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樹里ちゃん、左京に救われる?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 そして、その上、日本でも指折りのママ女優でもあります。


 先日、不甲斐ない夫世界チャンピオンの杉下左京が警視庁にいた時に逮捕して刑務所送りにした凶悪犯が出所し、左京にお礼参りをしようとしました。


 しかし、樹里が無意識のうちに撃退し、事なきを得ました。


「樹里、心配だから送って行くよ」


 左京はアパートを出る樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、


「大丈夫です、樹里様は我ら親衛隊が命に代えてお守り致します」


 事情をどこで知ったのか、昭和眼鏡男と愉快な仲間達が玄関前で揃って敬礼していました。


「そうなんですか」


 樹里と左京はハモって応じました。愛娘の瑠里がキャッキャと笑いました。


 そして、項垂れて見送る左京と、笑顔全開でベビーカーを押す樹里です。


 樹里はいつも通り、瑠里を保育所に預けました。


「今日から瑠里様付きは二人に増員しました」


 眼鏡男が説明しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 樹里は続いて水道橋駅に向かいます。


 眼鏡男達は周囲を警戒しながら進みます。彼らの方が不審者に見えると思う地の文です。


 


 その頃、置き去りにされた形の左京は出かける準備をし、車に乗り込みました。


 その時、携帯が鳴りました。


「はい、杉下探偵事務所」


 左京が出ると、相手は神戸かんべらん警部でした。


「左京、先日の一件、まだ終わった訳じゃないわ。奴は貴方を狙っているのよ」


 蘭は真剣な声で言いました。


「誰だっけ?」


 左京得意の「人の名前を忘れるの術」です。


「術じゃねえよ!」


 気の利いた例えをした地の文に切れる左京です。


「あんた、ホントにバカなの? 京亜久きょうあく半蔵はんぞうよ、忘れたの?」


 蘭が呆れたように言いましたが、彼女も最初は思い出せなかったので同類相憐れむだと思う地の文です。


「いちいちうるさいのよ!」

 

 蘭が電話越しに切れたので、左京が仰天しました。


「どうしたんだよ、蘭?」


「ああ、こめんなさい。最近、幻聴が酷くて」


「そうか、俺もだよ」


 それは幻聴ではないと思う地の文です。


「うるさい!」


 蘭と左京にハモって突っ込まれた地の文です。


「メールで写真を送るわ。確認して」


「わかった」


 左京は蘭から送られて来た写真を見ました。


「全然覚えていない」


 左京はあれほどの凶悪犯顔を忘れてしまったようです。


「バ加藤とダブって見えるからだな」


 妙な納得の仕方をする左京です。加藤警部が可哀想です。


「そいつが京亜久半蔵よ、左京。警戒してね」


 蘭が言い添えました。


「ああ、わかった」


 蘭にメルアドを教えている事を樹里に告げ口しようと思う地の文です。


「ふざけるな!」


 左京は狼狽えて叫びました。


「こっちこそ、迷惑だからやめてよね! たっくん、結構嫉妬深いんだから」


 蘭が電話越しに地の文に抗議しました。


 四十女が「たっくん」とか、気持ち悪いと思う地の文です。


「私はまだ三十代よ!」


 蘭の本気の怒りにビビッた地の文です。


 三十代でも気持ち悪いと思うのは内緒にしておこうと思う地の文です。


「やっぱり樹里が心配だ」


 左京は先に事務所に着いている樹里の姉の璃里に電話して、そのまま五反田邸に向かいました。


 


 一方、京亜久半蔵は左京の予想通り、樹里をつけ狙っていました。


 ですが、眼鏡男達が樹里を囲むように移動しているので、樹里に近づけません。


(邪魔な連中だ。どこかでっちまおう)


 物騒な事を考える半蔵です。出所したのは間違いだと思う地の文です。


 そんなこんなで、樹里達は五反田邸の近くまで来ました。


「おらあ!」


 半蔵は隠し持っていた出刃包丁でいきなり眼鏡男の背中を刺しました。


「何だ、君は?」


 でも全く痛がらない眼鏡男です。彼は真夏以外は甲冑を着込んでいるのです。


 出刃包丁は刃が折れてしまいました。


「このヤロウ、ふざけたもの着やがって!」


 半蔵は激怒して眼鏡男に掴みかかりました。


「あ、京亜久さんですか?」


 樹里が笑顔全開で尋ねました。いきなり全く緊張感のない声をかけられた半蔵はこけそうになりました。


「そうだよ、悪いか!?」


 半蔵は目を血走らせて樹里を睨みました。


「先日は電車を乗り間違えてしまって申し訳ありませんでした」


 樹里は深々とお辞儀をして詫びました。


「え?」


 意外な事を言われ、半蔵はキョトンとしてしまいます。


「お詫びの印です。良かったらお使いください」


 樹里はドラマ「メイド探偵は見た」のグッズの詰め合わせを渡しました。


「おお!」


 眼鏡男達はそのグッズの希少性をよく知っているので羨ましくて血の涙が出そうです。


「あ、ありがとうございます」


 半蔵は樹里の笑顔を見て顔を赤くしました。泣いた赤鬼みたいだと思う地の文です。


「うるせえ!」


 半蔵は容赦がない突っ込みをする地の文に切れました。


「では、失礼致します」


 樹里はまた笑顔全開でお辞儀をすると、ベビーカーを押して行ってしまいました。


「貴方が樹里様の信者だというのはよくわかりましたが、ものには順序があります。まずは同人誌を購入して、ポイントを集めてください」


 眼鏡男は半蔵に同人誌のパンフレットを渡しました。


「はあ……」


 樹里の可愛さに完全にやられてしまった半蔵はそれどころではありませんでした。


(もうあの方を狙うのはやめよう。俺が憎むべきは杉下左京だ)


 半蔵は決意を新たにして、その場を立ち去りました。




「樹里!」


 ちょうど五反田邸の門を通り抜ける樹里に車で駆けつけた左京が叫びました。


「左京さん。どうしたのですか?」


 樹里は不思議そうな顔で左京を見ました。


「大丈夫か? 凶悪犯はどうした?」


 左京は周囲を見渡して尋ねました。


「京亜久さんにはお詫びをしましたよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「はあ?」


 意味がわからない左京です。


 結果的に樹里は左京に救われたのでした。


 


 めでたし、めでたし。

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