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樹里ちゃん、ドラマの出演の延長を頼まれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドにして、連続ドラマ「メイド探偵は見た」の出演者です。


 視聴率リサーチ会社によりますと、ドラマの瞬間視聴率では、樹里が映っている時が常にMAXです。


 それを知ったプロデューサーが雇い主の五反田氏に樹里の長期出演を懇願し、原作者の大村美紗に原作との内容の変更について承諾をお願いしました。


 五反田氏は即答で、


「御徒町さんが構わないのなら、私には異存はないよ」


と快諾。すると長いものには無理にでも巻かれようとする美紗も、


「私にも異存はないわ」


と会心の笑顔で応じました。


 プロデューサーは早速樹里の控室に出向き、その旨を伝えました。


「そうなんですか」


 樹里は愛娘の瑠里に授乳中でしたが、やはり快諾しました。


「良かった。ではよろしくお願いします」


 プロデューサーはいよいよ編成局長の椅子が見えて来たと思い、ほくそ笑みました。


 汚い大人の世界を見てしまいました。


「うるさい!」


 プロデューサーは地の文にこっそりと切れました。


「これで樹里ともう少し長くここに来られる。良かった」


 親友の船越なぎさが言いました。


「もし、樹里の出演が終わったら、私も来るのやめようと思ってたんだ」


 なぎさは嬉しそうです。


「そうなんですか」


 樹里はマシュマロをしまいながら応じました。


「あーいやいや、なぎささんは主役ですから、最後まで出演しないとまずいですよ」


 なぎさの恋人の片平栄一郎が慌てて言います。


「そんな事関係ないよ、栄一郎。肩を壊したのでもう続けられないって言って、お父さんに背負われて退場すればいいんだよ」


 なぎさは何故か膨れっ面で言いました。


「なぎささん、古いアニメ知ってるんですね」


 栄一郎はハンカチで嫌な汗を拭いました。




 そんな樹里の出演増加を聞いた大女優の高瀬たかせ莉維乃りいのはムッとしました。


「どうして只のメイドが一番数字持ってるのよ!?」


 莉維乃は先日冤罪で逮捕されたマネージャーの代わりに付いている新しいマネージャーに八つ当たりしました。


「はあ、ごもっともです」


 今度の莉維乃のマネージャーは何でも同意するイエスマンのようです。


 名字は武部たけべでしょうか?


「見てらっしゃい。芸能界はそれほど甘いところじゃないんだという事を思い知らせてあげるわ」


 莉維乃は額に浮き上がった血管をピクピクさせて呟きました。


 でもツイッターにではありません。


 


 そして、一週間後です。


 プロデューサーが脚本家を監禁して書き上げさせた台本を出演者に配りました。


「ドラマの内容を差し替えました。それが新しい台本です。大変申し訳ありませんが、以前お渡しした台本は回収致します」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で瑠里を抱いたままで新しい台本を受け取り、前の台本を返しました。


「やっと覚えたのに変更なの?」


 なぎさは剥れています。するとプロデューサーが小声で、


「なぎささんの台詞の変更はありませんからご安心を」


「そうなの? 良かった」


 なぎさは嬉しそうに言いました。


「あーいやいや、なぎささんの台詞は『犯人がわかりました』しかないですよね、今回は」


 栄一郎が苦笑いして言います。


「あれ、そうだっけ?」


 なぎさは台本を見直しました。


 新しい台本を見て莉維乃の顔が引きつります。


(何て事なの!? 私の出番が減って、あのメイドの出番が増えているわ)


 莉維乃はキッとして樹里を睨みました。


(許さないわ、御徒町樹里! きっと、スポンサーにおもねって登場シーンを増やしてもらったのね)


 莉維乃は十八禁になりそうな事を想像して勝手に赤くなっています。


 そして悪い魔女の顔になりました。マネージャーを呼びつけます。


「あの女の台本を隠してしまいなさい。そして、大失態を演じさせるのよ」


「はい、莉維乃様」


 マネージャーも悪い間男の顔になりました。


「意味が違う!」


 いい加減な言葉選びの地の文にマネージャーが切れました。


 彼は樹里が瑠里をスタジオの外のベビールームに連れて行った隙に彼女の台本を隠しました。


(みんなの前で恥をさらしなさい、御徒町樹里)


 莉維乃はニヤリとしました。


 樹里がスタジオに戻って来てなぎさと話し始めます。


(自分の台本がなくなっているのに気づかないなんて、役者失格よ)


 莉維乃は樹里をせせら笑いましたが、樹里は役者ではありません。


「うるさいわね!」


 莉維乃は細かい事を指摘する地の文に切れました。


「では本読み始めます」


 監督が大声で言いました。


 出演者がおのおのの名札が張られた椅子に座りました。


 樹里となぎさは離れた席です。


 莉維乃は樹里の隣に座りました。


(まず最初に貴女の台詞があるのよ、御徒町樹里。さあ、早速恥を掻きなさい)


 莉維乃はフッと笑って樹里をはすに見ました。


「では、シーン1、御徒町さんの台詞からです」


 助監督が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じます。そして、


「旦那様、お嬢様がどちらにもいらっしゃいません。お車は車庫にございますし、お出かけの際には必ずお召しになるお気に入りのコートもロビーのコートハンガーにかけられたままです」


と台詞を何も見ないで言いました。


 莉維乃は固まってしまいました。


(台本を渡されてからのあの短時間で台詞が頭に入っているの、このは?)


 莉維乃ばかりでなく、莉維乃の夫役の詰橋つめはしいさおも驚いていました。


「詰橋さん、台詞お願いします」


 助監督に促され、詰橋氏はハッとしました。


「ああ、ごめんごめん」


 詰橋氏は苦笑いして謝罪しました。


(私は間違っていたのかも知れない……)


 莉維乃は樹里の才能を認めたようです。


 


 めでたし、めでたし。

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