表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/839

樹里ちゃん、映画の台本を渡される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 五反田氏を亡き者にしようと企む悪の大富豪の渋谷栄一というジイさんが、殺し屋に樹里を狙わせましたが、持ち前の運の良さと周囲にいる信者の皆さんのお陰で知らないうちに助かっています。


 樹里が不審者に後をつけられたのを住み込みメイドの赤城はるなから聞かされた不甲斐ない夫の杉下左京は、


「樹里、今日は誰が何と言おうとついて行くからな」


と樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 今日は樹里はいつもの仕事はお休みで、テレビ局に行く日なのです。


 左京はまた大物女優の高瀬たかせ莉維乃りいのに会いたいのでしょう。


「違うよ!」


 核心を突いた地の文に左京が切れました。


「だから違うって!」


 左京は涙ぐんで言いました。飽きたのでもう左京をからかうのをやめようと思う地の文です。


 そんな事をしているうちに樹里は愛娘の瑠里を抱いて出かけてしまいました。


「樹里ー!」


 左京は昔流行った名台詞のように雄叫びを上げ、樹里を追いかけました。


 


 樹里は何事もなくテレビ局に着きました。


 樹里と瑠里は笑顔全開ですが、樹里を守ろうと警戒MAXで同行した左京はヘロヘロです。


「樹里、おはよう」


 そこへ親友で映画はダブル主演の船越なぎさがやって来ました。


「おはようございます、なぎささん」


 樹里は笑顔全開で挨拶を返します。


「おはようございます、杉下さん、樹里さん」


 なぎさを追いかけて、恋人の片平栄一郎が走って来ました。


「おはようございます」


 左京と樹里はこれぞ夫婦というピッタリのタイミングで言いました。


「相変わらず仲がいいわね、松下さんと樹里は」


 なぎさがからかうように言いますが、しっかり左京の名字を間違えています。


「ハハハ、私は杉下ですよ、なぎささん」


 左京は顔を引きつらせて乾いた笑いを放ちました。


「あれ、そうだっけ。まあいいや」


 なぎさはケラケラ笑いながら、キャピキャピと廊下を歩いて行ってしまいます。


「申し訳ありません、杉下さん」


 栄一郎がペコペコ頭を下げながらなぎさを追いかけました。


「相変わらずだな、樹里の親友は」


 左京は脱力しながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里が授乳しながら言いました。


 早くも周囲には人だかりができています。


「こら、見せ物じゃないんだぞ!」


 左京はムッとしてギャラリーを追い払いました。


「樹里、授乳は控室に入ってからにしないと、みんなに見られるぞ」


 左京は樹里を見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里はちょうど授乳を終えてマシュマロをしまうところだったので、左京は鼻血を垂らしそうです。


(自分の妻の授乳に興奮してどうするんだ、杉下左京!)


 自身を叱咤する左京です。でもタラッと右の鼻から垂れてしまったのは内緒です。


 


 やがて、映画の出演者達が次々にやって来て、空いているスタジオに案内されました。


 映画の出演者はテレビドラマの出演者とほぼ一緒ですが、メイド探偵が二人に増えています。


 ダブル主演の樹里となぎさです。


 そして、映画なので、予算が増え、犯人の新人メイドの役を新進気鋭の若手女優である稲垣いながき琉衣るいが演じます。


 ショートカットが似合うやや吊り目気味の美人です。


 邸の主人とその妻は、テレビドラマと同じ配役で、詰橋つめはしいさおと高瀬莉維乃です。


 但し、娘役の南山みなみやま景子けいこはスケジュールの都合で出演できず、代わりに抜擢されたのが、五反田氏の愛娘の麻耶です。


 プロデューサーと監督がスポンサーに媚び過ぎだと思う地の文です。


 詰橋氏も莉維乃も、麻耶に取り入る気満々です。


 嫌な大人の世界に麻耶が染まらない事を陰ながら願う地の文です。


(船越なぎさと御徒町樹里。あんた達のような素人は私がスターダムにのし上がるための踏み台よ)


 琉衣は誰にも気づかれないようにニヤリとしました。


「では、『メイド探偵は見た ザ・ムービー』の出演者の皆さんを御紹介致します」


 演壇の上から助監督が大声で言いました。


 一同は助監督を見ました。


「まずは、ダブル主演の船越なぎささんと御徒町樹里さん」


 なぎさと樹里はプロデューサーに促されて壇上に上がります。


 樹里が授乳したままなので、焦る助監督です。


 おおっと男性陣から感嘆の声が上がりました。


 スタジオの隅で一人項垂れる左京です。


「そして、舞台となる邸の夫妻役の詰橋勲さんと高瀬莉維乃さんです」


 次に呼ばれると思って演壇に近づいた琉衣は、


「そして、その愛娘役の五反田麻耶様です」


 先に麻耶が呼ばれたので、唖然としました。


(どういう事!? この映画は主演の二人と私がメインのはず! どうしてあんな小学生が先に呼ばれるのよ!?)


 琉衣は緊張しながらも笑顔で壇上に立つ麻耶を睨みました。


(この恨み、忘れないわ!)


 琉衣はクルッと身を翻すと、スタスタとスタジオを出て行ってしまいました。


 決して駄洒落ではありません。


「ああ、琉衣、どうしたんだよ」


 琉衣付きの若い男のマネージャーが慌てて琉衣を追いかけます。


「どういう事よ、マネージャー? 何であんな子供が先に呼ばれるの!?」


 スタジオの外で琉衣はマネージャーに食ってかかりました。


「仕方ないよ、あの子はスポンサーさんのお嬢さんなんだから」


 マネージャーがそう言うと、琉衣はフッと笑います。


「そう。そうなんだ……」


 琉衣は上から目線の推理作家のような顔をしました。


 要するに悪い魔女のような顔です。


(虐め甲斐がありそうね、麻耶ちゃん)


 琉衣は高笑いをしてそのまま廊下を歩いて行ってしまいます。


 


 樹里達は映画の台本を渡されました。


「皆さんの台本には結末が書かれていません。皆さんも一緒にこのミステリーを楽しんでください」


 監督が嬉しそうに言いました。


「結末が書かれていないの? じゃあ、解決できないよね、樹里?」


 なぎさは本気で心配しているようです。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


「あーいやいや、解決はできますから、なぎささん」


 栄一郎はハンカチで額の嫌な汗を拭いながら言いました。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ