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樹里ちゃん、花火を観賞する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 連続ドラマの「メイド探偵は見た」も終了し、映画の第二弾の制作発表が行われました。


 原作者の大村美紗の強い希望で、主役は樹里になりましたが、五反田氏の要請で船越なぎさも出演する事になりました。


「なぎさの役は登場してすぐに死ぬ設定にしてちょうだい」


 美紗はプロデューサーと脚本家を半ば脅迫してあらすじを決めました。


「なぎさちゃんが可哀想だから、回想シーンで登場させてください」


 それを哀れんだ五反田氏の提案で、なぎさの出演シーンが増えました。


(五反田さんと今後お付き合いするためになぎさと和解した方がいいのかしら?)


 美紗はそこまで考えてしまいました。


 欲望のためなら、何でも我慢できる究極の守銭奴です。


「何だかまた悪口が聞こえた気がするわ」


 美紗はあたりを見渡して呟きました。


 今日は五反田グループのほとんどの従業員が参加する花火大会です。


 実は東京で開催される花火大会で最大規模です。でもそれは内緒にされています。


 美紗もプロデューサーも脚本家も招待されました。


 会場はもちろん、東京ド○ム三個分の敷地面積がある五反田邸です。


 不甲斐ない上にロクでもなく、更にどうしようもない夫の杉下左京も来ています。


「うるせえ!」


 左京は三段重ねの描写をした地の文に切れました。


「打ち上げ花火の火の粉が邸に燃え移ったら大変じゃないのか?」


 左京が心配して樹里に言うと、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「大丈夫よ、おじさん。ウチの裏庭には、大きなお池があるから。そこで花火を上げるの」


 五反田氏の愛娘である麻耶がニコッとして言いました。隣で固くなっているのはボーイフレンドの市川はじめです。


「そうなんですか」


 左京は「おじさん」と言われた事に腹が立ちましたが、樹里の雇い主の五反田氏の娘なので、何も言えません。それに麻耶が可愛いので尚更言えないのです。


「ち、違うぞ!」


 図星を突かれて動揺が隠し切れない左京です。ロリコンでしょうか、はい、その通りです。


「違うよ!」


 左京は金子みすゞ調をアレンジして指摘した地の文に切れました。


「ねえ、樹里さん、おじさん、誰と話しているの?」


 麻耶が気味悪がって樹里に尋ねました。


「独り言ですよ、お嬢様」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 つい樹里の口癖で反応してしまう麻耶です。




 住み込みメイドの赤城はるなも、恋人の目黒祐樹が来ているので、ウキウキしています。


 花火大会が終わったらきっと……。


「わあわあ!」


 大声で騒いで、地の文の根も葉もない憶測を妨害するはるなです。


「根も葉もない事を考えるな!」


 更に切れるはるなです。


「あの子、もうすっかりメイドね」


 そんなはるなを有栖川ありすがわ倫子りんこことドロントが見て、黒川真理沙ことヌートに言いました。


「そうですね。渋谷栄一の配下も現れなくなりましたし、潮時でしょうか?」


 ヌートは少し寂しそうに言いました。ドロントはヌートを見て、


「いつかはこういう日が来るのよ、ヌート。仕方ないわ」


「はい、首領」


 ヌートは涙ぐんで応じました。ドロントの目にも光るものがあります。まさしく「鬼の目にも涙」です。


「何だと!?」


 見た通りの事を表現した地の文に切れるドロントです。


 


 やがて花火の打ち上げが始まりました。


 夏の夜空を大輪の華が彩ります。


「奇麗ですね、左京さん、瑠里」


 樹里はベビースリングで抱いた瑠里を見ながら言いました。


「そうだな。でも、樹里の方がもっと奇麗だよ」


 左京が似合わない気障きざな台詞を言いました。


「うるせえ!」


 左京は樹里と瑠里に聞こえないように地の文に切れました。


「左京さん、何か言いましたか?」


 しかも、花火の音が大きくて、樹里に聞こえておらず、項垂れる左京です。




 グループの人達数千人が一斉に叫び声を上げます。


 それくらい大きくて豪勢な花火です。三段階に広がり、スーッと消えていきます。


 池の端から端まで張られた仕掛け花火は、まさに闇に浮かび上がる白糸の滝です。


「奇麗……」


 はるなは祐樹と肩を寄せ合って言いました。


「はるなも奇麗だよ」


 祐樹が爽やかな笑顔で囁きました。左京とは大違いです。


「やだ、祐樹ったら……」


 二人はススッと木陰に行き、キスをしました。


 さて、その続きは……。


「覗くな!」


 はるなはフラ○デーに写真を売るためについて行こうとした地の文に切れました。




 庭にはまるで縁日のようにたくさんの屋台があります。


「げ、あんたはいつかの嬢ちゃん!」


 金魚すくいのオヤジが、樹里を見て顔を引きつらせました。


 以前秋祭りの時、樹里が根こそぎ金魚をすくってしまい、廃業寸前にまで追い込んだ人です。


「お久しぶりです」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「俺は何て運が悪いんだ……」


 オヤジは項垂れました。


 五反田邸の花火大会に参加できると聞いて喜んで来たのです。


(今度こそ廃業だな……)


 オヤジは転職を考えました。


「ああ、瑠里、もう破けてしまいましたよ」


 破れたポイを樹里が持っています。瑠里が落としてしまったようです。


 オヤジはホッとしました。


(良かった、転職はしなくてすみそうだ)

 

「では、ママがお手本を見せますね」


 ところがそうは問屋が御徒町なのでした。樹里がポイを持ちました。


「うへえ……」


 見る間に水槽の金魚が消えていきました。樹里の神業にたちまち人だかりができます。


(やっぱり廃業だ……)


 オヤジは項垂れました。


 こうして、樹里達は花火を見ながら楽しく過ごしました。




 めでたし、めでたし。


「ちっともめでたくなんかねえよ!」


 金魚すくいのオヤジが切れました。

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