。


「そ、そうですか?」


「そうですよ」


 左京は璃里の言葉で落ち着く事ができました。


 


 そして、珍しく浮気調査の依頼が入っていた左京は、その日は夜まで仕事をしました。


 やっとアパートに帰った時には、樹里が瑠里をお風呂に入れている頃でした。


「お、台本か」


 左京はテーブルの上に置かれた映画の台本に気づき、手に取りました。


「へえ、こんなに細かく決められているんだな。立ち位置からライトの角度から。すごいな」


 感心しながらペラペラとページを捲る左京です。


「げ」


 そして、あるページで凍りつきそうになりました。


(樹里とあの俳優のキスシーン、だと!?)


 左京は妄想が暴走し、鼻血が噴き出して気絶しました。


「左京さん、どうしたんですか?」


 お風呂から出て来た樹里が血塗れで倒れている左京を見て驚きました。


「樹里、キス、樹里、キス……」


 譫言うわごとのように呟く左京です。


「はい」


 樹里は鼻血を拭って、左京にキスしました。


「キスしましたよ、左京さん」


 樹里が笑顔全開で言うと、


「ひいい!」


 まるで大村美紗のように痙攣を起こしてまた気絶してしまう左京です。


 


 はてさて、どうなる事やら。

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