樹里ちゃん、忘年会に参加する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
今日も愛娘の瑠里を抱いて、出勤です。
「おはようございます、樹里さん」
住み込みメイドの赤城はるなが挨拶しました。
「おはようございます、はるなさん」
もうすっかり樹里が言い間違えなくなったので、はるなも脱力しませんし、警備員さん達もはるなのパンチラ目当てで近づいたりしません。
「樹里さん、先日は首領がお騒がせしました」
はるなは樹里と玄関に近づきながら小声で言います。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「もう盗みはやめたのかと思っていたんですけど、続けているんですね。何か悲しいです」
寂しそうに言うはるなを見ても、樹里は笑顔全開です。
「そうなんですか」
はるなは苦笑いして、
「結局、首領とヌートさんて、もうそういう世界から抜け出せないんですかね」
「どうでしょうか?」
樹里は首を傾げて言いました。
「まあ、そんな事より、今日は警備員さんや庭師さん達と忘年会なんですけど、樹里さんも出席しませんか?」
はるなが言うと、樹里は、
「今日は居酒屋でお仕事です。母が産休中で、忙しいのです」
「ああ、大丈夫ですよ。忘年会はその居酒屋ですから、仕事しながら参加しちゃってください」
はるなも笑顔全開で言いました。
「そうなんですか?」
樹里は驚いたようです。
実ははるなが、忙しい樹里のために場所をそこにしたのです。
「祐樹も来ますし、旦那さんも呼んでありますから」
「ありがとうございます、はるなさん」
樹里が涙ぐんだので、はるなも泣きそうです。
「大した事じゃないです」
照れるはるなです。
そして、仕事を終え、樹里とはるなは揃って居酒屋に向かいます。
「お疲れ、樹里」
門のところで夫の杉下左京が待っていました。
目黒祐樹も待っていました。
「左京さん」
「祐樹」
二人はそれぞれのパートナーと寄り添い、歩きます。
途中で、加藤警部と宮部ありさも合流しました。
「おお、お前ら、本格的に付き合う事にしたのか?」
左京がからかうと、ありさが、
「蘭みたいにあぶれたくないからね」
と酷い事を言います。
「いやあ、宮部ってさ、案外可愛いんだよ、いろいろと」
加藤警部が惚気ます。
皆でワイワイ騒ぎながら居酒屋に到着すると、
「待ってたわよ」
水無月葵と黒川真理沙がいました。はるなは仰天しました。
「しゅ、じゃなくて、水無月さん、黒川さん」
はるなは思わず泣いてしまいました。
「元気だった?」
「はい」
更に驚いた事に、蘭と平井拓司警部補がいます。
「ええ!?」
一番驚いているのはありさです。
「私、貧乏くじ引いたのか……」
「誰が貧乏くじだ!」
加藤警部が怒りました。
「あぶれてなくてごめんね、ありさ」
蘭はニヤリとして言いました。
「あははは」
ありさは笑って誤魔化しました。
「地獄耳だな、蘭は」
左京が唖然とします。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で授乳中です。
「おお!」
加藤警部と警備員さん達と庭師さん達と平井警部補までが叫びました。
「もう、うるさい人達ね、本当に。クリスマスくらい、静かにお祝いしなさいよ」
更に居合わせた樹里の親友の船越なぎさが言いました。
「あー、いやいや、なぎささん、今日はまだクリスマスじゃありませんから」
恋人の片平栄一郎が言いました。
「ええ? そうなの? でも店員さん達、サンタさんの格好をしてたよ」
なぎさが言います。確かに従業員はサンタルックです。
但し、以前樹里が着ていたような超ミニスカートではありません。
それでも、わざとものを落として覗き込むバカはいます。
「ご注文、承ります」
樹里の従妹の鴬谷翠がサンタルックで登場し、また男共がどよめきました。
翠は樹里そっくりだからです。
「はるなもここで働いていたんだっけ?」
祐樹が囁きました。はるなは恥ずかしそうにして、
「うん」
「見たかったな、はるなのサンタさん」
祐樹が言いました。はるなは真っ赤になりました。
「厨房に行きますね」
樹里は眠っている瑠里を左京に預けました。
「おう」
左京は嬉しそうに瑠里を抱きました。
「今日は無礼講でね」
葵が蘭にお酌します。
「わかってるわよ。次は逃がさないわよ」
蘭はフッと笑って言います。
「お待たせ致しました!」
樹里と翠とそして厨房に先に詰めていた璃里が同時にサンタルックで登場し、一同大盛り上がりです。
「遅くなりました……」
そこへ入って来た璃里の夫の竹之内一豊氏が璃里の姿を見て仰天しました。
「いらっしゃいませ」
璃里は竹之内氏が抱いている実里に言いました。実里は笑顔全開です。
めでたし、めでたし。