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樹里ちゃん、ドラマの出演者の顔合わせにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、五反田氏のライバルの渋谷栄一と言うジイさんが、五反田氏を亡き者にするために佐藤と名乗る加藤を差し向けて来ました。


 偶然佐藤と名乗る加藤を案内した樹里の無意識の活躍で、佐藤と名乗る加藤は撃退されました。


 邸に殺し屋が現れた事を知った樹里の不甲斐ない夫の杉下左京は寿命が縮みそうになりました。


「樹里も瑠里も心配だ」


 そう言ってついて行こうとしましたが、


「大丈夫ですよ」


 樹里に笑顔全開で拒否され、落ち込みました。


 何故ならその日は、あの上から目線の推理作家である大村美紗原作の推理ドラマ「メイド探偵は見た」の出演者の顔合わせがあるからです。


 左京は樹里と瑠里を守るのにかこつけて、芸能人に近づこうと企んでいたのです。


「一度でいいから、女優に会いたかった」


 左京がボソリと呟くと、


「そうなんですか」


 樹里が笑顔全開で応じました。左京はギクッとして、


「いや、別にその、何だ、下心はなくてだな……」


 体内の水分のほとんどが汗で流れ出てしまいそうな左京です。


「行って来ますね、左京さん」


 樹里は笑顔全開で瑠里と共に迎えの車に乗りました。


「ううう……」


 一人残され、悲しみに打ちひしがれる左京です。


 チョイ役の樹里にお迎えの車が来るのは不思議なのですが、樹里は五反田邸のメイドなので、失礼があっては一大事とプロデューサーが気を利かせたのです。


 同様に、樹里の親友の船越なぎさにも迎えが来ました。


 彼女はメイド探偵役のオーディションを受け、見事に主役の座を得ました。


 実は五反田氏となぎさが親友だという情報が流れ、ディレクターとプロデューサーが決めたのです。


 芸能界はコネで成り立っているのです(嘘です  作者)。


 


 樹里を乗せた車がテレビ局に到着しました。


 樹里は先に来ていた五反田氏と美紗に出迎えられました。


「ようこそ、樹里さん」


 相変わらずの上から目線で言う美紗です。


「よろしくお願い致します、大村様」


 樹里は深々とお辞儀をし、美紗と五反田氏を慌てさせます。


「赤ちゃんを抱いたままでそんなに深くお辞儀をしなくてもいいよ、御徒町さん」


 五反田氏が言いました。


「はい、旦那様」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里!」


 そこになぎさが現れました。


「では失礼します」


 美紗はなぎさを視界に入れないようにしてその場を立ち去ってしまいました。


 五反田氏は美紗がなぎさを嫌っている事を感じているので、苦笑いします。


「あら、叔母様がいたはずよね?」


 なぎさは美紗がいないのに気づいて言いました。


「大村さんは打ち合わせがあると言っていたよ」


 五反田氏が答えました。


「そうなんだ。六ちゃんはいいの、打ち合わせ?」


 なぎさは五反田氏に尋ねました。


 五反田氏の事を「六ちゃん」と呼べるのはなぎさだけです。


「私はなぎさちゃんと御徒町さんを見に来ただけだよ」


 五反田氏は微笑んで応じました。


「そうだよね。六ちゃんは偉い人だから、打ち合わせなんてしないよね」


 なぎさはケラケラ笑って言いました。


 五反田氏はまた苦笑いです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 そこへ遅れて、なぎさの恋人である片平栄一郎がやって来ました。


「お久しぶりです、五反田さん」


 栄一郎は息を切らせて挨拶しました。


「お待ちしておりました、船越様、御徒町さん。どうぞこちらへ」


 プロデューサーとディレクターが現れました。


「五反田様もご一緒に」


 樹里達は二人の案内で出演者達が集まる会場に向かいました。


 


 その会場では、美紗が他の出演者と歓談していました。


 出演者達は美紗原作のドラマに出してもらうために媚びへつらっています。


 揉み手のし過ぎで指紋がない人もいるそうです(嘘です  作者)。


「主役の船越なぎささんが到着されました」


 その声で、会場の視線が入り口のドアに集中します。


 美紗はそそくさと会場を抜け出しました。


 とことんなぎさが嫌いな美紗です。


 ドアがディレクターによって開けられ、なぎさが入って来ました。


 会場がどよめきます。


 普通なら、演技の経験がないなぎさを嫉む人がいそうですが、なぎさはスポンサーの五反田氏と親友で、原作者の美紗の姪ですから、誰も彼女に嫉妬したりしません。


 むしろ擦り寄ろうとしている人がほとんどです。


「おお!」


 その時、樹里が授乳を開始しました。


 会場内の男共の視線を釘付けです。


 女性達が白い目で見ています。


「あ!」


 樹里の顔を見て叫んだ人がいました。


 それは、かつて樹里をグラビアデビューさせた有海ありうみ範人のりと氏でした。


 彼はプロモーションの会社を辞め、映画会社に転職しており、メイド探偵の製作スタッフになっていました。


(まさかと思っていたが、これは運命だ)


 有海氏は人混みをかき分け、樹里に近づきました。


「久しぶりだね、御徒町さん」


 有海氏は笑顔で声をかけました。


「どちら様ですか?」


 樹里は全く覚えていませんでした。有海氏は樹里の事を多少知っているので、そのくらいでは怖じ気づきません。


「私ですよ」


 彼は樹里に名刺を差し出しました。


「ああ、ゆうかいはんにんさんですか」


 樹里は笑顔全開で言いました。


(同じボケかよ)


 有海氏は顔を引きつらせて思いました。


「これは運命だよ、御徒町さん。またグラビアの世界で活躍しないか?」


 有海氏は樹里を説得します。


「いいですよ」


 樹里があっさり快諾したので、拍子抜けする有海氏です。


「抜け駆けは許さないよ、有海さん」


 そこへ別の製作スタッフ達が近づきます。


 ドラマは複数の製作スタッフが関わっているのです。輪番制なのです。


 たちまち樹里の周りに人だかりができます。


「何よ、あれ?」


 それを面白くなさそうに見ている女優がいました。


 メイド探偵がいる邸の女主人役の高瀬たかせ莉維乃りいのです。


 彼女は、なぎさが主役に決まったのは納得しましたが、樹里がチヤホヤされるのは面白くないようです。


(只のメイドでしょ、あの女。芸能界の怖さを思い知らせてあげるわ)


 莉維乃はニヤリとしました。

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