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樹里ちゃん、ある芸人と再会する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 但し、最近はメイドの仕事より、テレビドラマと映画の撮影の方が忙しくなっています。


 今日も樹里は愛娘の瑠里を抱いて映画の撮影所に来ています。


 先日、樹里は東京フレンドランドで殺し屋に狙われたので、夫の杉下左京も同行しています。


「左京さん、今日は高瀬たかせ莉維乃りいのさんはお休みですよ」


 樹里は他意なくそう言いましたが、身体の七十パーセントがやましさでできている左京は嫌な汗を流します。


「な、な、何言ってるんだ、樹里。俺はお前が心配だからついて来たんだぞ」


 思い切り棒読みで言い訳する左京ですが、すでに樹里はそこにはいませんでした。


「樹里ー!」


 慌てて樹里を探そうとする左京ですが、


「関係者以外立ち入り禁止ですよ」


 警備員さんに止められてしまいました。


「樹里ー!」


 もう一度叫ぶ左京ですが、樹里には聞こえていませんでした。

 



 樹里は撮影所の奥へと歩いて行きました。


 すると久しぶりに上から目線作家の大村美紗に会いました。


 今日は大嫌いな姪の船越なぎさが来ていないので、撮影を見学に来たのです。


 とことんなぎさ嫌いな美紗です。


「おはようございます、大村様」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


 瑠里もニコニコして美紗に手を振ります。


「大きくなったわね。それにしても貴女にそっくりね」


 美紗が瑠里をあやしながら言います。


「そうなんですか? 私は夫に似ていると思います」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「貴女のご主人に似ていたら、この子が可哀想よ」


 美紗はニッコリ笑って酷い事を言います。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じます。


 左京が聞いていたら、血の涙を流して失血死してしまうかも知れません。


 するとそこへ、以前樹里が働いている居酒屋にレポーターで来た事があるやたらうるさい芸人が現れました。


「げ」


 芸人は樹里の顔を覚えており、廃人寸前にされたトラウマが甦りそうです。


(あの子は確か居酒屋のメイドさんだ……)


 嫌な汗を滝のように流し、その場から逃げようと回れ右をする芸人です。


「あら、西園寺さいおんじさんじゃなくて?」


 運が悪い事に上から目線おばさんが芸人を発見してしまいました。


「ここでも悪口が聞こえるわね。どうしてなのかしら?」


 美紗は撮影所の建物を見渡しました。人はそれを「幻聴」と言います。


(大村先生を無視したら、俺の芸能人生が終わってしまう)


 芸人は項垂れながらも樹里達のところに向かいました。


「西園寺さーん、時間ですよ」


 そこへスタッフがタイミングよく呼びに来ました。芸人は、


(地獄にホットケーキとはこの事だ)


と間違ったことわざを思い浮かべながら、その場を立ち去ろうとしますが、


「後にしてくださる? 今、私が西園寺さんとお話しているんですから」


 美紗がスタッフに言いました。


「ああ、すみません、大村先生。お待ちします」


 あっさり応じてしまうスタッフに涙目でアイコンタクトする芸人です。


(早くこいつらから離れたいんだよ!)


 必死に訴えますが、スタッフには全く通じていません。


「目にゴミが入ったのですか?」


 樹里が尋ねました。


「わあ!」


 いきなり視界に樹里が現れたので、仰天して尻餅を突くオーバーリアクションの芸人です。


「大丈夫ですか?」


 樹里が笑顔全開で手を差し出します。


「だ、だ、大丈夫です」


 トラウマ全開になって来た芸人は樹里を見ないようにして立ち上がりました。


「あら、樹里さん、西園寺さんとお知り合い?」


 美紗が会話に割り込んで来ます。二人の会話のどこでそう思ったのか不思議です。


「はい。以前、私が働いている居酒屋でお会いしました」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「その時、テレビの撮影の事を何もわからない私にとてもよくしてくださって、優しい方なんです」


 樹里のその言葉に美紗が感動します。


「まあ、西園寺さん、貴方、見かけによらず、いい方なのね」


 美紗がそう言ったのを芸人は聞いていません。


(何言ってるんだ、この女は!? 俺はあんたのせいで、もう少しで芸人生命を絶たれるところだったんだぞ!)


 芸人は怒り心頭のようです。但し、新しい政党を作る訳ではありません。


「ですから、芸人さんの中で、この方が一番好きなんです」


 樹里が更に笑顔全開でそう言うと、芸人の顔が赤くなりました。


(え? 一番好き?)


 俯いてドキドキしてしまう芸人です。


(この前会った時も、『どちらとか言うと好きです』って言ってくれたんだよな)


 約二年前の事を執念深く覚えているストーカーの素質十分の芸人です。


「つ、つ、付き合ってください!」


 芸人は顔を上げて思い切って告白しました。


「あら、私と付き合いたいの、西園寺さん? でも無理よ。生活レベルが違い過ぎるから」


 いつの間にかそこには上から目線で高笑いする美紗しかいませんでした。


 また廃人になりそうな芸人です。彼の名は西園寺伝助です。



 めでたし、めでたし。

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