樹里ちゃん、名付け親になる
御徒町樹里は日本で五指に入る大富豪の五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
先日、母親の由里が高齢にも関わらず、三つ子を出産しました。
樹里は夫の杉下左京と共に毎日仕事終わりに実家を訪れています。
「悪いわねえ、樹里。あんたも瑠里がいて大変だろうに」
由里は三つ子を器用に抱いて二人を出迎えました。
「お母さんは三つ子ですから」
樹里は笑顔全開で応じます。
「ところで、どうして俺も一緒に来てくれって言われたんですか?」
左京が瑠里を樹里から受け取りながら尋ねます。
「この子達の名付け親になって欲しいのよ」
由里は笑顔全開で言いました。ギクッとする左京です。
「お、俺がですか?」
左京は樹里と顔を見合わせました。
「それは、ご主人と相談して決めた方が良いのでは?」
左京は苦笑いして言いました。すると由里はニコッとして、
「もしかすると、左京ちゃんがパパだったかも知れないんだから、左京ちゃんにつけて欲しいの」
「ええ!?」
とんでもない事を言い出す由里です。左京は仰天してしまいました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開です。
(樹里、今の衝撃発言、何とも思わなかったのか?)
左京は樹里のリアクションにも驚きました。
(やっぱり、御徒町一族は特殊だ……)
左京の顔が引きつります。
「ダメかな?」
由里はちょっと老けていますが、樹里そっくりの笑顔で小首を傾げました。
「何だって!?」
由里は地の文の悪口を聞き逃しませんでした。
すみません、以後気をつけます。
左京は困り果てて樹里を見ます。
「どうしたらいい、樹里?」
左京は小声で訊きました。
「つけてあげてください。私の妹達ですから」
樹里は言いました。
「ああ、そうか」
三つ子は樹里の歳の離れた妹達なのだと改めて思う左京です。
「あ、そうそう、一応決まり事があるから言っとくね」
由里が言いました。左京は由里を見て、
「樹里から瑠里の名前をつける時に聞いてます。必ず『里』をつけるんですよね」
「正解! よろしくね、左京ちゃん」
由里はウィンクしました。左京はギクッとして、
「は、はい」
と応じました。
樹里は瑠里に授乳し、家の片づけを始めました。
「左京ちゃんは名前を考えてね」
「あ、はい」
ソファに座って瑠里をあやしながら、左京は名前を考えるために辞典を借りました。
「よこっこいしょっと」
由里が向かいに座り、ドンとマシュマロと呼ぶには大き過ぎるものを取り出して、授乳を始めました。
「ぶ!」
左京はそれを見てしまい、仰天しました。
「お、お義母さん、丸見えです」
左京は俯いて言いました。
「あら、左京ちゃんと樹里しかいないんだから、いいじゃない?」
由里は気にしていないようです。歳を取ると羞恥心が薄れて来ます。
「いちいちうるさい!」
由里はまた地の文に切れました。
「それにね、女性の授乳をそんな目で見るなんて、不謹慎よ、左京ちゃん」
そう言いながらも、由里は流し目で左京を見ています。
「お母さん、これは捨てていいの?」
樹里が大きなゴミ袋に入ったゴミを持って来ました。
「捨てていいよ。捨てていいから、ゴミ袋に入れてあるのよ」
由里は樹里を見て言いました。
「そうなんですか」
樹里はゴミ袋を持って部屋を出て行きました。
「ほい、交代」
三つ子なので、一人あぶれている子がいます。それを器用に入れ替える由里です。
左京は名前を考えようとしますが、目の前で巨乳が動いているので、気が散って集中できません。
(ううう……。無理だ、何も考えられない)
邪な左京には、由里の巨乳は刺激的過ぎました。
「お母さん、何してるの!?」
そこへやって来た璃里が言いました。
「何って、授乳よ」
由里は悪びれずに言います。
「それはわかってるけど、左京さんがいるんだから、隠してよ」
璃里はそう言いながら由里の巨乳をハンカチで蔽いました。
「左京さんも、別室に行くとかしてください」
璃里は左京にも注意しました。
「あ、そうですね、すみません」
そこに思い至らなかったのは、左京が邪だからです。
「左京ちゃんは悪くないよ、璃里。私が後から授乳を始めたんだから」
由里が言うと、璃里は、
「そ、そうなの?」
と焦り、
「私、早とちりして、ごめんなさい、左京さん」
ウルッとした目で言われ、照れる左京です。
「いやあ……」
すると樹里がまた入って来て、
「お母さん、夕ご飯は何にする?」
「夕ご飯はもう食べたよ。あんた達まだなら、何か出前でも取って。お金は私が払うから」
由里が財布を取り出します。
「私達はアパートに帰って食べますから大丈夫です。お姉さんは?」
樹里は璃里を見ました。
「私もすませて来たから大丈夫よ」
璃里は樹里の様子がおかしいのでビクッとして答えました。
「左京さん、妹達の名前、思いつきましたか?」
樹里が尋ねます。左京は頭を掻いて、
「いや、それがまだ全然……」
「そうなんですか」
樹里は真顔で言いました。そしてメモ用紙を差し出し、
「私も考えてみました」
と言うと、また部屋を出て行きました。
「あ、ありがとう……」
鈍感な左京も、樹里の様子がおかしいのに気づきます。
「おお」
メモには三人の名前の案が書かれていました。
(紅里、瀬里、智里か。これでいいんじゃないか?)
左京は樹里のアシストに感謝しました。
そして、左京と樹里は由里の家を出ました。
今夜は璃里が泊まる番です。
「樹里、ごめんな、心配させて」
眠っている瑠里を抱いて歩きながら左京が言います。
「そうなんですか?」
樹里は不思議そうに左京を見上げました。
「でも、ちょっと嬉しかったよ、樹里がヤキモチ妬いたみたいだったから」
左京が言うと、樹里は少し顔が赤くなったようです。
「ヤキモチなんか妬いてませんよ」
「そうなんですか」
左京は樹里の口癖で返し、彼女にキスしました。
めでたし、めでたし。




