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樹里ちゃん、瑠里と共に仕事に復帰する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 只今、育児休暇中で、娘の瑠里と共に実家である母親の由里の家にいます。


「そろそろ辛くなって来たわ」


 由里も妊娠しており、十一月に出産予定です。四十路なので、高齢出産ですが、璃里、樹里、真里、希里、絵里と五人も産んでいるのでベテランです。


 出産には不安はないのですが、やはり高齢なので、体力的にきつくなるのが早いようです。


 父親である西村夏彦氏は、居酒屋を従業員に任せて駆けつけていました。


「由里たん、大丈夫か?」


 西村氏は、由里を気遣っています。


「ええ、大丈夫よ、夏たん」


 二人はバカップルのような会話をかわします。


「という訳だから、私はもう産休に入ります」


 由里は照れ笑いをして樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「左京ちゃんの事務所も暇そうだし、璃里も育児が一段落したみたいだから、また二人で居酒屋を盛り立ててよ。みどりちゃんだけだと、厳しいでしょ?」


 相変わらず調子のいい由里です。翠は樹里の従妹で、樹里の代わりに居酒屋で働いています。


「わかりました」


 樹里は二つ返事で承諾しました。そして西村氏を見ると、


「居酒屋は璃里お姉さんに応援してもらわなくても私と翠ちゃんで大丈夫です」


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖を真似てしまう西村氏です。


 こうして樹里は、早くも職場復帰です。




 居酒屋で働き始めるのに、メイドの仕事を休むのはまずいと考えた樹里は、五反田氏に連絡しました。


「ええ? もう復帰するのかね、御徒町さん?」


 五反田氏は驚いているようです。


「はい。もう大丈夫ですよ」


「そうか。御徒町さんが大丈夫なのなら、是非お願いしたいのだが」


 五反田氏は言いました。樹里は更に、


「瑠里を連れて行ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、もちろんだよ。すぐにベビーベッドや必要なものをあつらえよう。ほとんどは娘の麻耶のもので足りるだろうがね」


 五反田氏の心遣いに樹里は、


「ありがとうございます、旦那様」


とお礼を言いました。


 


 樹里は、翌日、五反田邸に行きました。


 樹里が瑠里を連れて来ると聞いている警備員さん達は全員集合して、門の前で待っていました。


「おおお!」


 そしてスヤスヤとベビースリングの中で眠る瑠里を見て感動する警備員さん達です。


「可愛いですね」


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「樹里さーん!」


 見習いメイドの赤城はるなが手を振りながら駆けて来ます。


「ああ、キャ……」


「私ははるなです、樹里さん!」


 どうせ違う事を言われるのだろうと思っても突っ込むはるなです。


「ああ、キャビーさん、ドロントさん達はお元気ですか?」


 はるなはスッテンと転びます。そして、また警備員さんにパンツを見られました。


「そのままですか!」


 でも、久しぶりに樹里と会えて嬉しいはるなです。


「有栖川さんと黒川さんはここを辞めました。有栖川さんはアメリカへ、黒川さんはイギリスへ行きました」


 はるなはそう言いながら涙ぐみます。ドロント一味ははるなことキャビーの更生を願い、彼女だけ五反田邸に残して去ったのです。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。はるなはちょっとだけ引いてしまいましたが、


「わあ、可愛い!」


と眠っている瑠里を見て叫びます。その途端、瑠里が目を覚まして泣き出しました。


「ああ、ご、ごめんなさい、樹里さん」


 はるなはオタオタしましたが、


「お腹が空いたのですね」


と樹里は言い、さっと授乳を始めました。


「うおお!」


 警備員さんは樹里の手際の良さと、チラッと見えた「マシュマロ」に感動しました。


「わあ」


 はるなはおっぱいを飲む瑠里の様子を見て感動しています。


 やはり女の子は反応が違うのです。


(にしても、樹里ちゃん、おっぱいがでかい!)


 樹里が隠れ巨乳なのを知って少しだけショックなはるなです。


「ああ、そうだ、ベビーベッドを客間の一つにしつらえましたから、赤ちゃんはそこに寝かせてください」


 はるなは思い出したように言いました。


「そうなんですか」


 樹里は授乳を終えて、笑顔全開で言いました。


 


 瑠里をベッドに寝かせ、樹里は早速はるなと共に仕事を始めます。


「いいのですか、ここに残って?」


 二人きりになった時、樹里が突然言いました。はるなはビクッとしましたが、


「な、何の事ですか、樹里さん?」


と惚けます。樹里は笑顔全開で、


「ドロントさん達とお別れして、いいのですか?」


「あ……」


 樹里に尋ねられて、はるなは思わず涙してしまいます。


「樹里さーん、私も寂しいんだよお! でも、首領とヌートさんが優しくて……」


 はるなは樹里に抱きついて泣きじゃくりました。


「そうなんですか」


 樹里も心なしか、涙ぐんでいるようです。


「でもね、はるなさん、私は思うのです」


 樹里は真顔で続けました。


(樹里ちゃんの真顔、初めて見た気がする……)


 はるなは何故か感動しました。


「生きていれば、またきっと会えます。そして、ドロントさんとヌートさんも、きっと泥棒さんをやめていると思いますよ」


 樹里ははるなの手を握って言いました。はるなはキョトンとして、


「どうしてそう思うんですか?」


 すると樹里はまた笑顔全開になり、


「きっと探偵事務所を開業していると思いますよ」


「はあ?」


 意味不明なはるなです。完全に内輪ネタです。


 


 その頃、不甲斐ない夫の杉下左京は、あるチラシを見て唖然としていました。


「み、水無月探偵事務所ォッ!?」


 それは女性スタッフのみの探偵事務所のチラシです。


 そこには、見覚えのある顔の女性が写っていました。


 グウタラ所員の宮部ありさです。何故かベテラン探偵となっています。


「そう。そこで働く事にしたから、辞めるわ、ここ」


 ありさは笑顔全開で言いました。


「おい、ここの所長、何か見覚えないか?」


 人の顔をすぐに忘れる左京に言われ、ありさは、


「はあ? 何訳のわかんない事言ってんのよ? バッカじゃない」


と言い捨てると、事務所を出て行きました。


 左京はありさが辞める事に関しては全く異存はないので、引き止めませんでした。


「おかしいなあ。絶対にこの女、会った事があると思うんだけど」


 左京が見ているありさと一緒に写っている女性はドロントとヌートです。


「住所は……」


 よく見ると、目の前のビルです。


「何ーッ!?」


 驚いて窓の向こうを見ると、手を振っている女性がいます。


「貧乳、てめえ、何でそんなとこで探偵事務所開いてるんだよ!?」


 左京は窓を開けて怒鳴りました。するとドロントらしき女性がフッと笑って、


「さあねえ」


と肩を竦めて惚けました。


「うおお! どうなっちまうんだ、俺の事務所は?」


 左京は項垂れました。


 


 めでたし、めでたし。


「めでたくねえよ!」


 地の文に突っ込む左京でした。

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