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樹里ちゃん、左京の誕生日をお祝いする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は二月十四日。


 全国的に女子達が目の色を変えて行動する日です。


 でも樹里はいつもと変わらず、笑顔全開で瑠里をベビースリングで抱き、出勤です。


「おはようございます、はるなさん」


 樹里は住み込みメイドの赤城はるなに挨拶しました。


「おはようございます、樹里さん」


 心なしか、はるなは疲れているようです。


「どうしたんですか、はるなさん? 目の下にクマが凄いですよ」


 樹里が言いました。はるなは苦笑いして、


「実は明け方近くまで、今日のためにチョコを作っていたんです」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「祐樹に手作りのチョコをプレゼントしようと思って……」


 惚気のろけ始めるはるなです。


「そうなんですか」


 でも樹里は全然気にならないようです。


「麻耶お嬢様もご一緒だったんですよ」


「そうなんですか」


 そこへ眠そうな麻耶がやって来ました。


「おはよう、樹里さん」


 麻耶は目を擦りながら言いました。


「おはようございます、お嬢様。眠そうですね」


 樹里が笑顔全開で言うと、


「大丈夫。今日ははじめ君にチョコを渡すんだから、頑張らないと」


 麻耶はニコッとしてはるなと微笑み合いました。


「頑張ってください、お嬢様」


 はるなが言いました。


「うん。はるなさんも頑張ってね」


「はい」


 二人共もう付き合っているのですから、頑張る必要はないと思う地の文です。


「うるさいわよ!」


 地の文にハモって突っ込む麻耶とはるなです。


 


 お昼を過ぎた頃、五反田駅前にある事を忘れられかけている杉下左京探偵事務所では、衝撃的な事が起こっていました。


「ええ!? いいんですか、俺なんかに?」


 所長の左京が目を見開いて言いました。


「はい、いいんですよ。いつも樹里がご迷惑をかけていますから」


 樹里の姉の竹之内璃里が左京にバレンタインチョコをプレゼントしたのです。


「ありがとうございます、お義姉ねえさん」


(何だか、樹里にもらうよりドキドキするなあ)


 不届きな事を考える左京です。早速樹里に報告しましょう。


「やめてくれよお」


 左京は地の文に泣きつきました。


「それに今日は左京さんの誕生日じゃないですか。ケーキも買って来ましたので、ちょっとしたお祝いをしましょう」


 璃里は樹里と寸分違わない笑顔で言いました。


「はい……」


 左京はもう少しで泣きそうです。


(でも、璃里さんと二人きりっていうのは、どうにも気が引けるなあ)


 そんな事を思いながらも、本心では嬉しくて仕方がないエロ左京です。


「うるせえ!」


 左京は璃里に気づかれないように地の文に切れました。


「お誕生日おめでとうございます、左京さん」


 左京が心配するまでもありませんでした。


 そこへ登場したのは、すでにヨチヨチ歩きができるようになった璃里の娘の実里みりを連れた璃里の夫の竹之内一豊氏でした。


「あ、ありがとうございます」


 ホッとしたような悲しいような、複雑な心境のスケベ左京です。


「さっきからうるさいよ!」


 左京はもう一度こっそり地の文に切れました。


(それはそうだよな。心配だよな、俺なんかと二人きりだと)


 左京は自虐的になりました。でもヒ○シではありません。


「やっほー、左京、お誕生日おめでとう」


 そこへ元所員の宮部ありさが現れました。


「これ、加藤君と二人で買ったケーキよん」


 ありさは照れ臭そうに白い箱を掲げます。


「あ、ありがとう……」


 左京はありさとありさの恋人になった警視庁捜査一課の加藤真澄警部が買ったケーキを食べる勇気がないと思いました。


(あれは絶対に食べちゃいかん)


 左京は自分に言い聞かせます。


「それから、これは義理チョコ」


 ありさはニヤッとして一個十円のチョコを差し出しました。


「ああ、ありがとな」


 左京もお礼がおざなりです。


 


 やがてパーティーが始まり、ありさがクラッカーを鳴らします。


「それ!」


 竹之内氏がシャンバンを開け、璃里がケーキをカットして分けます。


 それをジッと見つめる実里を見て、


(瑠里もこれくらいになったらもっと可愛いだろうなあ)


と思う左京です。ちょっと涙ぐんでいます。


「はい、左京」


 ありさが○っともっとで買って来たオードブルを小皿に取り分け、左京に渡します。


「おう」


 受け取りながらジッと観察する左京です。


「何よ、毒なんか入れてないわよ、左京」


 ありさがニヤついて言うので、


「お前はいつも何か仕掛けてるからな」


 左京は念入りに匂いを嗅ぎました。




 パーティは何のハプニングもなく進み、夕方になりました。


「では私達はそろそろ帰りますね」


 璃里が言いました。


「今日はどうもありがとうございました」


 左京は璃里と竹之内氏に頭を下げました。


「じゃあね、左京、私も帰るわ。これから加藤君といい事するから」


 ありさはニヤアッとして言います。


 左京は何を想像したのか、吐き気を催しました。


 みんなが帰ってしまい、一人ポツンとなると、妙に寂しくなる左京です。


「樹里……」


 窓のブラインドを上げ、街の明かりを見る左京です。


「只今帰りました」


 そこへ眠っている瑠里を抱いた樹里が大きな白い紙袋を持って入って来ました。


「お帰り、樹里」


 思わず涙ぐむ左京です。


「璃里お姉さんから聞きました。誕生日のお祝いをしていたんですね」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ああ。でも、本番はこれからだよ、樹里」


 左京は精一杯気取って言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「はい、左京さん」


 樹里は紙袋からハート型の真っ赤な包装紙に包まれた箱を取り出します。


「おお!」


 左京は感動しました。


(瑠里が生まれたから、もうそういうのはしてくれなくなると思っていたのに)


 また目頭が熱くなる左京です。


「あれ?」


 左京は包装紙に「博多名物」と書かれているのに気づきました。


「樹里、これ何?」


 嫌な予感がした左京は顔を引きつらせて尋ねました。


 すると樹里は笑顔全開で、


「母の旅行のお土産ですよ。明太子です」


 どうして明太子がハート型の容器に入っているんだ? 左京は疑問に思いました。


「あはは、そうなんだ。俺はてっきり、樹里からのバレンタインのチョコレートだと思ったよ」


 悲しみ四十五パーセントで左京は言いました。


「バレンタインて何ですか?」


 樹里は笑顔全開で尋ねて来ました。


(今年もそのオチか……)


 毎年同じバレンタインオチが何年続くのだろうと不安に思う左京でした。

 

 


 めでたし、めでたし。

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