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樹里ちゃん、神戸蘭と宮部ありさの合同結婚式に出席する(前編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ママタレで、その上あらゆる資格を持つ資格マニアです。


 今日は大安吉日。


 にも関わらず、神戸蘭と宮部ありさの合同結婚式というおぞましい行事が行われます。


「何だと!?」


 地獄の鬼も泣いて命乞いするくらい凶悪な顔で地の文に切れる蘭とありさです。


 ここはある結婚式場の新婦の控室です。


「二人とも、ウェディングドレスを着ているんだから、そんな顔しちゃダメよ」


 黒の留め袖を着た五反田氏の奥さんの澄子さんが二人をたしなめます。


 澄子さんは樹里の母親である由里の頼みで蘭とありさの介添人になりました。


「すみません」


 五反田氏の奥様にはさすがに逆らえない小市民の蘭とありさです。


「いつかぶちのめす」


 蘭とありさは小声で地の文に言いました。


 脅えていつも通りに進行できなくなりそうな地の文です。


「おめでとうございます」


 そこへ黒の留め袖を着た璃里と樹里が来ました。


 髪をアップにしている二人はほとんど見分けがつきません。


 璃里は一歳半の実里みりを連れています。


 樹里は瑠里をベビーカーに乗せています。


「お二人とも、奇麗ですよ」


 璃里が言いました。


「どっちの方が奇麗?」


 蘭とありさが同時に質問しました。


 苦笑いして樹里を見る璃里です。


「晴れの日にそんな事を言ってはいけませんよ、二人とも」


 また澄子さんに窘められてしまう蘭とありさです。


「すみません……」


「そうなんですか」


 そんな時でも樹里は笑顔全開です。


「新婦様、ご準備お願いします」


 式場のスタッフの女性が呼びに来ました。


「はい」


 蘭とありさは同時に応え、互いを見てからプイと顔を背け、控室を出て行きました。


「全く……」


 その様子を見ていて、澄子さんは溜息を吐きました。


「大丈夫なのかしら?」


 璃里も不安そうです。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 実里と瑠里も笑顔全開です。


 


 一方、新郎の控室には、白のタキシードを着た加藤真澄警部と平井拓司警部補、そして樹里の不甲斐ない夫の杉下左京がいました。


「どうした、加藤?」

 

 ソワソワしている加藤警部を見て、左京が意地悪く尋ねます。


「緊張して来た……。凶悪犯と対峙した時よりドキドキしている」


 加藤警部は自分が凶悪犯顔なのにそんな面白い事を言います。


「うるせえ!」


 地の文の余計な一言に切れる加藤警部です。


「凶悪犯はお前だろ」


 左京は不謹慎にもそんな品のない冗談を言って腹を抱えて笑っています。


「てめえに言われたくねえよ!」


 左京は地の文の鋭い指摘に切れました。八つ当たりです。


「ううう……」


 緊張のあまり、左京に悪口を言われたのもわからない加藤警部です。


(可哀想なくらい緊張してるんだな。からかうの、やめとこう)


 左京はターゲットを平井警部補に移しました。


「蘭と結婚するの、後悔していないのか?」


 軽い冗談のつもりで言った左京でしたが、


「神戸警部は今でも杉下さんの事が好きなんですよ」


 衝撃的な返しをされ、顔が引きつってしまいます。


「バ、バカな事言うなよ。今は平井君に夢中だろ、蘭は……」


 嫌な汗が身体中から噴き出し、動きがきごちなくなる左京です。


「ちょっとびっくりしましたか?」


 平井警部補がニヤリとして左京を見ます。


「おいおい、笑えない冗談だぞ」


 引きつった顔を手でほぐしながら言う左京です。


「杉下さんが意地の悪い事をおっしゃるからですよ」


 平井警部補は爽やかな笑顔で言いました。


「私は神戸警部との結婚に全く躊躇はありません。この日を待ちわびていたのですから」


 平井警部補の真っ直ぐな回答が眩しいロクでもない左京です。


(訊いた俺が惨めだ……)


 左京は項垂れてしまいました。


「新郎様、ご準備願います」


 式場のスタッフの男性が加藤警部と平井警部補を迎えに来ました。


「はい」


「は、はい!」


 平井警部補は余裕綽々で控室を出て行き、加藤警部は蹴躓けつまずいてドアに指を挟み、涙目で出て行きました。


「大丈夫なのか、加藤?」


 左京は本気で加藤警部を心配しました。


 


 左京は樹里達と合流し、式が執り行われる教会に向かいます。


「瑠里や実里は託児所に預かってもらえるのか」


 左京は式場の行き届いた設備に感心しました。


(樹里の着物姿、可愛いなあ)


 今にも押し倒してしまいそうなほど欲情している左京です。


「してねえよ!」


 左京は地の文に図星を突かれて顔を真っ赤にして切れました。


 礼拝堂に入ると、前から順番に席に着いて行きます。


 パイプオルガンの荘厳な音色が響いています。


「私達もこういうところで式を挙げたかったですね、左京さん」


 樹里が小声で言いました。


「そ、そうだな……」


 軽く落ち込む左京です。


(今の俺にはとても無理だ……)


 自分の不甲斐なさに女の子じゃないのに涙が出ちゃう左京です。


「泣かねえよ!」


 勝手に演出を進める地の文に切れる左京です。


 牧師さんが入場します。


 一同は起立して牧師さんを迎えます。


 次に加藤警部と平井警部補が入場し、所定の位置に着きます。


 パイプオルガンの音楽が変わり、新婦の入場です。


 皆が礼拝堂の入り口に視線を送ります。


「この式は呪われてる!」


 何故か黒尽くめのローブにフードを被った人物が入って来ました。


「何だ?」


 礼拝堂は騒然とします。


 牧師さんと澄子さんは顔を見合わせ、加藤警部と平井警部補は目配せし合って黒いローブの人物に駆け寄ります。


「貴様、何者だ!?」


 二人が掴み掛かろうとした瞬間、ローブの人物は高く飛び上がり、ローブを脱ぎ捨てました。


「私はベロトカゲ。この式を台無しにするために来ました」


 アホのあっちゃんのようです。


 さすがアホのあっちゃんです。華麗にローブを脱ぎ捨て、ヒラリと天井へジャンプして梁に乗ったまでは良かったのですが、ローブの下に服を着るのを忘れていました。


「いやん!」


 あっちゃんは慌てて梁の陰に隠れました。


(あのバカ、全裸だったのか? 只の変態だぞ)


 加藤警部と平井警部補は唖然としています。


「今のはなしね。忘れてちょうだいね。ここからが本番よ」


 あっちゃんは黒のつなぎと黒の仮面を身につけて再登場しました。


「一体どういうつもりだ、ベロトカゲ!?」


 加藤警部は刑事の顔になって尋ねました。決して脱獄囚の顏ではありません。


「拘置所で一人寂しくしている亀島君のためよ。彼を捕まえた神戸蘭、そして貴方達に復讐するのよ」


 あっちゃんは高笑いして危うく梁から落ちそうになりました。


「さあ、イッツショータイムよ」


 あっちゃんは梁にしがみついて言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 後編に続くようです。

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