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樹里ちゃん、宮部ありさを祝福する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今ではテレビと映画で活躍する女優の顔も見せています。


 それでも樹里はいつもと変わらず、ベビースリングで愛娘の瑠里を抱き、出勤します。


「樹里、俺も頑張るからな」


 不甲斐ない夫卒業を誓った杉下左京が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 左京は樹里を水道橋駅まで見送り、車で五反田駅前にある探偵事務所に出かけます。


 家計が大変なのですから、電車で通うべきだと思います。


「うるせえ!」


 左京は鋭い指摘の地の文に切れました。


(このままじゃいけない。瑠里もそのうち保育所か幼稚園に行くようになる。そうなったら、今よりずっと金が必要になるんだ。頑張らないと!)


 気持ちだけは一人前の左京です。


「うるせえよ、ホントに!」


 突っ込みの厳しい地の文に左京はもう一度切れました。


 


 そして、渋滞に巻き込まれたり、バイクの兄ちゃんと喧嘩したりしながら、左京は事務所に着きました。


「一切割愛かい!」


 いつになく登場シーンが多いのにナレーションですまされた事に不満顔の左京です。


「左京、お久」


 ビルの外廊下を歩いて行くと、事務所のドアの前で宮部ありさが待っていました。


 お久と言っていますが、ありさは前回も登場しています。


 記憶力がノミと同じくらいなので覚えていないようです。


「誰が節足動物門昆虫綱ノミ目(隠翅目)に属する昆虫の総称だ!」(by Wiki)


 ありさは細細こまごまと説明して切れました。


「どうしたんだ? もうお前は雇わないぞ」


 左京はあっさりと言いました。するとありさはゲラゲラ笑って、


「何勘違いしてるのよ。私は警視庁捜査第一課の加藤真澄警部夫人になるのよ。何が悲しくてこんな貧乏たらしい探偵事務所に戻るのよ?」


「何だと、てめえ!」


 左京はありさに掴み掛かりました。


「こら、俺の婚約者に何するんだ!?」


 そこへ加藤警部が現れました。


「あ、バ加藤!」


 左京が指差して言うと、


「その呼び方は全国の加藤さんに迷惑をかけるからやめろ!」


 加藤警部は激怒しました。


「そうなんですか」


 左京は樹里に口癖で応じました。


「婚約者? お前ら、本当に結婚するのか?」


 今度は左京が大笑いします。


「何がおかしい!?」


 加藤警部はますますヒートアップします。


「まあまあ、マスミン。所詮警視庁を追われた者の僻みよ」


 ありさは軽蔑の眼差しを左京に向けながら、加藤警部を宥めます。


「それもそうだな」


 加藤警部は微笑んで応じました。


「ちっ」


 左京は返す言葉を思いつけず、舌打ちしました。


「で、一体何の用だ? 俺は忙しいんだ。手短に頼むぞ」


 左京はわざとイライラして見せました。するとありさが、


「何が忙しいよ。仕事と言ったら、ご近所の猫探しと大家さんの家の周りの見回りくらいしかないんでしょ?」


と突っ込みました。


「う……」


 全くその通りなので、ぐうの音も出ない左京です。


「だからと言って、パーとか言わないでよね」


 ありさが意味不明な事を言いました。


「お前、本当にこんな変な女と結婚するのか?」


 左京が小声で加藤警部に尋ねました。


「今更ながら早まったのかな、俺?」


 不安そうな顔になる加藤警部です。ありさはそんな二人の会話を聞いていなかったようで、


「はい、これが結婚式の招待状ね」


 金色に縁取りがされた豪華な封筒を左京に渡しました。


「ご祝儀は最低十万円で頼むわね、左京」


 ありさはオホホホと似合わない笑い声を上げ、去って行きます。


「やめるなら今のうちだぞ、加藤!」


 項垂れてありさについて行く加藤警部に左京が言いました。




「うおお!」


 左京は事務所に入ると、招待状をズタズタに切り裂き、ゴミ箱に投げ込みました。


「何がご祝儀は最低十万円だ! ふざけるな!」


 左京は激怒し、机を思い切り殴りました。


「くうう……」


 ちょっと強過ぎて女の子じゃないのに涙が出たのは内緒です。


 


 その日の左京は今までの三倍働きました。


 そうは言っても、仮面を被ったり、変身したりした訳ではありません。


 猫がいつもより遠くまで行ってしまっており、連れ帰るのに時間がかかったのです。


 そのせいで、左京がアパートに帰ったのは午後九時過ぎで、樹里が先に帰っていました。


「お帰りなさい、左京さん」


 樹里は瑠里と笑顔全開で出迎えてくれました。


「只今」


 二人の笑顔に癒され、何となく涙ぐんでしまう左京です。


「今日、事務所にありさとバ加藤が来たよ」


 左京は浴室で顔を洗いながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里はおねむの瑠里をベッドに寝かせながら応じます。


「結婚式の招待状を持って来ていてさ。最低十万円ご祝儀を持って来いってほざきやがった」


 左京はテーブルの前にデンと胡座あぐらを掻きました。


「そうなんですか」


 樹里が温め直したお味噌汁とご飯を左京に給仕します。


「ありささん達はお邸にもいらしたので、おめでとうございますとお祝いを言って、出席に丸をしてお渡ししておきましたよ」


 樹里が笑顔全開で元も子もない事を言ったので、左京は危うく久しぶりに石化しかけました。


 


 めでたし、めでたし。

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