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樹里ちゃん、保育所にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、テレビ・映画で活躍する女優でもあります。


 樹里は不甲斐ない夫の杉下左京と一緒に愛娘の瑠里を預かってもらう保育所に来ています。


 今日は樹里は仕事を休みました。左京は仕事がありません。


「うるせえ!」


 涙目で地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 今日は、樹里達は入所の手続きをしに来ました。


「では、書類を確認させていただきますね」


 担当の女性が左京と樹里が座っている椅子の向かいに座って言いました。


「よろしくお願いします」


 左京と樹里は声を揃えて言いました。瑠里は樹里に抱かれて眠っています。


「在職証明書と、源泉徴収票と、確定申告書の写しですね」


 女性は樹里がバッグから取り出した書類に目を通していきます。


 女性は左京の申告書のコピーを見て何故か涙ぐみました。


(何だ?)


 左京は眉をひそめました。


「うげ」


 女性は樹里の源泉徴収票を見て思わず呻いてしまいます。


(な、何これ?)


 珍百景に登録してしまいそうなくらい驚いています。


(源泉徴収税額が百万円を超えている!? ご主人は食うや食わずの所得なのにどういう事なの?)


 思わず樹里をジッと見てしまいました。


(そう言えば、この人、テレビで観た事があるような……)


 ようやく樹里が有名女優だと気づくオッチョコチョイです。


「悪口が聞こえたような?」


 女性は天井を見渡しました。


「も、もしかして、女優の御徒町樹里さんですか?」


 女性は目を輝かせて尋ねました。


「違います」


 樹里は笑顔全開で否定しました。


「え?」


 唖然とする左京と担当の女性です。


「職歴証明書にある通り、私はメイドです」


 樹里は更に笑顔全開で言いました。女性は一瞬イラッとしましたが、


「そ、そうでしょうけど、テレビとか映画にもご出演されてますよね?」


「はい、出させていただいております」


 樹里は謙虚に応じました。上から目線作家に見習って欲しいと思う地の文です。


「では、女優さんでもある訳ですよね?」


 もう一度尋ねるしつこいおばさんです。


「誰がおばさんだ!」


 初めての登場で地の文に突っ込むおばさんです。


「違います。女優ではありません」


 樹里は笑顔全開で全否定します。女性はまたイラッとしました。


(こういう奴なんです、わかってください)


 左京は項垂れながら思いました。


「まあ、それはいいでしょう。それで、奥さんの所得から計算すると、保育料はこれくらいになりますが?」


 女性は電卓を叩いて樹里と左京に見せました。


「年額ですか?」


 顔を引きつらせた左京が尋ねます。すると女性は悪い魔女のような顔で、


「いえ、月額です」


 それを聞いた瞬間、左京は真っ白に燃え尽きました。


「そうなんですか」

 

 でも樹里は笑顔全開です。


「では、よろしくお願い致します」


 樹里は立ち上がって深々と頭を下げました。左京は燃え尽きたままです。


「書類審査を経て、選考会議をします。入所が内定した時は、ご連絡致しますので」


 女性は書類を揃えながら微笑んで樹里を見ました。


(女優の御徒町樹里の娘を預かっているなんてわかったら、希望者殺到ね。もう内定よ、樹里さん)


 悪巧みをするおばさんです。


「うるさいわよ、そこ!」


 またおばさんが切れました。


「失礼致します」


 樹里はようやく意識を取り戻した左京を連れて部屋を出て行きました。


 


 左京は保育料の高さにまだ衝撃を受けており、運転できる状態ではありません。


「俺、事故りそうだから、バスで帰ろう、樹里」


 左京が苦笑いして言いました。


「そうなんですか」


 瑠里をベビーシートに寝かせた樹里が笑顔全開で左京から鍵を受け取り、運転席に座ります。


「え?」


 キョトンとする左京です。


「樹里、免許持ってるのか?」


 左京は仰天しました。結婚して二年近く経つのにずっと知らなかったボケナスです。


「うるせえ!」


 樹里に気づかれないように地の文に切れる左京です。


「都バスの運転手のアルバイトもしてましたよ」


 樹里はゴールド免許を左京に見せました。


(この写真の樹里、可愛い!)


 妙なところに感動するバカおっとです。


 ニヤニヤしながら助手席に乗り込む左京です。


「では、出発しますね」


 樹里はガコンとバックギヤに入れると、タイヤを軋ませて駐車場から路上に出ます。


「え?」


 左京は嫌な予感がしました。


「帰りましょうね、瑠里」


 樹里の声に瑠里がキャッキャと喜びます。


 左京は蒼ざめています。


 まさに某アニメのカーチェイスシーン並みの加速で大通りを走り出しました。


 左京は顔面蒼白ですが、瑠里は大喜びです。


 樹里の運転する車はたくさんの車をすり抜け、来る時は十五分かかった道のりをわずか七分で帰りました。


(でもスピードは出していないし、違反もしていない。すごいテクニックだ)


 速かったのは加速だけで、その後はごく普通の速度なのに早く着いてしまったので、左京は不思議に思いました。


「抜け道マップ作成のアルバイトもしていました」


 樹里は笑顔全開でネタバラシをしました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で返してしまった左京でした。


 


 めでたし、めでたし。

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