樹里ちゃん、左京に瑠里をお風呂に入れてもらう(お題小説)
沢木先生のお題「髪を洗う」を使わせていただきました。
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
ドラマの端役になったり、殺し屋を知らないうちに撃退したりしています。
今日も一日何事もなく過ぎ、樹里は愛娘の瑠里を抱いて左京との愛の巣であるアパートに帰りました。
「お帰り、樹里」
何故か酷く緊張した顔の左京が出迎えました。
「只今帰りました、パパ」
樹里は瑠里と一緒に微笑んで言いました。
「お帰り、瑠里」
左京は瑠里を樹里から受け取り、抱きます。
瑠里もようやく左京をパパと認めたのか、泣かなくなりました。
「ううう……」
地の文の指摘に項垂れる左京です。
「本当に俺がやるの?」
左京は何故か涙ぐんで尋ねます。
「はい。パパの仕事ですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
左京は引きつり笑いをしました。
すでに左京は料理の腕は樹里の指導もあって上達して来ましたが、まだ父親の仕事は他にもあります。
(瑠里をお風呂に入れるのなんて、ものすごく怖い)
左京はそのせいで緊張していたのです。
左京と樹里は夕食をすませ、樹里は瑠里に授乳します。
ゲップをさせてしばらく休んでから、いよいよ瑠里をお風呂に入れる事になりました。
「左京さんは先にお風呂に入っていてください。後から瑠里を連れて行きます」
樹里が言いました。
「え?」
鼻血を垂らす左京です。何を想像したのでしょうか?
そして左京は服を脱ぎ、先に浴室に入りました。
湯加減を見ます。赤ちゃんには熱いお湯は厳禁です。
「冬は四十度くらいがいいらしいな」
いつも熱めの湯に浸かっている左京には物足りませんが、それも可愛い瑠里のためです。
「準備できたぞ」
左京は声を上ずらせて言いました。
「はい」
樹里ははしゃぐ瑠里をバスタオルで包み、浴室に入って来ました。
「おお……」
緊張が高まる左京です。
「さあ、瑠里、パパと一緒にお風呂ですよ」
樹里が笑顔で瑠里を左京に渡します。
瑠里も嬉しいのか、キャッキャと騒いで左京に抱かれました。
左京は慎重に瑠里を抱えると、ゆっくりと浴槽に下ろします。
ちょっとびっくりしたのか、瑠里の動きが止まりました。
「熱いのかな?」
左京は心配になって樹里を見ました。
「大丈夫ですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
やがて瑠里はお湯が心地いいのか、また騒ぎ始めます。
「さあ、パパが奇麗にしてあげるぞ、瑠里」
左京はまた慎重に瑠里を持ち上げ、浴槽から出ます。
樹里が見ているので、何となく恥ずかしい左京ですが、
(以前下の世話をされた時、さんざん見られたからな)
妙な思い出に耽る左京です。
左京は赤ちゃん用の石鹸をハンドタオルで泡立て、優しく瑠里を洗います。
そして随分生え揃って来た髪の毛も洗いました。
耳の中に水が入らないように更に慎重になる左京です。
「奇麗になったな、瑠里」
左京は全行程を終了してホッと一息吐きました。
「じゃあ、ママも一緒に入りますね、瑠里」
樹里がそう言ったので、左京は冗談だと思って浴槽に戻りました。
「え?」
目の前に裸の樹里が現れ、かかり湯をすると湯船に浸かりました。
「ちょっときついですね、左京さん」
樹里は笑顔全開ですが、左京は上せ全開一歩手前です。
(今夜、眠れるかな……)
左京は垂れそうになる鼻血を啜りながら思いました。
めでたし、めでたし。