樹里ちゃん、運動会に参加する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、銀幕のスターでもあります。
もうカビが生えたような表現を使う作者に一抹の不安を覚える地の文です。
季節は秋です。日本全国運動会シーズンでもあります。
五反田グループの運動会が今年も東京ド○ム三個分の敷地の中にある競技場で開催されます。
今まで一度も触れられなかったのは、作者が急に思いついたからなのは内緒です。
「俺も出ていいのか、樹里?」
不甲斐ない夫世界大会のシード選手になれる杉下左京が涙ぐんで尋ねました。
「誰がシード選手だ!」
左京は完全に面白がっている地の文に切れました。
「大丈夫ですよ。左京さんは私の夫ですから」
樹里は笑顔全開で応じました。
「樹里ィ!」
喜びのあまり、人目も憚らずに樹里に抱きつく変態左京です。
「誰が変態だ!」
左京は真実を包み隠さずに述べた地の文に切れました。
「左京さん、皆さんが見ていますよ」
樹里が言いました。
「あ、うん」
注目の的になっているのに気づいた左京は赤面して樹里から離れました。
それを見て、ベビーカーの瑠里がキャッキャと笑いました。
「瑠里ィ」
だらしなく鼻の下を伸ばしてニヤける左京です。気持ち悪いです。
開会の宣言をグループのトップである五反田氏がしました。
集まった総勢十万人の従業員達は今後の事を考えて、笑顔で拍手をします。
「他人聞きの悪い表現はやめてください!」
従業員達が心の声を代弁した地の文に抗議しました。
まず最初は女子百メートル走です。
住み込みメイドの赤城はるなと嘱託医の黒川真理沙、五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師である有栖川倫子の三人が出場するようです。
その他にも、各グループ企業から選りすぐりの健脚が出ています。
「誰が来ようと、敵じゃないわね」
倫子はフッと笑って呟きました。
「こんな時だからこそ、絶対に首領には負けませんから」
真理沙もやる気満々です。
(首領とヌートさんが出場するのでは、ちょっと厳しいかな?)
はるなは不安に思いますが、
「はるな、頑張れ!」
恋人の目黒祐樹が応援に来ています。
「祐樹!」
目がハートマークになると言う昭和の演出をして、元気百倍のはるなです。
「私達も応援していますよ」
警備員さん達が来ていました。でも今日ははるなのパンチラはありません。
「だから違います!」
あらぬ疑いをかけようとする地の文に猛抗議する警備員さん達です。
邸の警備は大丈夫なのでしょうか?
「遅くなっちゃった」
そこへ樹里の親友である船越なぎさが現れました。ピンクのタンクトップにピンクのショートパンツです。
なぎさも実は隠れ巨乳なので、はるなと倫子がムッとします。
何故か会場の男の人達が不自然に前屈みになりました。
具合でも悪くなったのでしょうか? カマトトぶる地の文です。
「なぎささん、頑張ってください」
樹里が言いました。瑠里も笑顔で手を振っています。
(ああ、樹里ちゃんと瑠里たんはなぎささんを応援するのか……)
ちょっぴり寂しいはるなです。
「位置に着いて!」
何故かスターターは上から目線作家の大村美紗です。
(これでなぎさの頭を撃ち抜いてあげたい!)
そんな恐ろしい殺人計画を思いつく美紗ですが、五反田氏が見ているので思い留まります。
それにその銃は実弾が入っている訳ではありません。ボケたのでしょうか?
「ここでも悪口が聞こえるわ!」
美紗は頭がおかしくなりそうです。それでも五反田氏の視線を感じ、気を取り直します。
「用意」
景気のいい銃声が鳴り響き、スタートです。
いきなり抜け出したのは、元泥棒のおばさんとお姉さんとお子ちゃまです。
「誰がおばさんだ!」
倫子が走りながら切れました。
「お子ちゃまって誰よ!」
はるなも切れました。真理沙がその隙にトップに立ちます。
「あ、ヌート、卑怯よ!」
何が卑怯なのかわかりませんが、倫子が追いかけます。
「させるか!」
若さだけは二人に勝っているはるなもスピードを上げます。
「やったあ!」
三人がデッドヒートを繰り広げていると思ったら、それをあっさり抜いていった選手がいました。
「六ちゃん、どうよ!」
一番のフラッグを受け取り、胸を張るなぎさです。十万人の従業員の中のなぎさファンが総立ちで喜びました。
「嘘……」
目が点になって呆然としている元泥棒三人組です。
「なぎささん、すごいです」
樹里が瑠里と笑顔で称賛しました。
次は男子百メートル走です。
左京も参加しています。いつになく張り切っていますが、もう若くないので気負い過ぎると怪我の元です。
「うるせえ!」
まだ若いつもりの左京は心配している地の文に切れました。本当は心配していないのは内緒です。
「パパ、頑張ってください!」
樹里と瑠里が同じ笑顔で応援します。左京は涙ぐんで喜びました。
「パパ、頑張るからな!」
左京が必死に手を振っているうちに、美紗がスタートをさせてしまいました。
「え?」
慌てて追いかける左京ですが、全然追いつけず、その上途中で転んで無念のリタイアです。
「樹里ィ、瑠里ィ……」
血の涙を流しながら担架で運ばれる左京です。
「左京さん、次私の番なので、応援してくださいね」
樹里は笑顔全開で見送りました。左京はショックのあまり固まってしまいました。
樹里は瑠里をはるなに託して、フィールドに立ちます。
赤のタンクトップに赤のショートパンツ姿なので、なぎさの時に続いて何故か多くの男の人達が前屈みになりました。
意味がわからない地の文です。
「男って奴は……」
はるなと倫子が白い目で見ています。真理沙は苦笑いです。
「樹里、頑張れ!」
なぎさが大きな声で応援します。
樹里の参加競技は綱引きです。
たくさんの酒樽、いえ、女子選手達に混ざり、樹里が最後尾に着きます。
「用意、スタート!」
スターターの役目は五反田氏に変わりました。美紗は暑さでダウンしたようです。
「叔母様、しっかりして」
なぎさが気遣ってそばに行きますが、そのせいでまた気を失う美紗です。
「ひいい!」
それの繰り返しです。楽しくて仕方がない地の文とはるなです。
「うわわ!」
樹里チームが一気に引っ張られてしまいました。
「樹里さん、始まってますよ!」
樹里が靴のヒモを結んでいるのに気づいたはるなが呼びかけました。
「そうなんですか」
会心の笑顔で応じた樹里は綱の端を持ちました。
「えい!」
樹里が引っ張ると、いきなり綱が戻ります。
「わああ!」
たくさんの酒樽達が、いえ、選手達がゴロゴロと転がり、そのまま樹里チームの勝利です。
(樹里ちゃん、怪力……)
絶対に樹里を怒らせないようにしようと思うはるなです。
(樹里ちゃんは怒らないけどね)
そうも思うはるなです。
二本目も最初から参加した樹里の活躍であっさり勝利しました。
「是非、リオを狙いませんか?」
どこから現れたのか、オリンピック重量挙げの監督が樹里に言いました。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
めでたし、めでたし。