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樹里ちゃん、赤城はるなに羨ましがられる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 最近は、推理ドラマ「メイド探偵は見た」に出演したり、主演映画も決まったりと大忙しです。


 それでも、普段は五反田邸でメイドとして仕事をしています。


「おはようございます、樹里さん」


 住み込みメイドの赤城はるなが樹里を出迎えて挨拶しました。


「おはようございます、はるなさん」


 樹里は愛娘の瑠里を抱いて笑顔全開で応じました。


「樹里さん、映画出演が決まったんですって? おめでとうございます」


 はるなは後ろ手に隠していた花束を渡しました。


「ありがとうございます」


 樹里はそれを笑顔全開で受け取りました。


「羨ましいなあ、樹里さん。テレビに出て、映画に出て……」


 はるなは口を尖らせて言いました。蛸になるのでしょうか?


「違います!」


 すかさず地の文に突っ込むはるなです。


「映画はこのお邸で撮影するそうですから、はるなさんも出られますよ」


「ええ!?」


 はるなは仰天しました。


「ほ、ホントですか?」


 ドキドキしてソワソワしてウキウキする元泥棒のはるなです。


「それは関係ないでしょ!」


 また抜群の突っ込みを地の文にするはるなです。


「テレビはセットだったのに、映画は本物を使うのですか。お金がかかってますね」


 はるなは感心して言いましたが、実はプロデューサーが予算節約のために五反田邸を無料で借りたのは内緒です。


「旦那様も奥様も麻耶様もお出になります」


 樹里は笑顔全開で言いました。はるなはますます驚き、


「それは凄いですね。ここが有名になりますよ」


 実は五反田邸はネットでは「樹里ちゃんが働くお邸」として動画再生回数が六百万回を超えており、物凄く有名なのを知らないはるなです。


「原作の大村美紗様もご出演されますよ」


 樹里は笑顔で言いますが、はるなは、


「そうなんですか」


と樹里の口癖で応じ、


(あのババアも出るのかよ)


 心の中で罵ります。


「それなら、祐樹も出られませんか?」


 はるなは自分の彼氏を映画にねじ込もうとします。


「大丈夫ですよ」


 安請け合いする樹里ですが、プロデューサーも快諾するでしょう。


 祐樹は五反田クループに匹敵する大企業である目黒グループの御曹司です。


 長いものにはどんどん巻かれるプロデューサーですから、大喜びします。


 芸能界とはそういう汚い世界なのです(そんな事はありません 作者)。


「それだったら、樹里さんの旦那さんも出演できるのではないですか?」


 はるなが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、


「左京さんは仕事が忙しいから無理ですよ」


 ちょっとだけ寂しそうに言う樹里を夫の杉下左京が見たら、血の涙を流すでしょう。


「仕事が忙しいのですか」


 はるなは苦笑いしました。


(樹里ちゃんの御主人、可哀想)


 はるなは心の中で左京を哀れみました。


「樹里さん、久しぶり」


 すると何故かそこへアメリカへ行ったはずの有栖川ありすがわ倫子りんことイギリスに行ったはずの黒川真理沙が現れました。


 二人を見て唖然とするはるなです。


(首領、ヌートさん、どうして?)


「長い研修が終わって、今日日本に帰って来ました」


 倫子が笑顔で言うのを横で苦笑いして見ている真理沙です。


(白々しい)


 はるなは白い目で倫子を見ます。


「私もです」


 真理沙も倫子に肘で突かれて言いました。


「ちょうど良かったです。お二人共、映画に出ませんか?」


 樹里が笑顔全開でまた勝手に出演交渉です。


「まあ、どういう事ですの?」


 白々しく尋ねる倫子です。


「このお邸で映画の撮影をするのです」


 樹里が説明すると、倫子は目を見開き、


「まあ、それは驚いたわ。何て偶然でしょう」


 わざとらしい言葉にはるなは呆れ返って真理沙を見ます。


 真理沙は苦笑いをしたままではるなを見て肩を竦めました。


 こうして、最終的には警備員さん達まで出演する事になってしまいました。


 


 はるなは仕事が一段落した時、自分の部屋に倫子と真理沙を呼びました。


「首領、ヌートさん、何しに来たんですか?」


 はるなはムッとして尋ねました。


 彼女は二人が自分に内緒で探偵事務所を開いた事をまだ恨んでいるのです。


「あはは、元気だった、キャビー?」


 倫子ことドロントは苦笑いして言いました。


「首領、ヌートさん!」


 はるなことキャビーはそう言われて泣いてしまい、ドロントに抱きつきました。


「悪かったと思ってるわよ、キャビー。でも貴女、すっかりメイドさんが板に付いて来たんじゃない?」


 ドロントは泣きじゃくるキャビーの頭を撫でて言いました。


「実はね、先日五反田氏を暗殺しようとして殺し屋を送り込んだ渋谷栄一がまた動き出したのよ」


 ヌートが声を低くして言いました。


「え?」


 はるなはギクッとします。ドロントは真剣な表情になって、


「だから戻って来たの」


「首領!」


 キャビーはまた泣き出しました。


「私達は泥棒だけど、一宿一飯の恩義は忘れないわ。何としても五反田氏とご家族は守るわよ、ヌート、キャビー」


 ドロントが言いました。ヌートとキャビーは、


「はい、首領」


と声を揃えて応じました。


 波乱の予感がして怖いと思う地の文です。

 

 


 めでたし、めでたし。

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