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樹里ちゃん、上から目線作家に懇願される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、ママタレでもあります。


 愛娘の瑠里も順調に成長し、もうすぐ一歳になります。


 成長していないのは、不甲斐ない夫の杉下左京だけです。


「うるせえ!」


 今回も存在感のなさが目立つ声だけの登場の左京です。


「俺が何したって言うんだよ!?」


 理不尽に切れる左京に同情の余地なしと思う地の文です。


 


 今日は映画の撮影もなく、樹里はいつものように出勤です。


「おようございます、樹里さん」


 左京と同じ二回連続で存在感のない登場ではなくてホッとしている住み込みメイドの赤城はるなと警備員さん達です。


 警備員さん達は最近樹里がボケないので、はるなのパンチラが見られないのが不満のようです。


「そのような事はありません」


 警備員さん達は声を揃えて否定しました。


「やらしい」


 警備員さん達を白い目で見るはるなですが、実は樹里にボケて欲しくてうずうずしているのは内緒です。


「うずうずしてないわよ!」


 はるなは顔を赤くして切れました。


「金メダル獲得おめでとうございます」


 いきなり樹里が警備員さん達にボケました。はるなはズッコケかけましたが、堪えました。


「その警備会社じゃないです」


 警備員さん達は項垂れて言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 彼らは五反田グループの警備会社所属なので、妙な体操もしません。


 巨大企業を茶化してしまい、後が怖いと思う地の文です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 


 瑠里に授乳をすませ、樹里ははるなと共に仕事を始めます。


 今はまだ夏休み中ですので、五反田氏の愛娘である麻耶がいます。


「おはよう、樹里さん」


 麻耶も笑顔全開で言いました。


「おはようございます、麻耶お嬢様」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「今日は有栖川先生が黒川先生とお出かけなので、つまんないの。はじめ君は親戚の伯母さんの家に遊びに行ってしまったし」


 麻耶はつまらなそうです。その時でした。


 玄関の車寄せに上から目線のリムジンが到着しました。


 乗っているのは大物推理作家の大村美紗です。


 いつもは手ぶらで来る礼儀に欠けたおばさんですが、今日は珍しく菓子折りを持っています。


「まただわ。このお邸に来ると悪口が聞こえるのよ」


 美紗は後から車を降りた娘のもみじに小声で言いました。


「そんなはずないでしょ、お母様」


 もみじは呆れ顔で言いました。彼女も高校を卒業し、今は花の女子大生です。


 今時そんな表現は古いと思う地の文ですが、作者を怒らせると今後左京視点の話ばかりにされるので何も言いません。


 世渡り上手な地の文です。


「いらっしゃいませ、大村様、もみじ様」


 樹里とはるなが玄関の扉を開いてお辞儀をします。


「こんにちは、大村のおば様、もみじさん」


 麻耶も玄関に来て挨拶しました。


「あら、麻耶ちゃん、大きくなったわねえ。何年生になったの?」


 美紗が悪い魔女顔で微笑み、尋ねました。


「ほらまたよ、もみじ。やっぱりこのお邸には何かいるのよ」


 美紗が小声で言いますが、


「はいはい」


 もみじの対応は冷たいのでした。


「五年生です、おば様」


 麻耶は美紗の妄想や地の文の陰口をなかった事にするような会心の笑顔で答えました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう美紗です。




 そしていつも通り、美紗ともみじは応接間に通されました。


「樹里さん、ちょっとよろしいかしら?」


 美紗ははるなと部屋を出て行きかけた樹里を呼び止めました。


 はるなはこれ幸いとそのまま退室しました。


「何でございましょう?」


 樹里はニコッとして美紗を見ます。美紗は辺りを窺うようにしてから声を低くし、


「実は貴女にお願いがあって来ましたの」


 そして、つい上から目線で菓子折りをテーブルの上に置く美紗です。もみじが呆れます。


「はい」


 樹里は笑顔全開です。美紗は手招きして樹里を呼び寄せます。


 樹里はキョトンとして美抄に近づきました。


「貴女はあの子と親友ですわね?」


 美紗が尋ねます。樹里には誰の事かわかりません。


「なぎさお姉ちゃんの事ですよ」


 もみじが樹里に耳打ちしました。


「はい、なぎささんとは親友です」


 樹里がニコッとして応じると、美紗の顔がピクピクッとしました。


「私も今まで大人げない事をして来たと思っておりますの。ですから、貴女に間に立ってもらって、あの子と和解したいんですのよ」


 何故かまた上から目線で言う美紗です。もみじは項垂れてしまいました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「あの子の顔を見ると、ついカッとしてしまうので、今日はお手紙を持って来ましたの。これをあの子に渡してくださいな」


 更に上から目線で樹里に頼む美紗です。とても頼んでいるようには見えないと思う地の文です。


 もみじはもう美紗を見てもいません。完全に呆れてしまったようです。


かしこまりました、美紗様」


 樹里は美紗から封筒を受け取りました。


「頼みましたよ、樹里さん」


 美紗は上から目線で言い添えました。


(これで五反田さんにも顔が立つわ)


 美紗はニヤリとしていつもの魔女顔になりました。


「ほら、今度は聞こえたでしょ、もみじ?」


 美紗が涙目で訴えますが、もみじは首を横に振りました。


「ヤッホー、樹里! 麻耶ちゃんが寂しいって言うから、遊びに来たの」


 そこへ空気読めない選手権世界大会総合優勝候補の船越なぎさが現れました。


 途端に美紗の顔が引きつり、もみじがまた項垂れます。


「あれれ、叔母様、もみじ! 今日はどうしたの? 麻耶ちゃんに呼ばれたの?」


 なぎさのお気楽発言に美紗が卒倒してしまいました。


「きいい!」


「お母様!」


 もみじが慌てて美紗を支えます。


「美紗様」


 樹里も駆け寄りました。ドア越しにほくそ笑むはるなです。


(ババア、ざまあ)


 罵りながらも韻を踏むはるなです。


「あれ、大村のおば様、どうなさったの?」


 麻耶が入って来てなぎさに尋ねました。なぎさは肩を竦めて、


「最近叔母様、よく倒れるのよね。年のせいかしら?」


 地の文も項垂れそうになるなぎさの自由発言です。


 


 めでたし、めでたし。

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