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樹里ちゃん、困難を乗り越える

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、その上ドラマと映画で活躍するママタレでもあります。


 そんな樹里の周りは、結婚ラッシュです。


 行き損なうと思われた神戸かんべらんと誰も相手にしてくれないと思われた宮部ありさが結婚するのです。


「何だと!?」


 何の問題もない発言をした地の文に切れる蘭とありさです。


「誰が行き損なうだ!」


 蘭は鬼も逃げ出す形相で怒っています。


「誰も相手にしてくれないって、何よ!」


 ありさも蘭に負けじと凄まじい形相で怒っています。


「朝から何の用だ、お前ら?」


 ここは樹里の不甲斐ない夫を卒業できないロクでもない夫である杉下左京の探偵事務所です。


「誰がロクでもない夫だ!」


 左京は地の文に切れました。しかし、地の文はそれを華麗にスルーです。


 左京は項垂れました。


「左京、この際このアホ女の前ではっきり言ってあげなさいよ。出席するのは私の結婚式だって」


 蘭は左京の襟首をじ上げて言いました。


「く、苦しいよ、蘭……」


 左京は息も絶え絶えです。


「何言ってるのよ! 左京は私の結婚式に出席してくれるのよ。ねえ、左京?」


 ありさがウィンクをしました。


 左京は思わず吐きそうになりました。


「何だと!?」

 

 今度はありさが左京の襟首を捩じ上げます。


「俺が何したって言うんだよ!?」


 左京はありさの手を振り払いました。


「お前ら、落ち着け。俺と樹里がそれぞれ出席するので手を打ってくれよ」


 左京は疲れ切った表情を演出して言いました。


「てめえ、真剣に考えろよ!」


 蘭とありさが机を叩き壊して怒鳴りました。


「だから、俺は何も言ってないんだって!」


 狡猾な地の文の罠に見事にはまる左京です。


「じゃあ、はっきり言いなさいよ。どっちの結婚式に出席するのか」


 蘭とありさは仲が悪いのかいいのかわからないくらいの見事なハモりで尋ねます。


「ええっと……」


 左京は全身に嫌な汗を掻きながら後退あとずさりました。


「遅くなりました」


 そこへ救いの女神となるのか、樹里の姉の璃里が現れました。


「ひ!」


 璃里は悪魔も泣いて謝りそうな顔の蘭とありさを見て思わず飛び退いてしまいました。


「璃里さん!」


 左京は捨てられた子犬のような目で璃里に救いを求めました。


(左京さん、無理です。犯罪者なら立ち向かえますが、このお二人は……)


 真面目なキャラのはずの璃里が涙ぐんで首を横に振ります。


 璃里マニアにはたまらない展開です。


「ちょっと待っててくださいね!」


 璃里は事務所を出て行ってしまいました。


(璃里さん……)


 左京はまさしく捨てられた子犬の心境です。




 その頃、樹里は五反田邸の庭掃除をしていました。


「今日は変な人が来なくて穏やかな日ですね」


 住み込みメイドで色気づいている赤城はるなが言いました。


「色気づいてなんかいないわよ!」


 動揺しながら否定するはるなです。どうやら夕べは恋人の目黒祐樹と……。


「わああ、わああ!」


 大声を出して地の文の推理を妨害するはるなです。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。その時、樹里の携帯が鳴りました。


「はい」


 樹里は笑顔全開で通話開始です。


「そうなんですか」


 そして、笑顔全開で通話を終えました。唖然とするはるなを尻目に、


「はるなさん、今日は早上がりさせていただきますね」


「あ、はい……」


 何が何だかわからないはるなです。色ボケでしょうか、いいえ誰でも。


「意味がわかんないよ!」


 目茶苦茶な地の文にはるなは涙ぐんで切れました。


 


 哀れな左京は蘭とありさに追いつめられ、今にも窓から落ちそうになっていました。


「はっきりしなさいよ、優柔不断ね!」


 またしても見事なハモりで左京を罵る蘭とありさです。


(死ぬ……。もう俺はこの二人に殺される……)


 左京は死を覚悟し、クリスチャンではないのに十字を切ります。


 せめてそこでは「私はジュリチャンです」と言って欲しかった宣伝乙な地の文です。


「お待ちなさい」


 その時、救いの神が今度こそ現れました。


「誰よ!?」


 蘭とありさが声の主を睨みつけました。


「私だよ!」


 入って来たのは、樹里の母親の由里です。


 蘭とありさは地獄の番犬のケルベロスもチビリそうなくらい迫力満点な由里の目にビビりました。


「ひいい!」


 蘭とありさは手を取り合って左京から離れ、部屋の隅に避難しました。


「全く、いい大人が何を騒いでるの、恥ずかしい」


 由里は三つ子を器用にベビースリングで抱えたままソファに座りました。


 そして、蘭とありさに向かいに座るように指示します。


 彼女の後ろから入って来たのは、見分けがつきにくいですが、璃里と樹里です。


 蘭とありさは泣きそうな顔で恐る恐る並んで座りました。


 左京は由里の迫力のある顔に気絶し、倒れています。


「左京さん、大丈夫ですか?」


 樹里が笑顔全開で左京を揺り動かしました。


「どうしてそこまで意固地になっているの、あんた達は?」


 由里は蘭とありさを見比べながら尋ねます。


「それは……」


 蘭とありさは互いの顔を見て言葉を濁します。由里は苦笑いして、


「まあ、何となくは理由がわかるけどね。でも、この騒動はいただけないよ」


 いつになく真面目にお説教する由里に天変地異の前触れを感じる地の文です。


「仕方ないから、亀の甲より年の功で、知恵を貸しましょう」


 由里にボケを無視され、軽く落ち込む地の文です。


「ありがとうございます!」


 蘭とありさは顔を見合わせてから頭を下げてお礼を言いました。


「合同結婚式にしなさい。そうすれば、出席する人も楽だし、あんた達のメンツも保たれるでしょ?」


 由里はウィンクして言いました。


「ああ、はい……」


 ちょっと不満そうな蘭とありさです。すると由里が二人の態度に気づいて、


「何か問題でも?」


 また鋭い目で睨みます。


「あはは、そんな事はありません!」


 蘭とありさは思わず敬礼して言いました。


「さすがお母さんですね」


 樹里は笑顔全開で感心しています。


「そうかしら?」


 璃里は苦笑いです。


(取り敢えず、目の前の危機は去った……)


 その場凌ぎが信条の左京はホッとしていました。


 


 めでたし、めでたし。

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