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樹里ちゃん、決断する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、日本有数の映画女優でもあります。


 新作の映画の観客動員数も順調で、腹黒いプロデューサーはすでに第三弾を目論んでいるようです。


 欲と二人連れの大人達が数多く登場する極悪作品になってしまうと危惧する地の文です。


「誰が欲と二人連れだ!」


 プロデューサーが切れましたが、出番はありません。


「何だと!?」


 不甲斐ない夫の杉下左京の地位を奪うつもりのプロデューサーです。


「やめてくれ!」


 自分の立ち位置に不安を覚える左京が叫びました。


 左京も出番はありません。


「何だと!? 前回感動の話になったのに、もうその扱いか!?」


 猛抗議する左京ですが、地の文はクライマックスシリーズに夢中で聞いていませんでした。


 項垂れる左京です。


 


 いつものように愛娘の瑠里をベビーカーに乗せ、出勤する樹里です。


「樹里様、本日もご機嫌麗しく」


 最近、頻繁に登場するようになって、得意満面の昭和眼鏡男達です。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「おはよ」


 瑠里も笑顔全開で応じます。


「おお!」


 母娘のダブル笑顔全開に感激する眼鏡男達です。


 


 そして、いつものように何事もなく五反田邸に到着する樹里と瑠里です。


「では樹里様、お帰りの際、また」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「ありがとうございます」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「樹里さん、おはようございます」


 前回登場しなかった時に夜遊びしまくった住み込みメイドの赤城はるなが挨拶しました。


「夜遊びなんてしてないわよ!」


 酷く狼狽して否定するはるなです。図星のようです。


「お願い、勘弁して」


 泣きが入ったので、許してあげようと思う地の文です。やはりはるなに気があるようです。


「キモ」


 はるなは地の文の魂胆にゾッとしました。軽く落ち込む地の文です。ロリコンでしょうか?


「私は二十歳過ぎてるから、ロリコンにはならないわよ!」


 はるなが切れました。自分が幼く見えるのを気にしているようです。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 


 樹里は瑠里に授乳し、ベッドに寝かせると、はるなと掃除を始めます。


 一番奥の部屋から順番にこなしていき、ロビーまで終了しました。


「一休みしましょう」


 はるなが冷たい飲み物を準備しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開ではるなからスポーツドリンクを受け取りました。


「さて、続きを始めますか」


 はるなが言うと、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。今日はいつもより「そうなんですか」が多いと思うはるなです。


 樹里とはるなは一階の掃除を終え、お昼休みです。


「あれ?」


 ロビーのテーブルに置いていたペットボトルの中身が空になっているのに気づくはるなです。


(全部飲んだんだっけ?)


 自分の記憶力に自信がないはるなです。もう老化が始まったのでしょうか? まだ十五歳なのに。


「誰が中学生だ!」


 はるなは一番気にしている事でからかった地の文を本気で嫌いになりかけています。


 それだけは勘弁して欲しい地の文です。


「はるなさん、私の分もなくなっていますよ」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「え?」


 はるなはギクッとしました。


(知らないうちに誰かが忍び込んで、私達の飲み物を飲んだの?)


 元泥棒のはるなが勘を働かせますが、誰も忍び込んだ様子はありません。


「警備員さん達も誰も見ていないと言ってました」


 はるなはがっかりしてロビーに戻って来ました。


 警備員さん達ははるなのパンチラにしか興味がないようです。


「違います!」


 警備員さん達はわざわざロビーまで来て全力で否定して、持ち場に帰りました。


 唖然とするはるなです。


「そうなんですか」


 でも樹里は笑顔全開です。


「はるなさん、犯人がわかりましたよ」


 その言葉に思わずギクッとしてしまう元泥棒の悲しいサガのはるなです。


「だ、誰が犯人なんですか?」


 はるなはドキドキして尋ねます。樹里は笑顔全開で、


「こっちです」


 廊下を歩き出します。


「え?」


 はるなは首を傾げて樹里について行きました。


「犯人はこの中にいます」


 樹里が示したのは育児室でした。


「ええ? 瑠里ちゃんが危ないじゃないですか!」


 はるなが慌ててドアを開いて中に飛び込むと、


「おねえたん、るいだお」


 瑠里が笑顔全開でドアのところまで歩いて来ました。


「ああん、瑠里たん! そんなに歩けるようになったんだあ」


 はるなは感激して涙ぐみます。そして、ハッとしました。


「ええ? じゃあ、ペットボトルを空にしたには、瑠里ちゃんですか?」


 はるなは樹里を見ました。


「そうなんです」


 樹里は笑顔全開で昔懐かしいフレーズを言いました。でも川崎さんはいません。


「瑠里、いけませんよ、お姉ちゃんの飲み物を飲んでは」


 樹里が笑顔全開で瑠里を叱ると、


「ごめんなたい、おねえたん」


 瑠里はペコリとはるなに頭を下げました。


「いいのよ、瑠里たん! どんどん飲んでね!」


 はるなは涙ぐんで言いました。


「しょうなんでしゅか」


 瑠里が笑顔全開で応じました。


「おお!」


 驚くはるなです。


「瑠里、お腹ピーピーになるから、もう飲んではいけません」


 樹里が真顔で言いました。


「あい」


 瑠里はションボリして応じます。


(瑠里ちゃん、可愛過ぎ!)


 はるなは早く子供が欲しいと思いました。


「いい子ね」


 樹里は瑠里を抱き上げ、ベッドに寝かせます。


「旦那様にお願いして、瑠里を保育園に行かせてから出勤するようにしますね、はるなさん」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 瑠里と会えなくなってしまうのを知り、思わず樹里の口癖で涙ぐんで応じるはるなです。


 


 めでたし、めでたし。

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