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樹里ちゃん、振り込め詐欺に遭う?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ドラマや映画で活躍するママタレでもあります。


 先日、親友の船越なぎさが振り込め詐欺の被害に遭いました。


 それを聞いた不甲斐ない夫ワールドカップ予選リーグを一位で通過した杉下左京が樹里を心配しました。


「誰が予選リーグ一位で通過だ!」


 左京は的確な表現をした地の文に切れました。


(樹里は今まで何度も危ない目に遭っている。振り込め詐欺の電話を受けたりしたら、素直な樹里はすぐに振り込んでしまいそうだ)


 人の心配をする前に自分の探偵事務所の心配をした方がいいと思う地の文です。


「更にうるせえ!」


 左京は全くそんなつもりはないのに表面上は気にしているふりをする地の文にもう一度切れました。


「樹里、振り込め詐欺の電話には気をつけろ……」


 左京がやっと本題に入った時には、樹里はすでに出かけた後でした。


「樹里ー!」


 泣きながら叫ぶ左京です。


 


 愛娘の瑠里を乗せたベビーカーを押して、樹里は水道橋駅に向かいます。


「樹里様、おはようございます」


 いつものように護衛に現れる昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「おはようございます」


 樹里に笑顔全開で挨拶を返され、涙ぐんで喜ぶ昭和眼鏡男達です。


「おはよ」


 瑠里がはっきりとそう言いました。まだ左京は一度も言われた事がないのに先に瑠里の「おはよ」を聞けた幸運な眼鏡男達です。


「おおお!」


 そのため、瑠里の「お言葉」に号泣してしまいました。


「瑠里、今日はしっかり言えましたね」


 樹里も初めて聞いたようです。瑠里は樹里に誉められたのがわかるのか、キャッキャと嬉しそうに笑いました。


 それを見て更に泣く眼鏡男達です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 


 そして、いつものように何事もなく樹里と瑠里は五反田邸に着きました。


「では、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「樹里さん、おはようございます」


 住み込みメイドで最近夜遊びばかりしている赤城はるなが挨拶しました。


「夜遊びなんかしてないわよ!」


 はるなは興信所並みの調査能力を持つ地の文を恐れながらも切れました。


「おはようございます、はるなさん」


 樹里は笑顔全開で挨拶を返します。


「おはよ」


 瑠里がはるなにも挨拶しました。


「わあお、瑠里たん、すごいね! お姉ちゃん、驚いちゃった!」


 はるなはしゃがみ込んで瑠里に微笑みます。瑠里はそれが嬉しいのか、キャッキャと笑いました。


「それはそうと、今日お邸に妙な電話がかかって来たので、樹里さんも気をつけてください」


 はるなは真顔で樹里に囁きました。


「そうなんですか」


 樹里もはるなの耳元で応じました。


「ああん」


 樹里の吐息に感じてしまう変態はるなです。


「感じてなんかいないわよ! くすぐったかっただけよ!」


 顔を真っ赤にして否定するはるなです。


 


 樹里は瑠里に授乳をすませてベッドに寝かしつけると、はるなと共に掃除を始めます。


 ロビーの掃除をすませ、はるなが二階の掃除に向かった時、電話が鳴りました。


「お待たせ致しました、五反田でございます」


 樹里は笑顔全開で受話器を取って応じます。


「ああ、俺俺」


「オレオレ様ですか? いつもお世話になっております」


 樹里は笑顔で応じます。電話の向こうで誰かがコケる音がしました。


「違うよ。俺だよ。声を聞いてわかんないの?」


 相手は若い男のようです。


「申し訳ございません。どちら様でしょうか?」


 樹里は更に笑顔でお詫びを言い、尋ねます。そこへはるなが異変を察知して降りて来ました。


「樹里さん、それ、変な電話ですか?」


 小声で尋ねます。すると樹里は、


「いえ、よく聞こえますから、大丈夫です」


 早速暴投気味の返しです。はるなは項垂れました。


(そういう人なのを忘れてた……)


 何とか立ち直るはるなです。


「お前のあれだよ」


 男は樹里に言わせようとそんな言い回しをして来ます。


 夜遊び女の言うように変な電話のようです。


「誰が夜遊び女だ!」


 はるなはこっそり悪口を言った地の文にこっそり切れました。


「ああ、お母さんですか?」


 樹里は笑顔全開で暴投して来ました。また電話の向こうで誰かがコケる音が聞こえました。


 はるなもコケそうになりましたが、何とか堪えます。


(今日の樹里ちゃん、飛ばしてるなあ)


 妙に感心してしまうはるなです。


「何言ってるんだよ! 俺は男だよ!」


 男は切れたようです。カルシウム不足でしょうか?


「違うよ!」


 電話の向こうから地の文に切れるという高等技術を見せた詐欺師です。


「ば、バカヤロウ、ばらすなよ!」


 ネタバレを気にせずに設定資料を発表してしまう地の文に切れる詐欺師です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 そのような禅問答よりも過酷なやり取りがしばらく続き、


「かけ直すわ……」


 精根尽きた詐欺師は電話を切りました。


「失礼致します」


 樹里は相手が切ったのを確認してから受話器を戻しました。


(さすが樹里ちゃん。詐欺師が根負けした……)


 元泥棒のはるなは苦笑いしました。


 


 そして翌日です。


 何故か神戸蘭警部が結婚後五反田邸に初登場です。


「いらっしゃいませ、蘭さん」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


「ちなみに今は平井蘭ね」


 密かに地の文に訂正を要求する蘭です。面倒くさいので無視するのは内緒です。


「昨日、ここに電話をかけて来た男がいたでしょ?」


 樹里ははるなと顔を見合わせました。


「はるなさん、蘭さんは超能力者なんですね」


 樹里が小声で言ったので、はるなは項垂れました。


(違うと思うよ、樹里ちゃん……)


 蘭は苦笑いして、


「だったらいいんだけど、そうじゃないの」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


「その男が今日自首して来てね。今までの犯行を全部自供したのよ」


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げました。はるなも不思議そうに蘭を見つめます。


「通話記録から、そいつが最後にかけたのがここの固定電話だってわかったんだけど、そいつね、その時電話に出た人にお礼を言ってくれって言ったの」


 蘭の話はますます意味不明だと思う地の文です。


「黙って聞け!」


 いきなり切れる蘭です。地の文は怖くなってお口にチャックをしました。


「その人と話しているうちに自分のしている事がバカバカしくなって、何もかも嫌になったんですって。やり直す切っ掛けを作ってくれたその人に感謝しているって言ってたわ」


 蘭は微笑んで樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。また知らないうちに犯罪を防いだのでした。


 


 めでたし、めでたし。

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