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樹里ちゃん、G県にゆく

 俺は杉下左京。警視庁の警部補だった。


 今、俺はG県M署にいる。しかも副署長として。


「閑職だよ」


 そんな事を聞いていたので、骨休め気分で来た。


 ところがだ。


 とんでもなかった。


 とてつもない仕事量だ。今まで特捜班でサボっていたツケが回って来た感じだ。


 俺は生まれてこの方、この日ほど判子を押し、自分の名前を書いた日はない。


 指にはタコができそうだし、右手は腱鞘炎になったかと思う程痛かった。


 ようやくその日の業務を終え、誰も待つ者がいない寮に向かった。


 普通副署長クラスなら、運転手つきの車があってもよさそうなのだが、昨年で廃止になったそうだ。


 それならついでに「副署長」も廃止にしてくれれば良かったのに……。


 俺はそんな愚痴を呟きながら、トボトボと暗い夜道を寮に向かって歩いた。




 寮に到着して気づいた。


 誰もいないはずの俺の部屋に明かりが点いている。


 どういう事だ?


 俺は走った。まさかとは思うが、泥棒か?


 思えば鍵を閉めた覚えがない。


 いろいろな事を想定しながら、俺はドアを開いた。


 鍵がかかっていない。やばいぞ。寮長に知れたら、大目玉だ。


「誰かいるのか?」


 そっとドアを閉じ、中の様子を伺う。


 何故かうまそうな匂いがする。


 一体誰だ?


 俺は奥のダイニングキッチンへと進んだ。


「お帰りなさい、杉下さん」


 その声と姿に、俺は唖然とした。


 嫌な記憶が呼び覚まされる。あれは確か、士似神村しにがみむらの女神湖……。


「な、何であんたがここにいるんだ?」


 そこにいたのは、御徒町おかちまち樹里じゅりとその妹三人だった。


 樹里は相変わらずの笑顔で、


「寮長さんが鍵を開けてくれたので」


「そんな事を聞いているんじゃない!」

 

 そうか、鍵は閉め忘れていなかった、と妙な事にホッとしてしまう。


「杉下さんに会いたくて、ここまで来ました。ご迷惑でしたか?」


 ……。


 俺は気を失いそうなくらいの衝撃を受けた。


 樹里が俺の名前を覚えてくれた。


 いや、そこに感動したんじゃない!


「杉下さんに会いたくて、ここまで来ました」


に感動したんだ。という事は?


「ここに居させて下さい。妹達も一緒に」


「え?」


 衝撃の展開だ。あの亀島が知ったら腰を抜かして一生入院だろう。


 俺ははっきりわかった。


 俺は樹里が好きだ。いや、愛している。


 もう、隠す事はない。正直に言える。


 樹里が告白してくれたんだから、俺も嘘偽りのない言葉で答えるべきだ。


 ただ、妹達は少々邪魔だが。


「そ、そうか。お、俺に会いたくて来てくれたのか」


「はい」


 樹里は眩しいくらいの笑顔で答えた。


「仕事が見つかったら、すぐに出て行きますから」


「あ、そ、そうなの」


 でも嬉しい。樹里と暮らす。


 夢に見た事はないが、想像もしなかった事だ。


「やっと、俺の名前を覚えてくれたな」


「はい」


 樹里の笑顔は最高だ。ざまあ見ろ、亀島! お前の負けだよ!


 俺は得意の絶頂だった。


 

 といいところで、まずはこれにて。

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