表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/839

樹里ちゃん、左京に会いにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、日本有数のママタレです。


 その人気は絶大で、樹里がほんの少し写っている育児雑誌が完売するほどです。


 しかも買っているのは育児に無関係の独身男性が大勢を占めています。


 日本の将来に不安を感じる地の文です。


 


 いつものように樹里は五反田邸で働いています。


 そこへ不甲斐ない夫を必死で卒業しようとしている杉下左京からメールが届きました。


『今日は猫探しに手間取っているので、帰りが遅くなります。待っていないで先に寝ていてください』


 珍しく仕事が忙しい事をアピールする左京です。


『違うよ!』


 深層心理の奥底までも見抜いてしまう地の文にメールで切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で返信しました。


「ご主人からメールですか? 相変わらずラブラブですね、樹里さん」


 最近夜遊びが過ぎて目の下のくまが消えない住み込みメイドの赤城はるなが言いました。


「夜遊びなんかしてないわよ!」


 超能力者サイキックも裸足で逃げ出すような鋭い洞察力の地の文に切れるはるなです。


「はるなさんもラブラブですよね」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そんな事ないですよお。嫌だなあ、樹里さんてば」


 はるなは身を氷の妖精クリオネのようにクネクネさせて言いました。


「やだ、おだてないでよ」


 地の文の見え透いたお世辞に照れる単純なはるなです。


「やかましい!」


 はるなは全力で切れました。




「あの子、時々様子がおかしいわね。一度診てあげたら?」


 はるなの奇行を離れて見ていた有栖川ありすがわ倫子りんこことドロントが言いました。


「そうですね」


 黒川真理沙ことヌートも深刻な顔で応じました。




 やがて、樹里の就業時間は終わり、愛娘の瑠里を抱いて帰宅します。


「お疲れ様でした」


 はるなや警備員さん達に見送られて樹里は邸を出ました。


 そこからは樹里親衛隊の皆さんが樹里を見守ります。


 先日、暑さで救急車騒ぎを起こしてしまった昭和眼鏡男は、いつも着込んでいる甲冑を防弾チョッキに変更し、暑さ対策も万全です。


「そうなんですか」


 樹里に笑顔でねぎらってもらい、いつ死んでもいいと思う眼鏡男です。


「本日は最後まで樹里様をお守り致す所存です」


 眼鏡男は敬礼して言いました。


「ありがとうございます」


 樹里が深々とお辞儀をしたので、眼鏡男は感極まって号泣してしまいました。


 そのせいで、樹里達を見失ったのは内緒です。


 


 樹里と瑠里は眼鏡男達の護衛は全く関係なく、無事にアパートに到着しました。


「では、我々はこれにて」


 眼鏡男達親衛隊は再び敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は振り返らずに歩いて行く眼鏡男達に手を振りました。


 眼鏡男達がミラーを使ってしっかり樹里を見ていたのは内緒です。


 更に親衛隊員の一人が瑠里だけをジッと見ていたのはもっと内緒です。


「パパは遅くなるそうですから、先に寝ましょうね、瑠里」


 樹里は笑顔全開で瑠里に言いました。その時です。


「パーパ……」


 瑠里が喋りました。いえ、樹里には喋ったように聞こえただけかも知れません。


「瑠里……」


 いつも笑顔全開の樹里が涙ぐみます。


「そうですか、パパに会いたいのですか、瑠里?」


 樹里が涙を拭いながら尋ねると、瑠里は嬉しそうに笑いました。


「じゃあ、パパに会いに行きましょうか」


 樹里は開けかけたドアの鍵を戻し、駅へと歩き出しました。


 


 そんな事とは全然知らない左京は、ようやく猫を見つけて飼い主のところまで連れて行き、事務所に戻ったところでした。


(思ったより早く終わったか)


 腕時計に目をやると、まだ七時です。


(今から帰れば、瑠里が起きているうちに着けるかな?)


 瑠里の笑顔を想像し、ニヤける左京です。


 ちょっと怖いです。


「うるせえ!」


 左京は正直な地の文に切れました。


「瑠里、待ってろよ、パパ、もうすぐ帰るからな」


 左京は散らかった机の上もそのままにして、事務所を後にしました。


 エレベーターで地下の駐車場まで降りて、愛車に乗り込みます。


「あれれ?」


 すると何故かエンジンがかかりません。


「参ったな、バッテリーが上がったのかな?」


 何度か挑戦してみますが、全然ダメです。


「畜生、ついてねえなあ」


 左京は車を諦めて、電車で帰る事にしました。


「瑠里、寝ちゃうかなあ」


 寂しそうに呟く左京に思わず噴き出す地の文です。


「そこはホロッと来る、だろう!」


 見当違いのリアクションをした地の文に抗議する左京です。


 そして、肩を落として地下駐車場を出ると、もうすっかり日が暮れた通りをトボトボと五反田駅に向かって歩きます。


(そう言えば、電車で帰るのって初めてだな)


 何となく新鮮な気持ちになり、足取りが軽くなる単細胞な左京です。


「うるせえんだよ、いちいち!」


 つい余計な一言を口にしてしまう地の文に切れる左京です。


 折角のいい気分を台無しにされ、ムッとしながら歩き出した左京は、駅の方から近づいて来る人影に気づきました。


「うん?」


 左京はその人影に目を凝らしました。


「パパ、お迎えに来ましたよ」


 それは樹里と瑠里でした。


「樹里、瑠里!」


 左京は思ってもみない二人の登場に感激し、涙ぐみました。


「どうしたんだ、こんなところまで来て?」


 左京は樹里に知られないように涙を拭って尋ねました。


「瑠里がパパって言ったのですよ」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「ええ!? ホントか? 早くないか、喋るの?」


 左京は仰天しました。確かにまだ一歳になっていない瑠里が言葉を発するのは驚きです。


「本当ですよ。はい、瑠里、パパを呼んであげてください」


 樹里は瑠里に呼びかけました。すると瑠里は左京を見て、


「マーマ……」


と言って、嬉しそうに笑いました。


「……」


 樹里はさすがにバツが悪そうな笑顔です。左京は唖然としてしまいましたが、


「い、いや、それでも嬉しいよ。瑠里、確かに喋ったもんな」


「左京さん」


 樹里は左京の優しい心遣いに涙ぐみ、抱きつきます。


 廻りを歩いている人達が微笑ましそうに二人を見ています。


「お、おい、樹里、人が見てるって……」


 左京は今すぐにでも樹里にキスしたいよこしまな心を押し隠して、世間体を気にしてみせました。


「最後までうるせえんだよ!」


 いいところに水を差した地の文に切れる左京です。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ