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樹里ちゃん、いろいろと応援する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も愛娘の瑠里をベビースリングで抱いて、元気に出勤です。


「おはようございます、樹里さん」


 住み込みメイドの赤城はるなが挨拶しました。


「おはようございます、はるなさん」


 最近、樹里が名前を間違えなくなったので、嬉しいような寂しいようなはるなです。


 警備員さん達もズッコケるはるなのパンチラを期待しているようで、ガッカリしています。


「樹里さん、今日は祝日なので、早上がりさせていただきます」


 はるなは照れ臭そうに言いました。


「そうなんですか。亀島さんとデートですか?」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「違いますよ、樹里さん。祐樹さんとです」


 はるなはギクッとして言いました。


(亀ちゃん、以前、私に気があるような事を言ってたから、ビックリした……)


 嫌な汗がたんまり出たはるなです。


 


 樹里達が庭掃除をしていると、はるなの交際相手の目黒祐樹が来ました。


「こんにちは、樹里さん」


 祐樹は樹里に挨拶し、


「今日も可愛いね、はるな」


とはるなに言いました。


「ありがとう、祐樹」


 二人はすでに呼び捨てし合う仲のようです。


「ま、まだキスしてませんから!」


 はるなが思わず勇み足です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ははは」


 祐樹は照れ臭そうに笑いました。


「すみません、樹里さん、私、これで上がります」


 はるなは掃除を終えると、普段着に着替えて言いました。


「楽しんで来てください」


 樹里ははるなを送り出しました。


「祐樹お兄様が来たの、樹里さん?」


 そこへ五反田氏の一人娘の麻耶が現れました。


 麻耶は先日、クラスに好きな子ができたと強がりを言ったのですが、本当はボーイフレンドはいないのです。


 まだ祐樹に未練があるみたいです。


「はい。はるなさんとデートだそうです」


 樹里は容赦のない笑顔で応じました。


「そうなんだ」


 麻耶は寂しそうに笑います。そして、


「あ、そうだ、瑠里ちゃんに会いたいんだけど、大丈夫、樹里さん?」


「はい、大丈夫ですよ」


 樹里は掃除道具を片づけてから、麻耶を瑠里の所に連れて行きました。


 


 育児室のベッドで、瑠里はスヤスヤと眠っていました。


「可愛い、瑠里ちゃん。やっぱり、お母さんに弟か妹、産んで欲しいなあ」


 麻耶はまた寂しそうに笑います。


 樹里は、麻耶の母親の澄子さんが、虚弱体質で、もう出産は無理なのを聞かされています。


 どうしたものかと困る樹里です。


 その時、瑠里がパッと目を覚まし、泣き出しました。


「わあ、ごめん、瑠里ちゃん」


 覗き込んでいた麻耶が驚いて身を引きました。


「お腹が空いたのですよ」


 樹里は瑠里を抱き上げ、授乳を始めます。


「うわあ、樹里さん、おっぱい大きいなあ。お母さんより、ずっと大きい」


 麻耶は全く悪気がありませんが、澄子さんが聞いたら寝込んでしまうでしょう。


「そうなんですか。赤ちゃんを産むと、大きくなるのですよ。麻耶お嬢様のお母様もそうだったと思いますよ」


 樹里は言いました。澄子さんが聞いたら、涙を流して喜ぶでしょう。


「私も早く大人になって、結婚して赤ちゃん産みたいなあ」


 麻耶は勢い良くおっぱいを飲む瑠里を見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じます。


 瑠里がまた眠ったので、樹里は瑠里をベッドに寝かせます。


 その時、玄関のドアフォンが鳴りました。


 樹里は育児室に備え付けられた受話器を取りました。


「どちら様でしょうか?」


「僕、麻耶ちゃんの同級生の市川はじめです。麻耶ちゃんはいますか?」


 樹里は麻耶を見ました。麻耶はとても嬉しそうに笑いました。


「いるよ、はじめ君! 入って来て」


 樹里から受話器を受け取り、笑顔全開で答える麻耶です。


「うん」


 はじめは通話を切ると、警備員さんに門を開けてもらって、玄関まで来ました。


「いらっしゃい、はじめ君!」


 麻耶がドアを開けて迎えると、


「お、お邪魔します」


 顔を赤らめて入るはじめです。


「僕んち、貧乏だから、難しいかも知れないけど、頑張るから、付き合ってください!」


 はじめは更に顔を赤くして告白しました。


 小学四年生にしてそこまで考えているとは、将来有望です。


「喜んで」


 麻耶がそう答えてはじめの手を握ったので、はじめは失神しそうでした。


「良かったですね」


 樹里は笑顔全開でそれを見ていました。


 


 一方、デートに出かけたはるなと祐樹は、映画を観ていました。


 恋愛映画です。気分を盛り上げるためにはるなが選びました。


 周囲を見ると、暗いのをいい事にあちこちでカップルがキスしています。


「はるな……」


 祐樹がはるなの手を握りました。


「は、はい」


 はるなは思わず目を閉じ、唇を突き出しました。


「映画終わったよ、はるな」


 ハッとして目を開けると、もう場内は明るくなっていて、自分の間抜けな姿をみんなに見られたと気づくはるなです。


(は、恥ずかしい……)


 はるなは真っ赤になって駆け出します。


「待って、はるな!」


 祐樹は慌てて追いかけました。


 二人が入ったのは、ショッピングモールの中の映画館でしたので、はるなは歩行者回廊ペデストリアンデッキを走って行きました。


「はるな!」


 祐樹が非常口の前でようやく追いつき、はるなの手を取ります。


「私……」


 はるなは目を潤ませて祐樹を見上げました。


「はるな、好きだよ」


 祐樹は周囲に人がいないのを見て、はるなにキスしました。


(ああ、祐樹……)


 はるなは恍惚としました。


「今日はキスするって決めてたのに、僕が躊躇してしまって……。ごめん」


 そしてはるなを優しく抱きしめる祐樹です。


「祐樹……」


 はるなも祐樹を抱きしめました。


 


 麻耶ははじめを自分の部屋に連れて行き、話をしているようです。


 樹里は二人のために紅茶を入れ、冷蔵庫にあるホールケーキを切りました。


「失礼致します」


 樹里が声をかけると、


「は、はい!」


 妙に慌てた様子で、麻耶がドアを開けました。


 はじめは真っ赤な顔をして床に正座していました。


「頑張ってください、お嬢様」


 樹里は中には入らず、麻耶にトレイを渡します。


「ありがとう、樹里さん」


 麻耶も照れ臭そうに言いました。


 樹里はニコッとしてドアを閉めました。


 


 そして、出かけていた澄子さんが帰る頃には、はじめはそそくさと邸を去っていました。


 さすがに告白して初日にお母さんに会うのは辛いようです。


「麻耶、寂しくなかった?」


 澄子さんは麻耶にお土産を買って来ていました。


「ううん、全然。ね、樹里さん?」


 麻耶があまりにも嬉しそうなので、首を傾げる澄子さんです。


「何があったの、樹里さん?」


 澄子さんが樹里に聞こうとしたのを見て、


「ああ、お母さん、お土産何?」


 麻耶が慌てて遮り、澄子さんを奥に連れて行ってしまいました。


 


 樹里はその日の仕事を終え、瑠里を抱いて五反田邸を出ました。


「樹里さん、お願いがあります」


 そこへ突然亀島馨が現れました。相変わらずよくわからない行動です。


「はい」


 樹里は笑顔全開で応じます。


「私は、キャビーさんの事が好きです。結婚したいと思っています。仲を取り持ってくださいませんか?」


 亀島は、以前樹里命だったのを忘れたかのように調子のいい事をお願いします。


「はるなさんは、目黒祐樹さんと付き合っていますから、諦めてください」


 樹里は笑顔全開で答えました。


「ええ!?」


 亀島は婚約指輪まで盗んで持って来ていたので、仰天しました。


「そうなんですか」


 樹里の口癖を真似て、亀島は去りました。


「お気をつけて」


 樹里は肩を落としている亀島に言いました。


(畜生、目黒祐樹め、私のキャビーさんを横取りして……)


 亀島は逆恨み開始です。どんどんダメキャラになっていきます。


(いつか奪い返してやる)


 そもそもはるなは亀島と何もありませんから、横取りとか奪い返すとかおかしいです。


「うるさい!」


 亀島は地の文に切れ、闇に消えました。


 波乱の幕開けでしょうか?


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