樹里ちゃん、はるなと祐樹の仲を取り持つ?
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
そうは言いながらも、母親の由里と結婚した西村夏彦さんの居酒屋を手伝ったりしています。
今日も樹里は不甲斐ない夫の杉下左京に見送られ、五反田邸に行きました。
「おはようございます、樹里さん!」
住み込みメイドの赤城はるなが挨拶します。
「おはようございます、はるなさん」
樹里はようやくはるなの事を「キャビーさん」と呼ばなくなったようです。
決して作者が飽きた訳ではありません(飽きました 作者)。
「あの、お話があるんですけど、樹里さん」
何故かモジモジして言うはるなです。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じます。
「瑠里、はるなさんがお話してくれるそうですよ」
樹里は眠っている瑠里を起こします。
「えーと、そういうお話じゃないです」
はるなが苦笑いして言います。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
取り敢えず、樹里は瑠里に授乳をします。
はるながそのマシュマロに驚くのはいつも通りです。
二人はキッチンで洗い物をしながら話をしました。
「お話って何ですか、はるなさん」
樹里が食器洗い機にお皿を入れながら尋ねます。
はるなは洗い終えた食器を戸棚に片づけながら、
「この前いらした目黒祐樹様の事なんですけど」
とまたモジモジしながら言います。
「祐樹様ですか?」
樹里はキョトンとしています。
「警備員さんに聞いたんですけど、祐樹様は以前樹里さんの事が好きで、告白したそうですね?」
さすが元泥棒です。情報収集能力が高いですね。
「そうなんですか?」
樹里は祐樹に告白されたと思っていないようです。
「え? されていないんですか?」
樹里の反応に気づき、はるなはビックリします。
「はい。されていませんよ」
樹里は笑顔全開です。はるなは密かに祐樹を哀れみました。
(あの人、気づいてももらえないで撃沈したのか……)
「そ、それじゃあ、私が祐樹様に告白しても構わないですよね」
はるなは思い切って言ってみました。
「いいと思いますよ」
樹里は笑顔全開で言いました。そして、
「でも、麻耶お嬢様も祐樹様の事が好きみたいですよ」
いきなりの衝撃発言に固まるはるなです。
(麻耶ちゃんがライバル……?)
世紀末覇王より手強そうです。
(雇い主のお嬢さんと男を取り合うって、立場的にどうなんだろう……)
今日は五反田氏の奥さんの澄子さんと娘の麻耶ちゃんは学校の遠足で朝早く出かけており、今はいません。
「でも、麻耶お嬢様と祐樹様では歳が違い過ぎて……」
はるなは言い掛けてハッとします。
(確か、樹里ちゃんと旦那さんて一回り以上歳が違うんだっけ)
「麻耶お嬢様はクラスの男子にも好きな子がいるみたいです。はるなさんが遠慮する必要はないですよ」
樹里が言いました。
「そうなんですか!」
思わず喜ぶはるなです。
(よし、頑張ってアタックだ!)
はるなは燃えて来ました。
その頃、ドロントが全然出没しなくなったため、実質解散状態のドロント特捜班の班長である神戸蘭は、元の職場の捜査一課に戻っていました。
「神戸」
そこに脱獄囚が現れました。
「違う!」
脱獄囚ではなく、捜査一課の鬼警部である加藤真澄でした。
名前と顔にギャップがあって笑えます。
「うるせえ!」
立て続けに地の文に切れる加藤警部です。
「何、キャバ嬢に振られた加藤君?」
仕事がなくてイライラしている蘭が尋ね返します。
「振られてねえよ! あいつは男だったんだ!」
加藤警部は真っ赤になって怒ります。
「同じでしょ? 何の用? お金なら貸さないわよ」
更に追い討ちをかける蘭です。
加藤警部はキャバクラ通いが過ぎて、借金をしていました。
「誰がお前なんかから借りるか、蟻地獄女め!」
蘭の容赦のない返しに遂に加藤警部も武器を使いました。
「な、何よ、それ? どういう意味?」
何故か赤くなって立ち上がる蘭です。
「平井に聞いたんだよ。神戸警部は激し過ぎて、身が保たないってな」
加藤警部は魔王のような顔で言いました。
蘭はあまりのショックに何も言い返せません。
「そんな事より、これを見てくれ」
いきなり真顔で蘭にあるチラシを渡す加藤警部です。
「え?」
ようやく我に返って、蘭はそのチラシを見ました。
「そのチラシは、杉下が事務所を開いている付近で配られたものだ」
加藤警部が言いました。すると蘭は、
「何だ、加藤君、まだありさの事が気になっているの?」
とチラシの写真に写っているありさを見せます。
「あいつとは何でもねえよ!」
樹里の出産祝いに偶然同時に現れてから、蘭は事ある毎に加藤警部と宮部ありさの仲を疑っています。
「宮部はともかく、一緒に写っている二人の女が問題なんだ。杉下の話じゃ、ドロントらしいぞ」
加藤警部の言葉に蘭はギョッとしました。
「何ですって!?」
思わず加藤警部の襟首を捩じ上げている蘭です。
「く、苦しい……」
脱獄囚がもっと怖い顔になって、もがきます。
「確かにこの二人の姿形、似ているわね、あの一味と」
蘭は、そこに写っている水無月葵と黒川真理沙を睨みつけました。
その水無月探偵事務所には、平井拓司警部補が来ていました。
水無月葵ことドロントが声をかけて連れ込んだのです。
「首領、どうするつもりなんですか、あの人を?」
給湯室で真理沙ことヌートが尋ねます。
「もちろん、誘惑しちゃうんのよん」
ドロントは嬉しそうに言います。
「でも、あの人は神戸警部の恋人ですよ」
ヌートが言いました。するとドロントは、
「わかってるって。だからこそ、誘惑するのよ」
「でも無理だと思いますよ」
ヌートが言うと、ドロントはムッとして、
「何でよ?」
「神戸警部は巨乳ですよ」
ヌートの言葉に真っ白に燃え尽きそうになるドロントです。
「あの、そろそろ戻らないといけないのですが?」
平井警部補が声をかけました。
「ああ、ごめんなさいね、平井さん」
ドロントは即座に復活し、平井警部補の隣に座ります。
「いや、あの……」
平井警部補は近過ぎるドロントの顔に焦ります。
(この人、奇麗だ……。神戸さんより奇麗だ……)
案外簡単に落ちそうな気配の平井警部補です。
「私と付き合ってくださらない、平井さん?」
ドロントは平井警部補の右手を両手で包むように握ります。
「はい」
落ちたようです。ドロントはニヤリとしました。
(コーヒーに何か入れたな、首領は)
それを呆れて見ているヌートです。
樹里とはるなが庭掃除をしていると、祐樹が現れました。
祐樹は何故か両手を後ろに隠しています。
「祐樹様、いらっしゃいませ!」
はるなが元気良く挨拶します。
「いらっしゃいませ、祐樹様」
樹里も笑顔全開で挨拶します。
「こんにちは、はるなさん、樹里さん」
祐樹も爽やかな笑顔で言いました。
(ああ、私の名前を先に呼んでくれた!)
心の中で大喜びのはるなです。
そして意を決します。
「祐樹様、今お付き合いされている方はいらっしゃいますか?」
はるなは顔を赤らめて尋ねました。
「いえ、いませんよ」
にこやかに返す祐樹です。はるなは目を見開き、
「じゃ、じゃあ、私と付き合ってくださいませんか?」
「はい」
即答されたので、固まってしまうはるなです。
「僕も先日貴女にお会いして、一目惚れしてしまいました。今日はお付き合いの申し込みに来たんです」
祐樹は隠していた花束をはるなに渡します。
「ホントにホントですか?」
ようやく復活したはるなが涙ぐんで尋ねます。
「もちろん本当ですよ。こんな僕で良かったら」
祐樹はまた爽やかな笑顔で言いました。
「良かったですね、はるなさん」
樹里が言うと、
「うわああん、嬉しいですゥ、樹里さん!」
はるなは樹里に抱きついて号泣しました。
めでたし、めでたし。
「俺、出番なかった……」
杉下左京は事務所で項垂れていましたとさ。