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樹里ちゃん、左京にお願いする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日もベビースリングで愛娘の瑠里を抱き、出勤します。


 最近、ようやく瑠里も父親の杉下左京に慣れたようで、彼を見ても泣かなくなりました。


「良かった……」


 今度は左京の方が泣きそうでした。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「行って来ますね、左京さん」


 樹里はアパートを出ました。


 左京はたびたび、


「五反田邸まで送るよ」


と言うのですが、


「大丈夫ですよ」


と樹里に言われてしまいます。


 樹里と瑠里の事がとても心配なので、気が気ではない左京です。


(樹里も瑠里も可愛いから、変な奴が変な事を考えて変な場所に連れて行こうとするかも知れない)


 左京は変な事を考えていました。


 


 樹里はいつものようにJR水道橋駅で総武線に乗り、新宿駅に向かいます。


 朝のラッシュを避けるため、樹里は六時に家を出ています。


 そして新宿で小田急線に乗り換え、成城学園前駅で降ります。


 途中ですれ違う女子高生達が、


「可愛い!」


と瑠里をあやしてくれます。


「ありがとうございます」


 樹里が深々とお辞儀をするので、女子高生達は慌てます。


「危ないよ、お母さん!」


 どう見ても自分達と大して違わないように見える樹里を、


「苦労しているのね」


と勝手に悲劇のヒロインにしている女子高生達です。


「きっと、旦那がロクでなしなのよ」


 口々に囁きます。それは当たっているかも知れません。




 こうして樹里は成城の高級住宅街の中でも飛び抜けて広大な敷地を有する五反田邸に到着しました。


「おはようございます」


 樹里は警備員さん達に挨拶しながら邸の庭を歩きます。


「樹里さん、おはようございます」


 もう一人のメイドの赤城はるなが駆けてきました。


 彼女は住み込みメイドです。


「おはようございます、はるなさん」


 樹里は笑顔全開で言いました。ちょっとだけ肩透かしを食らった気分のはるなです。


(樹里ちゃんの思考パターンがわからない)


 樹里は瑠里に授乳して、ベビーベッドに寝かせると、仕事を始めます。


 まずは五反田家の朝食です。


 早朝出勤が多い五反田氏はすでにいませんが、奥さんの澄子さんと娘の麻耶ちゃんがいます。


 今までは朝寝坊がちの麻耶ちゃんでしたが、瑠里が来るようになってから、早起きができるようになりました。


 朝食を素早くすませると、麻耶ちゃんはベビーベッドに眠る瑠里を見に行きます。


「可愛いなあ、赤ちゃん。私も早く赤ちゃん欲しいな、お母さん」


 麻耶ちゃんは他意なくそう言ったのでしょうが、澄子さんは仰天したようです。


「な、何言ってるの、麻耶。貴女はまだ早いわ」


 澄子さんは引きつった笑顔で言いました。


 五反田氏がいたら、びっくりして倒れていたかも知れません。


「麻耶は嫁には出さん。婿を取る」


 常々親バカぶりを発揮している五反田氏なのです。


「じゃあ、妹か弟が欲しいな」


 また麻耶ちゃんの無邪気な提言に澄子さんはビクッとしました。


「そ、そうね、お父さんに相談してみるわ」


 つい本音で言ってしまう澄子さんです。


「どうしてお父さんに相談するの? 赤ちゃんはお母さんが産むんでしょ?」


 麻耶ちゃんは目を見開いて尋ねました。


 更に顔を引きつらせる澄子さんです。


「お嬢様、赤ちゃんが産まれると、いろいろと必要なものがあるのです。ですから、お母様はお父様に相談されるのですよ」


 樹里が見事な助け舟です。


「そうなんだ」


 麻耶ちゃんはすっかり納得して、学校に行きました。


「ありがとう、樹里さん。私、まだまだ母親として幼いわね」


 澄子さんが言いました。


「そうなんですか? そのような事はないと思いますよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(さすが、樹里ちゃんね)


 はるなも感心しました。




 澄子さんも五反田グループの役員の奥さん達の会合に出かけました。


 見送りをすませ、庭掃除に取りかかる樹里とはるなです。


「はるなさんには、好きな人とかいないのですか?」


 樹里が唐突に訊きました。はるなはギクッとしましたが、


「今はいません。田舎にいた時は、付き合っていた人がいましたけど」


と頬を染めて答えます。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(ああ、泥棒稼業から卒業したんだから、恋をしたいなあ)


 昔ありましたね、そんなドラマが。


「お久しぶりです、樹里さん」


 そこにイケメンが現れました。


「いらっしゃいませ」


 でも樹里は覚えていないようです。イケメンは苦笑いして、


「お忘れですか? 目黒祐樹ですよ」


と言いました。


 そう、樹里に告白して撃沈し、どこかに行ってしまっていた目黒祐樹です。


 また懲りずに樹里を口説きに来たのでしょうか?


「お子さんが産まれたと聞いて、お祝いの品をお持ちしました」


 祐樹はトラック一台分の紙おむつを持って来たのでした。


「ありがとうございます、祐樹様」


 樹里は深々とお辞儀しました。


「こちらは?」


 祐樹ははるなを見て尋ねました。


「赤城はるなです、現在彼氏募集中です!」


 はるなは身を乗り出して自己紹介しました。


「そ、そうなんですか」


 若干引き気味で応じた祐樹です。恋の予感でしょうか?


 


 やがて樹里は仕事を終え、アパートに帰りました。


 左京が既に戻っており、夕ご飯の支度をしています。


「お帰り、樹里」


 味噌汁の味見をしながら、左京は言いました。


「只今帰りました、左京さん」


 樹里は笑顔全開で言いました。


 左京の料理の腕も向上し、樹里が、


「美味しいです」


と言ってくれるようになりました。


 普段は優しい樹里ですが、料理に関しては厳しくて、


「ダメです、この出汁のとり方では」


と言う程でした。左京は進歩したのです。


 


 夕食がすみ、後片付けを終えて瑠里を寝かしつけた時、


「左京さん、お話があります」


 樹里が言いました。何故かドキッとしてしまう左京です。


(離婚の話じゃないよな……?)


 樹里は笑顔なので、何の話か読めない左京です。


「瑠里も大きくなって来ましたし、そろそろどうかなと思っています」


「え?」


 何の事かわからない左京です。


「もう一人、作りませんか、私達の子供を」


 樹里が言いました。左京は危うく鼻血を噴きそうです。


「も、もう一人?」


 そして現状に不安があるのを思い出し、大丈夫だろうかと心配になります。


「いや、もう少し間をおいた方が良くないか? 大変だろう、樹里が?」


 左京は樹里の身体を心配して言いました。


「そうなんですか」


 樹里は悲しそうです。それを見てまたドキッとしてしまう左京です。


「五反田様のお邸の麻耶様は、お一人でお寂しそうでした。やっぱり、子供にはきょうだいがいた方が良いのではないかと思ったのです」


 樹里はウルウルした目で左京を見ます。左京はもうそれにノックアウトされてしまいました。


「わかった、是非作ろう!」


 左京はいきなり服を脱ぎ始めます。


「左京さん、今日はダメです。今度の日曜日がいいと思います」


 樹里が言いました。


「そ、そうか」


 妙に残念そうな左京です。


(別に子作りのためだけじゃなくても……)


 エロ左京でした。


 


 めでたし、めでたし。

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