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樹里ちゃん、高瀬莉維乃に左京を誘惑される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の専属メイドです。


 樹里は上から目線の大御所推理作家である大村美紗原作の「メイド探偵は見た」のテレビドラマに端役で出演する事になり、撮影に参加しています。


 ベテラン女優の高瀬たかせ莉維乃りいのが仕組んだ嫌がらせを知らないうちに見事にかわした樹里ですが、そのせいで美紗が睡眠薬入りのコーヒーを二杯飲んでしまい、救急車騒ぎになりました。


 テレビ局が警察に連絡したので、警視庁捜査一課の加藤警部がやって来ました。


 実は「メイド探偵は見た」に樹里が出ると聞き、無理矢理担当にしてもらったのは内緒です。


 しかも、現在は宮部ありさと付き合っているはずの加藤警部は未だに樹里に未練があるようです。


 美紗は樹里が持っていたコーヒーを飲んで倒れたので、樹里が疑われそうになりましたが、


「あーいやいや、そのコーヒーは高瀬莉維乃さんのマネージャーさんが持って来てくださったのです。ですから、樹里さんは関係ないですよ」


 樹里の親友の船越なぎさの恋人の片平栄一郎の証言でその疑いを免れました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 しかも授乳中なので男性スタッフは樹里のチラッと見えるマシュマロに釘付けです。


「あれえ、そうだっけ?」


 その場に居合わせて、コーヒーをもう少しで飲むところだったなぎさは何も覚えていないようです。


「そんな事はわかり切っている。樹里さんが犯人の訳がない」


 加藤警部はいつになく真顔で言います。でも脱獄囚顔なのはいつも通りです。


「うるさい!」


 加藤警部は地の文に切れました。


 次に加藤警部は莉維乃の控室に行き、事情を訊きました。


「確かにコーヒーを樹里さんとなぎささんに差し入れしましたけど、実際にそれを持って行ったのはマネージャーですわ。私は何も存じ上げません」


 莉維乃はまるで「全部秘書がやった」と言う政治家の先生のようにマネージャーのせいにしました。


 あまりの事に唖然とするマネージャーです。


「詳しく事情を訊かせてもらいましょうか」


 加藤警部はその怖い顔をもっと怖くして、マネージャーを連れ、帰って行きました。


「一件落着ですわね」


 莉維乃は高笑いしました。スタッフ一同は莉維乃の仕業だとわかっていますが、莉維乃が怖いので何も言いません。


 芸能界とは恐ろしいところなのです。(全てフィクションです  作者)


「樹里ー!」


 そこへ不甲斐ない夫日本選手権第一シードの杉下左京が現れました。


「左京さん」


 樹里は笑顔全開で左京に駆け寄ります。


 嫉妬の目が左京に集中しますが、左京は全然気づきません。


(こんな奴が樹里さんの旦那?)


 皆、さげすむような目で左京を見ます。


「ドラマの原作者が殺されたんだって?」


 左京に事情を話したのはありさです。


 伝言ゲームは失敗のようです。


「違うよ、左京さん。原作者じゃなくて、私の叔母さんだよ」


 なぎさがますます話を複雑にするような事を言い出します。


「あーいやいや、大村さんは殺されてはいませんから」


 栄一郎が事情を説明しました。


「何だ、そうなのか」


 左京はホッとしました。


「あれが御徒町樹里のご主人……」


 莉維乃が左京を見て舌舐したなめずりします。


 ゲテモノ食いでしょうか?


(樹里の旦那を私の虜にして、樹里を混乱させてやるわ)


 莉維乃は悪い魔女のような顔になりました。


 


 左京は樹里の撮影が終わるまで待つ事にしました。


「御徒町さん、船越さん、お願いします」


 スタッフが樹里となぎさを呼びに来ました。


 なぎさと樹里が控室を出て行くと、それと入れ替わるように莉維乃が入って来ます。


 莉維乃は栄一郎を睨みつけて追い出すと、ドアを後ろ手に閉じました。


「あ、高瀬莉維乃さんですよね?」


 左京は目の前に有名女優が現れたので、感激しました。


「サインもらえますか?」


 左京はメモ帳とペンを差し出して言いました。


「お安い御用ですわ」


 莉維乃はニッコリとしてササッとサインをします。そして、左京の手を取ってメモ帳とペンを返します。


「あ、ありがとうございます」


 莉維乃に手を握られ、真っ赤になる左京です。


(ほーら、男はみんな私の虜よ)


 莉維乃はニヤリとし、胸の谷間を強調して左京に更に近づきます。


「まあ、よく見ると素敵な方ですわね、樹里さんのご主人は」


 莉維乃は息がかかりそうなくらい顔を近づけて左京を見つめます。


「あ、ありがとうございます」


 左京はドキドキしていました。


(高校生の頃から憧れていた高瀬さんがこんな目の前に……)


 アイドルだった莉維乃も知っているので、すでに卒倒しそうな左京です。


「奥さんばかりじゃつまらないでしょ? たまには他の女といい事しません?」


 莉維乃は流し目で左京を見ます。


「……」


 思わず唾を飲み込む左京です。莉維乃の豊満な胸が目の前です。


(もうすぐ樹里が撮影を終えて戻って来る。夫が私に夢中になっているのを見て苦しむがいいわ)


 莉維乃は左京に見えないように悪い魔女の顔になります。


「触りたいの、ここに?」


 莉維乃は左京を椅子に座らせてその膝の上に乗り、胸を突き出しました。


「わわ、高瀬さん!」


 左京は真っ赤になりました。莉維乃のあまりに大胆な行動にもう気絶しそうです。


「いいのよ、触って」


 耳元で囁く莉維乃です。左京はもう少しで理性が大気圏を離脱しそうです。


「左京さん、終わりましたよ」


 そこに樹里が戻って来ました。


 莉維乃は樹里が自分達の痴態をしっかり見たのを確認し、フッと笑います。


 左京は樹里の声で我に返り、莉維乃を押し退けて立ち上がりました。


 莉維乃は勝ち誇ったように樹里を見ました。


「高瀬さん、失礼します」


 しかし、樹里は笑顔全開でお辞儀をすると、左京と共に控室を出て行ってしまいました。


「えええ!?」


 莉維乃は仰天しました。


「どういう事なのよ!?」


 莉維乃は地団駄踏んで悔しがりました。


 


 左京は樹里が莉維乃との事を何も訊かないので、逆にドキドキしていました。


 アパートへと向かう車の中で左京は、


「高瀬さんとは別に何でもないから」


 訊かれてもいないのにそんな言い訳はおかしいと思う左京ですが、言わずにはいられなかったのです。


「そうなんですか」


 後部座席の樹里はベビーシートで眠る瑠里を見ながら応じます。


「パパはモテモテですね、瑠里」


 樹里のその言葉にギクッとする左京です。


「えーと、その……」


 何か言わなくてはと思いますが、何も思いつきません。


「どうしたんですか、左京さん?」


 樹里が不思議そうに左京を見て尋ねます。


「俺、油断があったと思う。ごめんな、樹里。今度から気をつけるよ」


 左京は謝りました。すると樹里は、


「左京さんはかっこいいから仕方ないですよ。モテないパパより、モテるパパの方がいいです」


と笑顔全開で言いました。


「そ、そうか……」


 いっそ怒ってくれ。


 左京は心の中で血の涙を流しながら思いました。


 


 めでたし、めでたし。

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